第4話 【デラーラと風になって】


 お母さんから小銭をもらうと、マキオは家をとびだしました。


 いそいでかけだそうとするマキオに向かって、玄関の横の犬小屋のからとびだしてきたデラーラが、ほえたてました。マキオはデラーラもつれていくことにしました。


 いつのまにか、ふたりはきそうように、並んで走っていました。


 暗い夜道を右に曲がったり、左の小路をえらんだりしながら、かけぬけていきました。まっすぐな一本路のところで、ふいとデラーラが、走っているマキオのすぐまえにとびだしてきました。



 夜のくらやみのなかで、デラーラの白い背なかが浮かび上がっています。

 マキオは、息がゼイゼイあらくなってきて、ゆっくりしか走れなくなってきました。そして、なんだか頭がボウッとしてきました。


 そのとき、デラーラの背なかの白い毛なみが、マキオにどんどん近づいてくるのをかんじました。マキオは、まるですいこまれるように、デラーラの背なかにしがみつきました。


 デラーラの毛のなかに顔をうずめながら、マキオはデラーラのにおいをかぎました。いつもかいでいるにおいなのに、そのときのにおいは、いつもよりもずっといいにおいだと思いました。


 デラーラのはずむ呼吸や、かける足音が、マキオの胸のなかに大きくひびいてきました。いままでに見たことのないようなスピードで、デラーラはマキオをのせてかけつづけていきました。


 マキオはこわくて、デラーラの毛のなかから、顔をあげることができませんでした。そのうちにだんだんと、やきいも屋さんの声が大きくなってきました。


 

 マキオは顔をうずめたまま、まるでデラーラといっしょに、風になっているような、そんな気持ちでした。


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