1-05

「それでクラスの連中もひどいんだ! 他人事だと思ってさぁ。文化祭で僕が女装なんてしてたら、父さんたち今度こそぶっ倒れちゃうよ!」


 放課後、わたしは駅前の喫茶店〈ドネラ・メドウズ〉にいました。


 先ほどからわたしの向かいで愚痴を零しているのは、わたしの弟・深堂院凛です。緩やかにウェーブした栗色の髪、年のわりに童顔ではあるものの整った顔。我が弟ながらなかなかの美少年です。わたしとは折り合いのよくない継母の連れ子で、血のつながりはないのですが、昔から奇妙に馬が合い、よく一緒に遊んでいました。

 しかし考えてみれば、これだけの美少年と一緒にいながら、凛のことを男性として意識したことは不思議とありませんでした。

 わたしは今一度、凛の顔をつくづくと眺めてみます。


「……? どしたの、姉さん。僕の顔なんて見つめちゃって。ははぁ、ついに僕に惚れちゃった?」


 そう言って凛は前髪をかきあげてみせます。その動作はなかなか板についてはいるのですが、何分ナルシスト的な匂いが先に立ちますので、女性が惹かれるかどうかは微妙なところです。先ほどの文化祭の女装喫茶の話も、愚痴と見せかけた自慢話だったのかもしれません。黙ってさえいれば、女性の保護欲をそそる愛くるしい顔立ちをしているのですが。

 まあ、性格がこれですから、殿方としては難が多く、わたしがそういう対象として意識しなかったのは至極当然のことではあります。


「何を馬鹿なことを言っているのですか。それより、今日は何か話があったのでは?」


 凛からの着信があったのは放課後まもなくのことでした。

 凛はとある事情で実家を逐い出されて一人暮らしをしていますし、わたしは全寮制のセント・フローリアに通っています。ですので普段は顔を合わせる機会がないのですが、お互い話してみたいことができるとこうして連絡を取り合い、このお店〈ドネラ・メドウズ〉で待ち合わせをするのです。


「ああ、うん……でも、なんか姉さん、心ここにあらずって感じじゃない? いつも、どうでもいい話でも真剣すぎるくらい真剣に聞いてくれるのに」


 傍若無人のようでいて案外人に気を遣っているのがこの子なのです。

 駅前通りから一本通りを隔てた場所にあるこのお店は、雰囲気がよく、居心地もいいわりには、いつも空いています。なんでも昼間の営業は趣味的なもので、どちらかといえば夜のバーがメインなのだそうです。


 中でも今いる二階席は人が少なく、わたしと凛の他には離れた席にご年配の女性連れがいるだけです。ほどよい音量でクラシックが流れているので、耳をそばだてでもしない限りこちらの声は聞こえないでしょう。(ちなみに、今流れている曲目は、サティの『犬のためのぶよぶよとした前奏曲』……嫌な偶然ですね。)


 他の方に聞かれてしまうおそれはなさそうなので、わたしは思い切って凛に悩みを相談してみることにしました。ひょっとしたらわたしは男の人よりも女の人の方が好きなのかもしれない――そう打ち明けてみると、凛は「なにをいまさら」と言いたそうな顔で、とんでもないことを言いました。


「だって姉さん、レズでしょ?」

「ぶ――っ!」


 わたしは思わずレモンティーを吹き出してしまいました。

 今日はなんだかこればかりやっています。わたしはコメディアンではないのですよ!


