ep.14 今回はどうするかなぁ。
長々と推理したものの、結局のところは「ペンダント行方不明」ってところから話は進んでいない。
別の夜会(オルギア)が敵かも知れないと推測できただけだ。
「貴女、今日の夜は空いてる?」
「なんだよ、まあ、休みもらったようなもんだから空いてるけど」
「だったら、行きましょう」
「どこに」
「図書委員会の夜会(オルギア)に」
「は?」
夜会と一言で言ったところでその形は様々だ。
カリスのところみたいにオークションをするところもあれば、友達同士のお茶会みたいなノリでやるところもある。
そして、この学院の図書委員は情報も集めているらしい。
「けどそれ、別にわたしがついていく必要ないよな?」
「え」
「いや、わたしって、現実はこんなだぞ? できれば表には出たくない。お前ひとりの方がいいんじゃないか?」
カリスはまばたきしていたが、やがて自信満々に「ふ……」と笑い、髪の毛をかき上げて言う。
「考えてみれば、たしかにそうね! 貴女に協力を求めるまでもなく、この――」
「待て、待った。その「仕方ないわね! ここはカリス・ペルサキス様が頑張ってみせましょう!」みたいな顔を見た瞬間、すげー不安になった」
ここでカリスだけを行かせることは、彼女の知見と観察力だけを頼り切ることだ。
なんか致命的なミスをしそうな予感がひしひしとしていた。
「別に大丈夫よ?」
「わかったよ、わたしも行くよ」
「なんでそんなに嫌そうなのよ」
「せっかく回復した魔力が、また減ることになるからだよ」
「回復貧者は大変ね?」
「貧乏人みたいに言うな」
まあ、また色々と工夫を凝らして参加する必要はある。
現実のこのやせっぽっち姿で行ったところで門前払いにされるのがオチだ。
「そういえば、貴女はどうやって夜会に参加していたの? 気づけば最初からいたわよね」
「天井裏」
「は?」
今回はどうするかなぁ。
+ + +
アイトゥール学園の情報を司るものは二つある。
ひとつは新聞部で、もうひとつは図書委員会だ。
ゴシップ系の情報であれば新聞部が、公的な記録や情報は図書委員が集める。
あと、部とか会とかついてるけど、だいたいは自称だ。
「なんで新聞部じゃなくて図書委員会に行くんだ?」
「貴女、明日の新聞の一面を飾りたいの?」
オークションで前代未聞の金額を叩き出したわたしは、一部界隈では有名になったらしい。「あの規格外の魔力量を持っている令嬢は誰か」ということを知りたがる令嬢は多いとのこと。
魔力量とその扱いが力となるこの学園で、わたしは即戦力だと見なされていた。
どの派閥や夜会に属していないとなれば、取り込みにかかる。
「わたしが新聞部とやらにノコノコ顔を出せばゴシップか」
「鴨がネギを背負って調理場の鍋に向かうようなものね」
「着火するだけでごちそうだな」
「あと、そもそも新聞部の連中って秘密主義で、夜会の場所すらつかめないのよ」
「へー」
カリスは入れ替わりに気づき、それが誰かを特定することができた。
それだけの情報収集能力を持つ。
そのカリスでも見つけられないっていうのは、相当だ。
「そんだけ隠蔽が上手いなら、その新聞部が盗人だった、ってオチもありそうだな」
「やめて、それが本当だったら最悪だから、やめて」
その場合、わたしとカリスの争いも、もれなく外部に漏れることになる。
オークションでの諸々の正確なところは、そこまで噂にはなっていない。
「わたし、有名人になっちまうな」
「貴女は良いかも知れないけれど、こちらは嫌な意味で有名になってしまうのよ!」
「夜会主催者は大変だな」
わたしと違い、失うものが多い。
「図書委員会でも、お願いだから大人しくして……っ」
「大人しく?」
「今回やるのは、あくまでも情報収集よ。暴れたりしないで」
「わたしは令嬢じゃなくて下級職員だ、そんな約束はできない。だいたい、全部ぶっ潰せば後腐れとかないだろ?」
「ねえ、どうして貴女はいままで問題なく職員をやれてたの?」
学院前で分かれたけれど、最後までカリスは心配そうな表情を崩さずにいた。
+ + +
図書委員会がある場所は、当然のことながら図書館だ。
半ば別棟の形で建てられたそこは、閲覧室だけではなく本を貯蔵する場所も取られている。
むしろそちらがメインだと言っていい。利用者が使える部分は、あくまでも図書館の一部でしかない。
「むー……」
わたしは地下の下水で時間を潰した。
図書館、というものは学園とは地続きではない。
天井裏伝いで行くことはできず、また、日頃の清掃も別の人間が担当している。
「見えねー、わかんねー」
カリスのときと違い、まったくわからない。
物音ひとつ聞こえて来ない。
それでも、ここは範囲として夜会の影響下に入るはずだ。
教室から天井の距離よりは、図書館内部から下水までの距離の方が短い。
「お」
期待通りに、あるいは、予想通り、意識が遠くなる。
人形(コーキィア)への移動はもう慣れたものだ。
いくらかの魔力を抜かれる感覚と共に移動する。
デフォルトのそれではなく、カリスの夜会のときに生じた人形を身に纏うけれど――
あ、このまんまだと、ダメか?
それにも、気づいた。
わたしは噂になっているらしい、あの姿のままで行くことは余計なトラブルになりかねない。
意識が花と化し、そこを中心にモヤモヤとした魔力が形成し切るよりも前に。
「ふんっ!」
握りこぶしでわたし自身の顔をぶん殴る。
顔の形が変形するほどの一撃は、生身だと下手すれば致命傷だけど、人形ならそこまでじゃない。
がんがんと変形させ続け、納得がいくまで凹ませる。
こう、大鼻翼軟骨を広げる感じに、親指の第二関節でぶち壊す。
よし、いい感じ。
きっとわたしだとは気づかれない。
そうやって現れた先で――
「ようこそ、歓迎いたしますよ」
出迎えられた。
たった一人で。
思わず拳の動きも止まる。
壁一面に本が並ぶ空間に、一つのテーブルと二脚の椅子があり、わたしはその令嬢とテーブルを挟んで向き合う格好でいた。
他には、誰もいない。
カリスですらも。
他の椅子や机は立てかけるように壁へと押しやられ、天井からは薔薇(ロドン)の明かりが煌々と照らす。
夜会にはわたしと目の前の令嬢しかいない。
別の夜会に紛れたということですらない。
周囲はどう見ても図書館の様相だ。
なにより、変装をしたにも関わらず「わたし」だと把握されていた。
視線をわたしに固定し、わたしにだけ挨拶をしているんだ、出現を完全に予期されていた。
なるほど?
ここは死地だ。
「お招きにあずかり光栄です」
わたしはスカートを軽く持ち上げ、身体を軽く上下させる。
いわゆるカーテシーは目上の者に対する礼儀だけど、夜会主催者に対してだし、別にいいだろう。
情報収集とかは、もう考えない。
今すべきは隙あれば逃げ出すか、叩き潰すかだ。
挨拶しながら挑戦的に笑うわたしのことを、図書委員会のトップにしてこの夜会の主催、アマニア・アンドレウは興味深そうに見た。
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