第7話 嵐
最悪だ。
これが僕の今の感想。
今日は掃除がないから、最後楽しい思い出だったらそれで終わるはずだったのに。
先ほどまで穏やかだった心がかき乱されていく。
ぽかぽかの日向の庭が突然豪雨と風でボロボロになっていくような。
取り巻きには茜もいた。
向こうがこちらを認識し目が合っていて分、無視する訳にもいかない。
取り敢えず挨拶すれば良いかな。
「お、おっす」
軽く会釈する。
横には書道部の子。
「え、何か挨拶されたんだけどw」
「キモwwwwww」
何だよ。
無視すれば良かったって言うのか。
「あれ?女といるじゃん?」
雄哉君たち男子連中は、基本外から見てケラケラ笑っているだけだが、僕が女の子と帰っているのに反応していた。
「凛夜、彼女作ったの?」
茜に尋ねられる。
「私達にも紹介してよーw」
こんな状況じゃこの子に迷惑かけるかもしれない。
ちゃんと否定しておかないと。
「ち、違うよ!たまたま一緒に・・・・」
「ふーん」
「お前っていつも教室で寝てるけど今大丈夫?」
「え?」
慶太君が話しかけてくる。
遠くから弄るだけで、直接話しかけられた事はめったにない。
寝てるって?確かに休み時間に話す相手もいないから寝たりもするけど。
「歩いてる間に寝ちゃわないの?そんなに起きてる姿最近見ないし」
「たっはっはっはっはは」ケタケタ
「慶太ーやめなよーw」
弄られる、という限度を超えているよなこれ。
ただ僕は怒るというより、この状況をどう切り抜けるかの方が重要で。
「あ、あはは。大丈夫だよ、し、心配しないで」
「心配なんてしてねーよ。夏希!こんな奴と一緒にいるのなんてやめろよー」
「同じ制服来てるけど知ってる?」ヒソヒソ
「知らなーい。同じ学年の子じゃないんじゃない?」ヒソヒソ
「・・・」
もはや僕が会話に入る余地は無かった。
だとしても、僕にはこの嵐を過ぎ去るのを耐え忍ぶしかない。
書道部の彼女の顔を確認すると、
「・・・ッチ」
心底不機嫌そうな顔で舌打ちをしていた。
♢
「はぁ・・・行ったか」
みんなはこれからファミレスにご飯に行くようで、話すだけ話して去って行った。
正直、居なくなってホッとした。
「だせー奴」
「え?」
そっか、居たんだ。
途中から気遣う余裕すらなくなっていた。
「虐められっ子」
目を見て言われる。
身長が小さいので子供のように見上げられているが、ハッキリした目で思わず圧倒されそうになる。
「別に、虐められてる訳じゃ・・・ないと、思うよ」
「あっそ。いずれにしろダサい」
ぴしゃりといわれる。
後輩という事もあり、思わず僕にほとんどないはずのプライドが刺激されてしまった。
それに今の僕には心の余裕など全くなく、思わず感情的になる。
「た、確かにそうだけどさ、普通慰めたりするもんじゃないの!?ダサいってさ!」
「あははは」
僕を嘲笑するように彼女が笑った。
「何で格好悪い奴の味方しなきゃいけないのさ。ダサい物はダサい。格好悪い物は格好悪い」
表情が変わり睨まれる。
彼女の目つきは鋭さは、感情的になり、ペルソナが剥がれ、心がむき出しになった僕にはきつかった。
「そんな傷つく事言うなよ、泣くぞ!」
「うわ。格好悪さの極みだ」
「格好悪いとか良いとかの次元の問題じゃないんだよ僕にとっては」
発言が理性のフィルターを通してはいない。
感情が次々と言葉がでてしまう。
「へ~じゃあ泣いてみてよ?部活で生かせる何かの足しになるかもしんない」
「芸術家気取りかよ・・・大体、虐めは虐めてる方が格好悪いって言うだろ・・・・だから。僕は」
「格好悪くないって?アホか。それとこれとは別次元の話だろ」
僕の言葉は彼女の強い言葉に遮られる。
「アイツらのニヤニヤした感じもいけ好かないけど、お前もお前でダサい。どっちかと言うとお前の方が嫌だし気持ち悪いかな。私」
言葉が詰まる。
返そうとすると感情が爆発しそうで。
くそ、そんな事僕だってわかってるんだよ!
「はいはい。わかったわかった!この話、もうやめ!僕、泣いちゃう。何か違う話しようぜ、え~っと、趣味とかなんなの?」
「私はアンタとたまたま帰ったの?おのれが誘ったんちゃうんか?」
「・・・」
話しを逸らそうと思ったが付き合ってはくれない。
日本人の美徳は察しと思いやりじゃないのか。エヴァンゲリオンでミサトさんが言っていたのに。
「僕のメンタルの弱さなめんなよ」
「はは、どうして私がお前に気を使って言葉選ばなアカンのじゃ。私は言いたい事言うわ」
「君の堂々とした態度が羨ましいよ・・・」
何様だよ、こいつ。
僕が一体何をしたっていうんだよ。
「てか、ここ、別れ道だろ、もう行けよ」
思わず離れたくて突き放すように言う。
今誰かと一緒にいるのはつらい。
「私に命令すんな」
一睨みされ、僕の提案は却下される。
この子は何一つ僕の思い通りにならない。
「じゃー僕が行きます!さようなら!」
「おう」
クソ!確かにカッコ悪くて情けないけど、こいつには優しさって物はないのかよ。
もう二度と部活なんて行くか!見学して損した!
そういって足を進める。
これ以上かっこ悪い姿を見られなくて済む!もうあんな空間になんか居たくない!
・・・・・
「っく」
自然と足が止まり、後ろを振り返る。
「明日も、行くからな!!僕!!」
「あ?」
「部活、明日も行くから!」
書道部の子がニヤッと笑う。
「ピーピー泣く奴は部にいらんのですが」
「泣いてない」
嫌われたか
そうだろうね。僕だって嫌だこんなやつ。
彼女も、もう関わりたくないだろう。
「だから、次からは泣くな」
「は?」
「泣くな一々」
「泣いてないけど?」
瞬間、目頭が熱くなり、頬に暖かい感覚がつたる。
「あ」
「畜生、お、お前が泣いてるって言うから!泣いちゃったじゃ!さ、さっきまで我慢できたのにー!あーもう!!」
「はは、我慢してたのに親に心配された途端泣くガキみたい」
笑っているようだが、彼女の顔は涙で滲んで見えない。
今はただ、次々流れる涙を止めようと一生懸命だった。
だが涙は僕の意思に反して次々流れてきて、
嗚咽しそうになるのを堪えるのにもギリギリだ。
「あー、もう!!見るな!!こっち見るなよ!!」
「男なら気合入れろや。まぁ惨めすぎるから言うこと聞いてあげる。じゃあね。」
そう言い残して足音が遠ざっていく。
彼女は去っていった。
「畜生」
・・・普通目の前で人が泣いてたら慰めるもんだろ。
暗くなった交差点で1人、涙を流しながら立ち尽くしていた。
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