「な、ななな、なんで……っ!?」


 うろたえるわたしに、凛は苦笑しながら、


「見てればわかるって。姉さんのまわりにいるのはいつも女の子ばかりだったし。姉さん綺麗だから男も寄ってくるんだけど、どんなイケメンが来ても反応薄かったし」


 い、言われてみればそうだったかもしれません。

 わたしのまわりの女の子がかっこいい殿方を見つけて黄色い声を上げるような時、わたしにはその意味がよくわからず、むしろその女の子たちを苦い気持ちで見ているのです。


「だから僕も早々にあきらめたし。家族会議でも、『志摩が同性愛者だったとしてもわたしの娘であることに変わりはない』って父さんが」

「か、家族会議――っ? き、聞いてません、そんなことっ!」


 わたしの知らない所でそんな会合がもたれていたなんて……。あのお堅いお父様がそうまで言ってくださったのは嬉しいのですが、恥ずかしさで死にそうです。


「まあまあ、性癖なんて、人それぞれじゃない。気にしたって直りゃしないんだから、気にしないのがいちばんだよ」


 凛が慰めになっているようななっていないようなことを言います。


「はあ……もういいです……。結局、知らぬは本人ばかりなり、ということだったのですね」

「でも、気づいてよかったんじゃない? はっきり言って姉さんの人生、これからバラ色だよ?」

「どういう意味です?」

「だって、姉さんくらい綺麗でかっこよかったら、女の子なんてたらしこみ放題じゃない! あ~、うらやましい!」

「た、たらしこむだなんて……!」

「花園なら、そういうのに免疫のない女の子ばっかでしょ? まして姉さんは青薔薇の君だ。花園のつぼみを摘みたい放題、ヤリたい放題」

「げ、下品なことを言わないでください……! わたしを君と慕ってくれる子たちに、そんなことできるはずがありません!」

「そうなると青薔薇の君って名前も微妙になってくるよね。いっそ、青百合の君に改名したら?」

「もう! ふざけたことばかり言ってると、帰りますよ!」


 席を立ちかけたわたしに、凛があわてて言います。


「わわっ! 待ってよ! 姉さんに話しときたいことがあるんだってば!」


 そうでした。今日の凛からの呼び出しは、「話しておきたいことがあるから」というものだったのです。わたしは浮かしかけた腰を席に戻します。


「……それもふざけたことだったら今度こそ帰りますからね」

「いやいや、これは本当に真面目な話なんだよ」


 凛はえへんと咳払いしてから話しはじめます。


「実は最近、花園の学校裏サイトを見つけたんだ」

「そんなものがあるのですか」

「今時、どこにだってあるよ」

「ですが、花園には充実したイントラネットも、校内SNSもあるのです」

「そういうのじゃ言えないこともあるんだよ」

「言えないこと、ですか?」

「うん。教師の悪口だとか、四君のうちで誰にいちばん抱かれたいか、だとかさ」


 前者はとくに聞きたくはありませんが、後者の方は気になります。


「ちなみに裏サイトの議論では、白百合の君が本命、青薔薇の君こと僕の志摩姉さんが対抗。わずかな差だけど、あの赤椿の君を押さえての二位なんだから、姉さんも大したもんだね」

「そ、そんな……!」

「ほら、そういう顔をするでしょ。だから、こういうことは校内SNSなんかじゃ言えないんだよ。他にも、四君の中でベストカップリングは誰と誰か、というのもあって、そのスレッドによると姉さんは――」

「や、やめてください! もう!」


 わたしは耳をふさいで首を振ります。


「わかったよ。花園の乙女たちの妄想劇、なかなかおもしろかったんだけどな」

「だ、大体、そういうものには身内にしかわからないパスワードがかかっているものではないのですか?」

「お、姉さん、鋭いね。確かにパスワードはかかってたけど、いくつかそれっぽい言葉を入れてみたら、あっさり当たりを引いたよ」

「犯罪です!」

「そうかもしれないけど、この場合、危機管理のなってない運営者の方も悪いと思うな」


 責任転嫁もはなはだしい凛の言い分ですが、運営者の危機管理の甘さも否定はできないところです。


「……花園でも情報教育をやってはいるのですが……」


 これからの社会を生きていくには語学とITが二本の柱となるというのが、白百合の君のご持論で、今花園では理数に強い黄水仙の君を中心として校内の情報基盤の整備を進めているところです。先に述べたイントラネットや校内SNSも、黄水仙の君と少数の生徒有志が中心となって構築したものなのですが、利用率は今ひとつ伸び悩んでいるそうです。

 やはり他の高校に比べて教師陣に保守的な傾向が強く、協力が得にくいことに加えて、残念ながらITに興味を持つ生徒が少ないことが最大の原因だろうと言われています。


「お嬢様にはあまり興味の持てない類いのことかもしれないね」


 凛はそう言って肩をすくめます。


 そんな風に言われてしまっては、尽力されている黄水仙の君がおかわいそうなのですが、認めざるをえないところですね……。白百合の君の言われるもうひとつの柱――語学に関しては、さすがお嬢様学園だけあって、英語はもちろん、フランス語やスペイン語が使えるというような方も少なからずいらっしゃるのですが。


