5話「エルフとダンジョン」-2

「失礼します。もう一度改めて……

 わたくし、エルフのシルクと申します。この度、冒険者様のアシストを任されております。ご質問などは全て私にお申し付けください」


 決まっているのだろう文言をなぞる様に話す。


「では、本説明の前に冒険者様、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「名前ですか。あ、もしかして身分証明書とかもいります?」


「いえ、名前だけで大丈夫です。といいますか、このダンジョンには何も持ち込めませんので、そういう物は出せないはずですが」


 その言葉にポケットを探る。

 ポケットの中にはスマホも入っていなかった。そのついでに自分自身をまじまじと見る。

 ダンジョン内の光景に意識を奪われていたためか、何も考えていなかった。自分の見た目すらも。


「……服装が変わっていますね」


 着ている服は全く違うものだった。元々はスーツ姿だったのだが、ゲームで見る初期の服装みたいになっていた。


「今お気づきになられたのですね。

 ご存知だと思いますが、ダンジョンには何も持ち込むことができませんので。そして、ダンジョン内ではダンジョン専用として、初期装備が自動で付与されています。

もちろん、ダンジョンで生きていくためにですね」


「そうなんですか」


 服がどこに行ったとか、どういう理屈なのかはわからないが、ダンジョンが様々な仕様を創り出しているのだと再確認する。

ファンタジーの世界にいるのは事実なので全てを受け止める準備はできている。


「で、僕の名前ですよね。

 奥山俊と言います。よろしくお願いします」


 名前をいい、少しお辞儀をする。するとシルクもお辞儀を返してくれた。


「ありがとうございます、オクヤマシュン様」


 そう言いながら俺に向かい両手を伸ばす。すると、青白い光が僕を包んだ。


「これでダンジョンに仮のあなたの情報が登録されましまた。ありがとうございます」


 シルクは両手を戻し、お辞儀をする。


 青白い光、テンプレだな。全体的にダンジョンで起こることはテンプレだと感じる。見たまんまダンジョンだとわかる塔の形。案内人がエルフの女性。そして、服装。


「では早速ですが、武器を選んでください。剣、槍、斧、弓。この4つからお願いします」


 4種類の武器、テンプレだ。

 どこから出しているのか、武器が次々と地面に置かれる。

 これアイテムボックスだよな、夢がある。


「おすすめは、オクヤマシュン様の見た目からすると槍ですね」


 そう言いながら槍を拾い上げる。手渡してくれそうだが、自分が選ぶものは決まっている。


「やっぱこれですね」


 剣を拾い上げる。思っているより軽く感じる。ワクワクが錯覚させるのか。実際は十分重いのだが。


「やっぱり、皆さん最初は剣を選びますね。種族の違いでしょうか。ちなみにエルフは弓を即決します」


 シルクは持った弓を少し引きながら言う。


「まあ他の人もそうだと思うんですけど、僕的には一番使いやすいのは剣だと思うので。他の理由はやっぱり、剣が一番かっこいいと思いますしね」


 そう言いながら剣を少し振ってみる。やっぱりあまり綺麗には振れない。あと、やっぱり重かった。


「では、あとこれを」


 剣で少し遊んでいると、ポーチを渡される。


「その中にはダンジョン内で必要だと思われる最低限の物が入ってます」


 ポーチの中を見てみると2つの小瓶と水筒らしき入れ物、そして固形の食料らしき物が入っていた。


「回復薬とかですよね」


「そうです。ポーション類と最低の食料ですね。後々食料などは自分で調達するか、ここゼロ階層で購入することができますので。もちろんダンジョンからの持ち出しはできませんが。

 あ、すみません。ここの名前はゼロ階層と言います。このダンジョンの始まりの階層ですね」


 ダンジョン内に何も持ってこれない時点でここで調達するしかないのだが。で、ここがダンジョン内でのスタート地点という事がわかった。しかし、ゼロ階層で調達といってもここは僕とシルクしか居ない殺風景な場所なのだが。


「では、準備が整ったということで早速行きましょうか」


 シルクは話しながら歩き始める。

 ダンジョン内に入ってから気になっている奥の青い光の場所に向かう、たぶんあれが入り口だろう。というか、中々遠いな。無駄に広い空間だし。

 そう思いながらシルクの後をついて行く。


「今から行ってもらう階層を最後までクリアできれば一旦ここに戻ってきます。クリア出来なくても戻ってきますが、そうなればもうダンジョンに潜れませんので、ぜひクリアしてくださいね。全く違う世界を堪能できると思います」


 光の元に到着する。近づくとわかるが、その光は下から吹き出る様に光っている。その青い光の前に立つ。


 装備は剣だけだ。防具などは後で調達するのだろうか。


 ん?

 ふと横を見る。少し向こう側にも階段なのか、入り口らしきモノがあるが、


「では、改めまして」


 考え中にシルクに声をかけられ反射的に振り向く。

 僕は入り口を背にしてシルクの方を向いている。

 シルクは両手を広げ話し始める。


「ダンジョンへようこそ、冒険者様! このダンジョンでは大きな力を得ることができます。そして今、私達の国は魔物達に支配されようとしております。冒険者様の力でどうかお救いください。

 では、ダンジョンの攻略の健闘とご武運をお祈りしております」


 シルクの言葉を聞き、入り口の方を向く。まるでゲームの様だ。しかしその言葉には、より気持ちを奮起させる力があった。


 ではこれから、ダンジョン生活を始めようか!


 そして、一歩踏み出す。

 ふと、何かを感じ後ろを振り向く。


 微笑みながら手を振るシルク。その手は微かに青色を帯びていた様に見えた。そして祈る様に、


「…………生きて戻ってこれるように……」


 かすかに聞こえた言葉に違和感を感じたが気にすることなく。前を向く。

 そして、僕は入り口に足を踏み入れる。





『チュートリアルステージ〜始まりのダンジョン〜』


 不意に頭に流れる言葉。


 入り口に入った瞬間、視界が切り替わった。


 目の前に広がるのは学校の体育館ほどの広さの洞窟の様な場所。


 そこに1人、いや1体立っている。


 良くゲームで見る様なモンスター。


「やっぱ、テンプレ」


 雑魚の代名詞と言われている人型のモンスター。


 ゴブリンが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る