8話「ゴブリンとハウンドとレベルアップと」-1


「はあ、はあ、はあ」


 全力で階段を駆け上がる。

 あと少しで出口だ。


「っはあ、はあ、追いかけて来てっ、ないよな」


 ようやく出口に到着する。

 膝に手を当て立ち止まる。かなり苦しい。

 全力ダッシュはもう限界だ。


「やべえ、後少しで捕まるところだったわ」


 本当に後少しだった。

 ブラックハウンドが見える前から全力で走ったのだが、相手は犬系のモンスターだ。走りで勝てるわけない。

 1階層への階段の手前で一瞬噛みつかれかけたが、間一髪の処で階段に転がり込めた。そのまま、1階層まで駆け上がったのだが、ブラックハウンドは追ってこなかった。

 半信半疑だったが、深い層のモンスターは浅い層に上がってこれないだろう予想は的中した。上がって来る途中に一瞬だけ振り向いたが、ブラックハウンドは階段の手前で吠え続けていた。

 もう大丈夫だと思ったが、一応1階層まで上がっておいた。念には念をだ。


 安心して座り込む。


「あの数は一旦逃げて正解だったよな。流石に作戦を立てないと」


 まだゴブリンを数体しか確実に倒せる自信がない。その中で複数体に囲まれたら一巻の終わりだ。

 しかし、どうするか。

 一撃で倒していくしか考えられない。


「うーん……ん?」


 何か聞こえる。階段側でなく奥の方からか。


「ごぅぁぁぁぁ」


 ゴブリンだ。

 奥から2体向かって来る。


 この階のゴブリンは倒した筈なのだが。


「あ、なるほど。リセットされるか、時間か」


 多分だが2階層に降りたことでリセットされたか、時間によって増えていったか。

 どちらでもいいが、もしかしてこれは経験値稼ぎにはなるんじゃないか?


 数メートル先にゴブリンが居る。剣を構えながら立つ。


「ラッキーだな」


 ゴブリンには残念だが、経験値の糧になってもらおう。ゴブリンなら2体同時でも捌けていたからな。

 体力は回復している。


「ちょっと違うこともしてみるか」


 駆け出す。とにかく先手を取る練習だ。カウンター狙いでは遅いと感じた。


「まずは。おらあぁぁぁぁ」


 1体目に横薙ぎで当てる。ゴブリンは飛ばされながら血飛沫を上げる。今回は斬る事に成功したようだ。


「この調子、で、もう、一体!」


 仲間が飛ばされた事に戸惑って居るゴブリンには蹴りを入れる。


「ぐきゃ」


 ダメージはそんなにだが、怯ませる事に成功する。そのまま間髪入れず横薙ぎ。

 一応連撃は成功し、2体のゴブリンを倒した。


「うん、割とありだな。武器だけで一撃で倒すのは流石にずっとは難しいだろうし、体術を組み入れながら戦おうか」


 ゴブリンはもう確実に倒せるだろう。


 先程通りならあと1体いる筈。


「ちょっと歩こう」


 ゴブリンを探しに歩き出す。まぁ、道も直線だからすぐに出て来ると思うが。


 しかし、独り言が多くなったな。新しい出来事ばかりだから話さずにはいられないのか。驚きばかりだ。


 っ! いた!


 少し歩いたところでゴブリンがうろついていた。

 次はゴブリンの攻撃を避けてみようと思う。


 落ちている手頃な石を拾い上げ、ゴブリンに投げつける。


「お、当たった」


「ごぅぉぉぉぉぉ」


 石を当てられたゴブリンが吠える。そのままこっちに向かって走って来る。


 剣で受けるか、避けるか。避けたほうが後に繋げやすいな。しっかり見極めろ。


「ぐぎゃぁぁ」


 ゴブリンの突進。

 爪でも牙でもないただの突進は避けやすい。

 これまでもカウンターを当てていたんだ、避けられる。


 右に避ける。追撃はせずゴブリンの様子を見る。

 ゴブリンは避けられた事で体制を崩すが、そのままこっちを見る。


 爪での攻撃。

 左から右への単純な攻撃は避けられる。

 少しバックステップを踏み、避ける。


「ん。これぐらいら余裕だな」


 避けるのはもういい。構えていた剣をいつも通りに横に振る。同じ繰り返しの攻撃は命中率を上げる。最後のゴブリンも倒せた。光の粒となって消えていく。


「慣れたな。この調子で経験値を……」


『レベルがレベル2に上がりました』


 頭の中に言葉が流れる。この不意な言葉にも慣れてきた。


「んっ!ここでレベル上がったか」


 レベル1になった時に感じなかった体に違和感がある。


「少し体が軽く感じる」


 体の軽さ。少しの変化だがそれだけで高揚する。レベル1の時はあまり感じなかったから余計思う。

 やっぱりレベルが上がったと感じれば嬉しくなる。これのためにダンジョンに潜ったみたいなものだし。


「てことは、このまま2階層に再チャレンジしてみるか。次は行けそうな気がする」


 レベルが上がって楽観視してるわけではないはず。


 その気持ちのまま再び2階層に降りて行く。





 目の前に3体のブラックハウンドがいる。後ろには2体のブラックハウンドがいるが、光の粒となり消えそうだ。


「このままなら、行ける」


 噛み付くように1体ブラックハウンドが走って来る。それを避ける。そのままそいつは置いておき、奥の1体に駆け出す。

 一撃では仕留め切れていない手負いを先に潰す。

 しかし、無視されたと思った最初の1体が方向転換をし飛びかかる。

 その瞬間後ろを振り向く。


 それは格好の獲物だ。飛んだなら方向は変えられない。

 飛びかかったブラックハウンドに向かい剣を横に振る。


「はあぁぁぁぁ!」


 斬りとばす。

 綺麗にヒットした剣はそのままブラックハウンドを吹き飛ばす。

 光の粒になるのを見届けず、残り2体に向き直す。手負いの方は足を攻撃しており、動けない。もう1体の方が飛びかかって来る。

 足元を狙った攻撃に対しそのまま蹴り上げる。蹴り飛ばすことはできないが少しでも動きを止めれたら上出来だ。

 動きが止まった隙に斬りとばす。


 僕の攻撃は大体が横薙ぎだ。縦真っ二つにしてしまうと割とグロいからだ。それは置いといて、


 残った最後の1体に向かう。

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