6話「モンスターとの初接触」-1
「あれは、ゴブリンだよな」
目の前で仁王立ちでいるのは、いわゆるゴブリンと言われているモンスターだろう。最弱といえば某ゲームのスライムが代表だが、人型といえばゴブリンだろう。コボルトもか。どっちが最弱なんだろうか。まあ、それはいいとして。
実際は妖精の部類に入ることもある。
言葉を発するか発さないかで分かれているのか、大体はモンスターとして扱われているのが多い。
今回は後者の方で、しかも見た目は動物寄りだと思う。というかかなり怖い。
猿の方が人に近い見た目をしている。それほど人には程遠い見た目をしている。ただ二足歩行の人型なだけなのだろう。
しかしまあ、これは問題だ。初のモンスターがゴブリンというのは正直かなりきつい。
ゲームでは躊躇せず倒すのだが、リアルならそうはいかない。
ダンジョンに憧れてはいたが、僕も普通の人間だ。狩猟など動物も殺したことのない一般の人間が倒す、つまり動物を殺すということは倫理的に嫌悪感を抱くだろう。しかも人型だからな。
実際に相対して見ると、はっきり言って怖い。
こういう風にゴブリンを観察しているのも、距離がかなり空いているから。それとゴブリンが一向に近づいてくる気配がないからだ。
こう眺めているだけであれだが、
「チュートリアルステージてなんやねん」
本当にゲームみたいな仕様だ。もしかするとエルフ達との言葉が違うから、訳すとこういう意味だっただけなのだろうか。
しかし、こう考えているだけではただ時間が過ぎていくだけだし、もうそろそろ行動しようと思う。
少しある怖さを噛み締め剣を構える。
一歩前進する。
「ゴゥァァァァ……」
ゴブリンがゆっくりと動きだす。
やっぱり怖さはある、が少しずつ慣れてくる。
ゴブリンの動きを見ながら距離を詰めていく。
ゴブリンは何も持っていない、素手だ。大丈夫いける。
後5メートルぐらい近づいたところ、急にゴブリンが走り出した。
「っお!」
変な声が漏れる。
別にゴブリンは動かないと言っていない、ただ自分の間合いになったから動き出したのだろう。距離が詰まる。
動きはそこまで早くない、普通の動物の速さだ。犬と変わらないスピードなら、目で追える。
「落ち着けよ……」
腰を落とし、カウンター気味にゴブリンの行動に合わせ、剣を横薙ぎに振る。
「グギッ……」
無事に剣はゴブリンに当たり、吹き飛ばす。
その反動で自分もよろめく。
ゴブリンは飛ばされたまま動かない。
「思ってるよりあっけないな」
ゴブリンに近づきとどめを刺そうと剣を振り上げる。
大体ここでゴブリンの反撃があるのだが、それもなくそのまま剣を突き刺す。するとゴブリンが光の粒となり消えていく。
「あぁ、こういう倒れ方か。マジでゲームだな」
光の粒を見ながら呟く。
『レベルがレベル1に上がりました。初のモンスター討伐によりダンジョンに適用されます。レベルの上昇に伴いステータスが上昇します』
突如頭に直接声が聞こえる。レベルが上がった? まじか……、それにレベル制なのか。
「本当にゲームみたいだな、おい」
というか、元々はレベル0だったわけか。
手を握ったり開いたりしながら自分の体を確認する。ステータスが上がったと聞こえたのだが、そこまで変わらない気がする。
しかし、ここまでゲーム制が強いということは、
「素材とかは出ないのかな?」
そう思っていると、ゴブリンが元いた場所に何か落ちている。
「あるな。うーん、これは牙かな。調べる手段がないからわからないけど。あー、牙って実際に見るとそんなにいい感じはしないな。ゴブリンだからか?」
そう思いながら拾い上げたゴブリンの牙らしきものをポーチに入れる。
あっけない終わりに少し残念さが残るが、無事に終わったことに安心する。
『チュートリアルステージのクリア条件を満たしました』
再び、頭に直接流れる様に言葉が聞こえた。
すると初めに立っていた場所の方がが青く光る。
「なるほど、これで戻る感じなのね」
入り口らしき場所に向かう。
「さて戻りますか。防具とか揃えないといけないし、色々聞きたいこともあるからな」
しかし、このゴブリンで一般の人は戸惑うのだろうと思うが、倒せなくはない。しかも倒した後の後味は別に辛くない仕様だ。
どうして冒険者の数が少ないのか。稼げないからが理由ではないだろうし。
少し疑問が残りながらも青い光をくぐる。
◇
一瞬の白い光にまぶしさを感じたが、目を開ける。
目の前に広がるのは先ほどと変わらない洞窟の景色だ。
「……は? どういうこと」
てっきりこのまま元のゼロ階層に戻るのだと思っていたのだが、周りは何も変わらない洞窟の景色。
『プレステージ1階層。このまま5階層までクリアしてください』
頭に流れる言葉に驚く。
「……まじか」
あのチュートリアルステージが終わればチュートリアルが終わりで戻れるのだと思っていたのだが、一旦休憩というわけではないらしい。普通なら本ステージに行くために色々準備が必要なのだが、ここはそういう仕様ではないという事だ。
しかし、この状態で5階層まで行くのは骨が折れそうだ。
まあ、実はこの状態には納得がいっている。ほとんどのダンジョンに潜った人がすぐに辞める理由が、思っているよりきつかったという事だったのだろう。
あとここで死んだかだ。この装備で5階層まで進むのは難儀だと思う。そして、最後にはボスではないが、小ボスぐらいの何かがいるはずだろう。で、そこで殺されるか、それまでに諦めてしまうという感じだな。諦めた場合はどうやって戻るのだろうか。
洞窟の奥を見る。1階層は1本道の様で楽に進めそうだ。
「よし、進むか」
奥に向かって歩き出す。すぐに奥から1体ゴブリンが出てきた。
「さっき通りにすれば、いけるだろ」
剣を持ち直し、今回は走り出す。
先手必勝、横薙ぎでゴブリンに当てる。
「グギッ……」
見事当たりゴブリンを吹き飛ばす。
「やっぱりゴブリンは雑魚と定義付けてもいいのかな」
ゴブリンが光の粒になる。
チュートリアルから合わせての2体目もあっけなく倒せた事に安心して前進する。
「お、次は2体同時か」
奥から出てくる2体のゴブリン。そいつは先程と変わらず武器は何も持っていない。
「1体ずついけば大丈夫。落ち着けよ、俺」
深呼吸して剣を構え駆け出す。それに合わせて1体ゴブリンも駆け出す。それでも早くはない。
「このゴブリンはアグレッシブだっ、な!」
先程と同様に横薙ぎをするか、当たりが浅かったのかその場でよろめくだけだ。
「っ、あっ」
2体目も向かってくる。
一撃で倒せなかったのは痛い。
「落ち着けよ、落ち着け、俺」
自分に言い聞かせる。1体目はまだ動こうとしない。なら、そのまま2体目を倒す。
「うおおおおお」
気合いを入れるように叫び、2体目を攻撃する。
叫んだ事に戸惑ったのかゴブリンの動きが一瞬停止する。
その隙を狙い横薙ぎで吹き飛ばす。
飛ばしたゴブリンは置いておき、1体目に向き直る。ゴブリンは走って来ていた。
「ゴギャァァァァ」
落ち着いて剣を横に振り切る。綺麗に決まった横薙ぎはゴブリンを吹き飛ばす事に成功する。
そのまま飛ばされた2体のゴブリンは光の粒になり消える。
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