第11話 【ちこくしちゃいけない日】


「デラーラ。僕は今日はほんとうにちこくしちゃいけない日なんだ。

 でもさ、自信ないんだよ。歩きはじめると、どうしても、ゆっくりになっちゃって、しょうがないんだよ。

 なんだか頭のなかに、雪の日のことがよみがえってきて、雪をふむかんしょくとか、雪をかぶっているでんしんばしらや車のすがたとか、いつのまにか想像しちゃってさ。

 気がついたら雲のなかを歩いているようないい気分なんだ……そしたらあっというまにさ、時間が過ぎていて、いつもそれで学校ちこくしちゃうんだよ。

ぼくはほんとうに……どうしたらいいのかなあ……なあ、デラーラ」



 デラーラは、マキオに抱かれながら、いっしょうけんめいシッポをふって、マキオのホッペをぺろんとなめます。マキオはためいきをつくと、重たい腰をあげて、歩きだしました。


 いっぽ、いっぽ、はやくすすもうとしても、やはり、ゆっくりしかすすめないのです。


 仕事へいく背広すがたのおじさんや、自転車にのった女子高生や、のんびり犬の散歩をしているおばあさんに、マキオはおいこされてゆきます。

 そのうちに、マキオの頭のなかに、雪の日のことがよみがえってきます。



 いっぽ、いっぽ。

 ひとあし、さしあし、しのびあし。


 マキオはまるで、雪道を歩いているようなかっこうで、歩いていきます。



 と、とつぜん、うしろから大きな風を感じました。

 そして、はやてのように、なにかがマキオの横をとおりすぎました。


 びっくりして、マキオはそのすばやいものを、目でおいました。

 マキオの十メートル先で、それは立ち止まりました。



 そこに立っているのは、なんとデラーラでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る