第5話 【ゆうきや、エミちゃん】


 歩いても歩いても、ゆっくりしかすすまないことにも、マキオは、なれてきました。


 白くてやさしそうなでんしんばしら。


 ずんぐりしてふとっちょな車。


 おとぎの国のような白い家なみ。


 みんなおなじクラスのやさしいエミちゃんのようだと、マキオは気がつきました。



 エミちゃんは、いっしょにいると、なんだかあったかいのです。


 教室で机がとなりのマキオがべんきょうの本を忘れると、そっとじぶんの本を、何も言わずに、二人の机のあいだにおいてくれます。そばにいるだけで、ぽかぽかした春の野原に寝そべっているような気分になります。



 いちめんまっ白な銀世界は、エミちゃんみたいに、マキオをあたたかくつつみます。雪をふむかんしょくに、こたえるように、マキオは歌いだしました。


「ゆうきや、エミちゃん、あられや、エミちゃん、ふってこい、ふってこい、あったかエミちゃん! 」


 歌っているマキオの頭のなかに、はじめてエミちゃんがおこったときの光景が、よみがえってきました。



 3年4組の教室はにぎやかです。


 まだ昼休みが終わったばかりでした。

 やがてチャイムが鳴り終わるころ、先生が教室に入ってきました。

 立って遊んでいたり、話していた子供たちは、あわてて、バタバタと席にもどりました。


 マキオは給食のときに、マカロニグラタンを、三ばいもおかわりしました。

 そのためでしょうか。午後の授業がはじまるとすぐに、マキオはねむたくなりました。


「マキオくん、ねむっちゃダメだよ」


 ときどき、隣の席のエミちゃんが、コックリコックリと頭をうなだれる、マキオの肩をゆすり、おこしてくれました。でも、マキオはもうどうしようもなく、ねむたくてしかたがありませんでした。


 とうとう机のうえに両腕をおいて、そのうえにオデコをおしつけてねむりはじめました。それを見ると、エミちゃんもあきらめて、マキオをむりに起こそうとするのはやめました。

  


 静かな教室のなかに、先生が、黒板にチョークで書いている、コツコツという音だけが、ひびいていました。


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