羽ばたく月
僕にできることなんてほぼないけれど、それなりに努力した。
僕なりに時間はあったから、その時間をすべて君のために費やした。
音楽の勉強、オーディションの詳細検索、ギターの扱い方。
全てが未知の領域。
知らないことを追い求めていくのはとても楽しかった。
満月の時あの丘で君が聴かせてくれる歌が大好きで、君の助けになることだけを願ってがむしゃらに「もっと」を求めていった。
僕が頑張れる理由は、月のおかげだった。
月が毎月、「頑張ったね」って「すごいね」ってほめてくれたから、僕は頑張り続けることができていたんだ。
――その支えがなくなった人間は、どうなると思う?
それは、僕を見たらわかるだろう。
君と出会ってから半年ほどたった時のことだ。
いつもの何倍も煌めかせた瞳である一枚の紙を持ち、駆け寄ってくる君がいた。
「どうしたんだ?」
僕がそう問えば、その質問を待っていたかのように君が満面の笑みを浮かべる。
「私、オーディション最終選考まで残った!」
そう言って彼女が差し出してきたのは、大手の企業のオーディションの紙だ。
オーディションについて調べていたのは、僕だ。
ここの企業は大人から月のような高校生といったたくさんの人が応募するオーディションだ。
「最初のチャレンジ」として、失敗経験を積むはずだったのに――まさか?
このままいけば歌手デビューも夢ではない。
月の夢が叶うんだ。
家族も認めてくれた、と君は嬉しそうだ。
なのに、なぜか悲しく思ってしまう僕がいる。
――なぜだ?
月の望みが叶うんだぞ。
僕は、君のことを応援しているはずなのに。
自己中な自分が、僕は大嫌いだ。
「よかったな。」
そんなありきたりな言葉しか言えない自分が大嫌いだ。
なぜか、君といると感情が暴走してしまう。
迷惑をかけてしまう。
君といることが、怖い。
そんな僕の感情なんて知らない君はまた僕に笑顔を向ける。
「最終選考も、頑張ってくるね!」
――頑張らなくて、いい。
なんでこのようなことを思ってしまうのかはわからない。
でも、そう考えてしまう。
ずっと、ここで歌を聞かせてくれるだけでよかった。
それだけで、僕は幸せだった。
でも、幸せなのは僕だけ。
月はたくさんの人に歌を届けたいだろうし、月の歌声を欲してる人は世界にたくさんいるだろう。
僕には、君を応援することしかできない。
必死に、笑みを作った。
それから少したった日のことだ。
僕はパソコンを一心不乱に見つめていた。
そう、この日は月の最終選考結果が発表される日。
もし最終選考に合格したら、月は歌手になれる。
あと、五秒。
五、四、三、二、一……。
その瞬間に、今まで灰色だった「結果を見る」のボタンがピンクになる。
慌ててクリックを繰り返す。
開かれたホームページには――。
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