第五話:スライム堤防
あれからというもの、俺は水に触れても溶けない肉体を作り出す研究を続けていた。
しかし、スライムの肉体はあまりにも水に溶けやすく、半端な分泌液の量ではすぐにほろほろになって消えてしまう。かといって、分泌液をマックスに注入した体は、その疎水性も相まってぷかぷかと水の上を移動して、どこかへ流されていってしまう。
行動の自由が効かなくなるのは危険性が高すぎるだろう。
とどのつまり、八方塞がりというやつだった。
どうにかならないもんかねぇ。
そんなことを考えながら、俺の体の側に降りてきた蝙蝠を捕食する。何か甲高い音を発しながら、俺の体に飲まれていく。
[スライム(Lv.3→4 LvUp!)スキル:体液分泌]
お、またレベルアップしたか!
何度か蝙蝠やらハマダンゴムシのような虫やらを食べていたので、レベルは以前よりも上がっている。
ちなみにこの頭の中に直接語りかけてくる感じのレベルアップアナウンスは、暇な俺の退屈しのぎにとってちょうどいい娯楽になっている。
レベルを上げるというささやかな娯楽があるからこそ、ふさぎ込まず、自分を見失わずに生きているという自覚がある。
無論、レベル上げも良いが次にどうやって自分の体をデカくするかを考えなければ。
そんな折のことだった。俺がそのことに思い当たったのは。
きっかけは、壁面を伝うアリの群れが上流の水を土で受け止め、簡易的な水溜まりを作っているのを見たことだった。
どうやらこのアリたちは、俺がこの水溜まりに居座っているせいで水を飲むのに苦労しているらしいな。なるほど、それでわざわざ堤防を築いて、自分たちが飲む分の水を確保しようとしているのか。
せっせ、せっせと土を運んで、治水事業に従事する蟻んこたちを見て、俺は閃いた。
そうか!俺自身が堤防になって、より多くの水をこの身に受け止めれば、わざわざ下に行く必要なんてないじゃないか。
難しいことは何もない。地下水はどこから来たのか。それは、無論地上である。それでは、地上から来た水は、どのようにして地下へと向かうのか。
それは、まさに今おれがいる場所を流れて行くのだ。ならばわざわざ危険を犯してここよりも下にある水溜まりを支配しようとしなくても、時間さえかければそれと同等か、それ以上の質量を得ることが可能ではないか。それも、安全性が確保された上で、だ。
やらない理由が見つからない。
そうと決まれば、俺はすぐに肉体をお椀状に歪めてみる。
しかし…なんというか、思ったのとは違った。
表面張力が邪魔をしているのか、お椀の形になっても、思ったよりも水かさが出来ない。
これでは堤防になったとしてもせき止められる水の量は微々たるものである。
一体、どうしたものか…
俺はどうすることも出来ない苛立ちを蟻たちにぶつける。蟻たちはなす術もなく俺の体に吸収されていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます