7話「モンスターとの初接触」-2


「ふぅ、ぎり倒せたな。危なかった」


 剣を地面に刺し体重をかけながら一息つく。

 周りを見渡してもゴブリンは出てこない雰囲気だ。


「それと、今回も素材は無しか」


 素材が出なかった事が少し残念に感じる。


「んー。よし、とにかく1階層は終わらせようか」


 そのまま休憩はせずに奥に向かって歩き出す。休憩するなら2階層に入る入り口前でと思ったからだ。


「っと、気合いを入れたんだけどなー」


 少し歩いたところ奥の方に赤い光が見える。

 見渡したところゴブリンもいない様だ。


「2階層の入り口は階段なのか」


 目の前にある下りの階段を眺める。本当に潜る感じのだろう。


「思っているより疲れてるのは確かか。うーん、少し休憩してから降りるか。モンスターも出そうにないしな」


 その場に腰を下ろしポーチから水を出す。量が限られているから節約して飲む。


「にしても剣って難しいな。切る行為をしても切れない、切り傷は付けられるけど切り裂けない。難しい」


 剣をまじまじ見ながら考える。慣れれば切り裂ける様になるだろうから深くは考えていないが。


「もうそろそろ行きますか」


 言いながら立ち上がる。向かうは2階層。そのまま階段を降りていく。







「で、変わらないと」


 階段を降りた先も変わらず洞窟内の景色だった。

 が、聞こえる音は違う。奥から微かに聞こえる音は獣の鳴き声らしきもの。これはオオカミっぽい。


 気を引き締めながら進んでいく。


「ぐるるるるるるるる」


 奥から出てきたのは犬の様な狼の様なモンスター。見た目はかなり凶悪だ。


「割と怖いなこいつも。

 多分なんとかハウンドっていうんだろな。うーん、ブラックハウンドと呼ぼう」


 わかりやすい様に勝手に名前を付ける。


 思っているよりも凶悪な顔にびびる。しかし、相手は1対。これはラッキーと思うしかない。戦いやすい。

 剣を下段に構える。


 まずはゆっくり近づきながら相手の出方を見る。


 途端、ブラックハウンドは走り出した。先手を取られたが元々カウンターを狙うつもりだ。自分で動くより当てやすい。それにゴブリンより速いが、そこまで速いスピードではない。ぎりぎり目で追えるレベルだ。


 よく見て狙う。逃さない様に。


「っ!」


 目の前、後少しで届きそうな時ブラックハウンドは方向転換した。

 素早い動きはブラックハウンドを一瞬見失わせた。


「っな! くそ!」


 死角に移動したブラックハウンドの横からの攻撃を咄嗟に剣でガードする。ガードするが威力は伝わる。飛び掛かられたまま押し倒される。


「ぐあっ……」


 背中に衝撃が走る。

 油断はしていたわけではない、ただ動きに慣れていなかっただけだろう。


「がる、ぐるる、があ」


 ブラックハウンドが上で暴れ出す。咥えられている形で、口は剣で防げているがピンチだ。


 思ったよりもでかい。中型犬より少し大きいか。力も強く腕だけでは振り切れない。


 このままだとやられる。


 咄嗟に足を胴体に滑り込ませ蹴り上げる。


「っ、ぎゃん」


 綺麗に決まったことで、ブラックハウンドが後方に飛ぶ。

 すぐに立ち上がり剣を構える。


 ブラックハウンドはすでにこちらを向いている。ダメージはなさそうだ。


「くそ、死にかけたぞ。まじか、怖え」


 今の攻防に冷や汗が流れる。今までしたことなかった命のやり取り。ゴブリン戦では無かった命の危機。一瞬だが行動することに躊躇する。


「がおぉぉぉぅぅぅぅ」


 ブラックハウンドの雄叫び。

 そのままブラックハウンドはこっちの様子を伺っている。

 咆哮というわけではないのか。まさか、仲間を呼んだ?

 

 やばい、やばい。1体だけでもやばいのに、数体相手は無理だ。


 落ち着け、落ち着けよ。まずは他が来るまでにこいつを倒すべきだよな。僕のスピードでは逃げ切れないし。いくしかない。


「はあああああああ」


 気合いを入れ叫びながら走り出す。剣は横薙ぎの構え。一撃で仕留めるつもりで。


「がおおおおおおおう」


 それに応えるようにブラックハウンドも咆哮し向かって来る。


 落ち着け。一度あったことは二度食らうな。


 思った通り目の前でブラックハウンドが方向転換する。


「らああああああ」


 右に転換したブラックハウンドを見定め、剣を振り抜く。


「ぎゃうっ」


 確実にヒットした横薙ぎはブラックハウンドに大きなダメージを残した。


 吹き飛ばされたまま、動かない。光の粒にっていないということはまだ生きてるってことだ。走り出す。


「く、うおおおお」


 剣を突き刺す。最後の一撃。

 ブラックハウンドはそのまま光の粒となって消えた。


「はあ、はあ、はあ。やばかった」


 肩で息をする。ゴブリンの時とは違う、確実に命が危なかった。


「流石にこの経験は怖いわ。一旦落ち着こ……」


「ぐるるるるるるるる」

「ぐぁうぅぅぅぅぅ」


 奥から響く複数の唸り声。


「そうだった、仲間呼ばれてたんだったよな」


 背中に伝う冷や汗。

 徐々に唸り声は近づいて来る。


「どうする……」


 選択肢は決まっている。この距離ならまだ間に合うと思う。

 行動は、


「逃げる」


 そのまま後ろの元来た道を、入り口に向かい走り出した。

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