 それにしても、深堂院家の子息である凛だって世間的には十分にお坊ちゃんなのですが、よくもまあぬけぬけと花園の生徒をお嬢様のなんのと言ってのけられるものです。昔はもっと泣き虫だったと思うのですが、一人暮らしをはじめた頃から明るくなったような気はします。


「それで、悪い噂……というのは?」

「その話だった。ええっと……」


 花園の学校裏サイトには、簡単ながらもパスワードがかかっていたわけですが、サイトの中に、さらに別のパスワードのかけられたページがあったそうなのです。


「でも、所詮は素人の浅知恵だね。ちょっとしたプログラムを走らせただけで、パスワードは割れたよ」

「……凛」


 わたしが低い声を出すと、凛がびくりと震えました。


「い、いや……確かにちょっとブラックかなーと思わなくもないけど! でも、そのおかげでとんでもないものが見つかったんだから、許してよ!」

「まったく……そんな危ないことは、もうやってはいけませんよ」

「わかったって」


 ちっともわかってなさそうな口調で凛が言います。わたしは小さくため息をつきました。


「……それで?」

「うん。僕も、いったいそこにどんな乙女の秘密があるんだろうと思って、わくわくして見たわけさ。そしたら、とんでもないものが出てきたんだ」

「だから、それはなんだと聞いてるんです!」

「……ドラッグ」


 凛がぼそりとつぶやいた言葉を、わたしは一瞬、うまく理解することができませんでした。


「一応、符牒っぽいもので誤魔化してはいたけど、たぶん、ドラッグの類いだ。誰かが主催する秘密のパーティのようなものがあって、そこでなにやらあやしげな儀式をしている。『この世のものとは思えない悦楽』が味わえるんだってさ」

「そんな……! い、いえ、それだけではまだ何とも言えません!」

「まあね……。案外、寮生活が窮屈になったお嬢様がお酒でも持ち寄って遊んでるだけなのかもしれない。それだって問題だけどさ。でも、なんていうのかな、その割には深刻っていうか……本人たちも、本気でヤバいと思ってる感じだったんだよね」

「気の……せいでは?」

「……かもしれない。いや、ちょっと気になっただけなんだ。姉さんがそんなことはありえないと言うのなら、そうなんだと思うよ。スパイごっこを楽しみたい女の子がいたって、別に悪くはないしね」


 凛はそう言って誤魔化しますが……わたしにはわかります。凛は人と意見が衝突することを好みません。他人とぶつかるくらいなら、自分の意見の方を引っ込めるのです。

 しかし、かといって、引っ込めた意見に自信がないわけではないのです。わざわざわたしにこんなに踏み込んだ情報を提供してきた以上、凛はそこから推測される事態を、本当に危惧しているはずなのです。


「ありがとう、凛。気にとめておきます」

「……うん、そうして」


 凛はぼそりと言うと照れたように頬をかきました。


「ところで、最近そっちの方はどうなのですか?」

「そっち?」

「凛の大好きな……」

「ああ! 触手のこと?」


 凛がぱっと顔を輝かせました。

 触手といっても、ホンダさんたちぐねぐねとしたアザミ色の触手のことではなく、主に男性向けのファンタジーに登場する……その、エッチな種類の触手のことです。凛は、これだけ愛くるしい見かけをしているのにも関わらず、触手モノの……その、『エロゲー』と呼ばれるものが大好きなのです。


「最近はこの業界もすっかりおとなしくなっちゃったけど、こないだ出たデルタビジョンの新作はちょっとしたものだったね。……ほら、これ」


 凛は隣の席に置いていたモスグリーンのメッセンジャーバッグの中からどぎつい原色のパッケージを取り出しました。幼稚園の時のお道具箱を思い出すサイズの紙箱ですが、そこにプリントされているイラストは、子どもにはけっして見せてはいけない種類のものです。えげつないイラストに反してかわいらしいフォントで作られたロゴは――『魔界天使ブラックエンジェルリリーナ・アンジェリカ』。紛うことなき、変身美少女戦士触手陵辱モノのエロゲーです。

 わたしは思わずパッケージを手に取り、裏の作品紹介に目を通します。


「ち、ちょっと……こんなところで出さないでください!」

「……姉さん、言ってることとやってることがちがうよ……」


 凛が実家を逐い出された「事情」というのは、実はこのエッチなゲームなのです。


 お節介なメイドが、凛の隠していた「コレクション」を発見してしまい、それをお母様――継母に教えてしまったのが発端です。


 継母は凛のコレクションを目にするなり、顔を真っ青にして卒倒してしまいました。よりにもよって、凛のコレクションは触手陵辱モノばかりだったからです。

 継母は一昼夜部屋にひきこもったかと思うと突然リビングに現れ、善後策を講じるべく家族会議をしていたお父様とわたしと凛を前にして、こんなことを言い出したのです。


 ――凛! あなたは当分このお屋敷を出て、頭を冷やしなさい!


 と。


 お父様のご説得にもかかわらず(同じ男として凛の気持ちはわからなくはない云々と言って火に油を注いでいました)、継母は意見を撤回せず、凛は結局お屋敷を逐い出され、通っている学校のそばに部屋を借りることになりました。

 凛としては、口うるさい母親やメイドから離れられ、命より大事な(と言ったのです)触手ゲームのコレクションも取り戻すことができ、なにより好き勝手に……その、ゲームに没頭できる環境を手に入れられたわけですから、かえってメリットの方が多かったくらいかもしれません。


 しかし、継母にとってお屋敷は、地上のどこよりも立派で、自尊心が満たされ、使用人にかしずかれながら気持ちよくすごせる、無上の楽園なのでした。さながら知恵の実を食べて楽園を追放されたアダムのように、狭いアパートに押し込められた凛は日々の生活に疲れ果て、やがて泣きついてくるだろうと期待したのです。


 継母にとって凛は、血を分けた息子であり、やがては深堂院家の家督を継いで母親に楽をさせてくれるはずの存在でした。それが化け物を使って女性を苛めて喜ぶようなゲームをやっていたのですから、その落胆たるやいかばかりだったでしょう。


 わたしはパッケージ裏の見本イラストを指さして言いました。


「……この天界の王妃さま、お母様に似ていますね」

「……姉さん、エグいこと言うね……」


 ちょっと引いた顔で凛が言います。継母似の王妃さまは、とりどりの触手にたかられて気も狂わんばかりの表情を浮かべているのですが、別にそういうつもりで言ったのではありません。

 わたしはパッケージ裏の「STORY」と書かれた欄を読みます。


『天界に属する魔法天使だったリリーナ・アンジェリカは、魔族との戦いに敗れ、半死半生の状態でこの世界へと逃れる。聖クローディア学園の二年生である星ノ棚ほしのたな朱璃あかりは、衰弱したリリーナの魂をひょんなことから拾ってしまい、天使と魔族の世界を賭けた大抗争に巻き込まれてしまう――ふむ』

「……ホンダさん、黙っててくださいます?」


 わたしも存在を忘れかけていたホンダさんが、わたしの脳内で突然文章を読み上げたのです。


「え? 誰?」

「い、いえ……何でも」


 怪訝な顔をした凛に聞かれ、わたしはあわてて誤魔化します。ホンダさんの声はわたし以外の人には聞こえないようになっているのです。

 それより今はこのゲームのことです。


「……変身美少女モノとしては、オーソドックスなお話のように見えますが……」

「それだけだとね。でもこの『魔界天使リリーナ・アンジェリカ』が凄いのは、そこからの展開だよ。主人公の朱璃は例によって天使の力を得て悪と戦うんだけど、その中で魔族=悪、天使=正義という価値観に疑問を抱くようになるんだ」

「それも、そこまで目新しいテーマではないのでは?」

「そうだね。でも、このゲームの新しいところは、充実した触手陵辱モノである天使側ルートに加えて、朱璃が魔族の誘惑に屈して悪堕ちするルートがあるところなんだ。しかもそのボリュームが天使側ルートの倍以上ある」


 わたしはごくりと唾を呑み込みました。

 悪堕ちというのは、正義の味方である変身美少女戦士が悪の側の……その、陵辱などに屈して悪側に寝返ってしまうことです。堕落したヒロインがかつての味方と戦い、恥辱の限りを尽くす展開には胸が熱くなります。


『……触手が悪の側というのが気に食わんな』


 ホンダさんのつぶやきはとりあえず無視させてもらいます。


「この悪堕ちしたヒロインが、姉さんに似てるんだよね。凛とした和風美人でさ」


 確かに悪堕ちした星ノ棚朱璃=魔界天使リリーナ・アンジェリカの容貌は、長い黒髪を切りそろえた涼やかなもので、わたしに似ているといえば似ています。もちろんわたしはこんな露出過多なコスチュームなど着られませんけれど。


「それで、悪堕ちルートには一体どんな展開があるのです……!?」

「相変わらず、すごい食いつきだね……。ええっと、あまり話すとネタバレになっちゃうんだけど、簡単に言えば、魔族側に寝返って魔界天使となった朱璃が、かつての仲間をひとりずつ倒しては辱め、でも捕獲はせずに泳がせ続けて、ひとりひとりねちっこく屈服させていくんだよ」

「……ごくり」

「姉さん、よだれ、よだれ」


 凛がテーブルの紙ナプキンでわたしの口元をぬぐってくれます。


「しっかし、姉さんがこんなに触手モノにはまるとはね……」


 凛が呆れた様子でそう言います。


「何を言うのです。わたしに触手モノを薦めたのは凛でしょう」

「いや、姉さんがどんなものか一回やらせろっていうから仕方なく貸したんじゃないか」

「……うっ、それは……」


 はじめはただの好奇心だったのです。

 継母がそんなにも嫌悪するゲームとは一体どんなものなのかという意地の悪い興味でした。

 でも実際にやってみたら、世の中にこんなに面白いものがあったのかと思うほど面白くて、その日は結局徹夜してしまいました。


「それでよく自分はノーマルだなんて言えたもんだよね」

「な……っ、何を言うのですか! わたしは変身して戦う美少女戦士たちの勇気や気高さ、どんなに酷い目に遭っても折れない心に学ぶところがあると思ってですね……!」


 慌てるわたしに、凛はジト目を向けてきます。


「でも姉さん、あきらかに触手の方に感情移入してるじゃないか。受けじゃなくて攻め。ネコじゃなくてタチ。ヤられる方じゃなくてヤる方」

「そっ……、そんなことは……!」

「それこそ、知らぬは本人ばかりなり、でさぁ……さっきの裏サイトの四君カップリングだって、姉さんは基本攻め側なんだもん。青×黄、青×赤、青×白……一応、白×青に少数票が入ってたけど、逆カプだって叩かれてた。カップリング板の住人曰く、『青薔薇はドS』『魔王の娘』『いや、魔王』」

「そんなぁ……」


 わたしは思わず頭を抱えてしまいます。

 そういえばホンダさんにもわたしが女の子の方が好きだとすぐに見破られてしまいました。わたし、そんなにわかりやすい性格をしているのでしょうか……?

 わたしの様子に、凛が苦笑します。


「姉さんも難儀な人だなあ。僕なんかは今更失うものもないから気楽なもんだよ」

「わたしには、青薔薇の君としての体面がありますから」

「そんなの、周りが騒いでるだけじゃん」

「そうだとしても……皆さんがわたしなどに価値を見いだしていてくださるのですから、ありがたいことではないですか」


 わたしの言葉に、凛は一瞬ぽかんとした顔をして、


「……姉さんって……、いや、なんでもない」

「何ですか? 気になるではありませんか」

「たしかに、『青薔薇の君』とはうまく名付けたものだと思うよ。現実にはありえない青色の薔薇……ね」

「……なんだか馬鹿にされてる気がします」

「そんなことないって。姉さんはそれでいいんだよ、きっと。……あ、ほら、このゲーム貸してあげるからさ」


 なんだか誤魔化された気がしましたが、わたしは凛からそのゲーム(『魔界天使リリーナ・アンジェリカ』)を借りて、〈ドネラ・メドウズ〉を後にしたのです。

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