第6話 下校

「できた!」


我ながら、丁寧な良いのが書けたと思う。

先ほどこの子が書いたような崩れた文体ではないけど。


手本にかなり近い書き方ができた。


「どうかな、一応冬休み明けの書道の宿題で銀賞貰った事あるんだ」


「・・・ふふ、ふふふ」


かすかに笑う彼女。

そういえばこの子が笑う姿初めて見たかも。


「そんなにうまかった?」


「ふふふ・・・この程度の実力でよく見学なんて言えるなって、笑っただけ」


な、何ぃ。


確かにさっきのこの子ほどじゃないにしろ、中々良い字はかけてるはずだ。


「で、でも未経験にしては結構うまくない?」


「その感性が雑魚。この程度でのぼせ上がれる、お馬鹿さんの脳みそが羨ましい。私も馬鹿だったら、もっと人生楽しいんかな」


はぁ、とため息をわざとらしく吐かれる。

ぐ、こいつ・・・


年上かと思ったら制服のバッジはもろに1年。

つまり年下だった。


「・・・だったら同じ字で手本見せてよ」


「上等だ」


そういって腕をまくる。

どうして彼女はここまで勝気なのだろう。











気がつけば外は暗くなっていた。

時計を見る。


そっか何やかんや2時間もやってたのか僕。

久々にこんな集中してて気がつかなかった。


彼女はまだせっせと書いているので、声をかけてあげる事にした。


「外もう暗くない?」


「んあ?」


時計をみてふーん。という感じで目線を半紙に戻す。

どうやら彼女にとってこの時間まで学校に残っているのは普通の事らしい。


「毎日こんな遅くまで残ってるの?」


「いつもはもっと早く切り上げる」


「ふーん」


僕が見学したいって言うから気を使わせちゃったのかもしれない。


「久々に他人と一緒で時間忘れちゃった?」


「・・・」


突っ込んでくるかと思ったのにさらっと流された。


また毒が飛んでくるんじゃないかと身構えたのに。

僕の冗談に答える気力はないって事なのだろうか。


でも見学を許して色々教えてくれたから優しい面もある人なんだろう。


「夜も遅いし、帰る準備するぞウスノロ」


「・・・・う、うん」


ウスノロて。

一応年上なんですが。


「片付けも見学が必要?早くしな」


「・・・・」











片付けはあっという間。

彼女はかなり手際良くテキパキとやるので、すぐ終わってしまった。


「片付け完了!帰ろう!」


「じゃ」


「待て待て待て」


スタスタと歩いていく彼女を思わず引き止める。


「うわわわ!!ストーカーに襲われてる!!」


「ち、違うよ」


こんな時間まで付き合ってくれた感謝の気持ちもあったし、せっかく楽しい時間を過ごせたので、お礼もかねて一緒に帰りたかった。


「い、一緒に帰ろうよ」


「はは」


え?なぜ笑うんだ


「?」


「勘違いさせちゃったかなぁ?私アンタみたいな小物な男興味ないから?」


「は、はは」


思わずカッとしそうになるのを笑いで堪えた僕だった。











「ふーん、じゃあもう2人いるんだ。部員の人」


「おう」


僕の横をトコトコと歩く。

身長小さい分歩幅を合わせた方が良いかなとも思ったけど、彼女の歩くスピードは早くてそんな必要はなかった。


「その部員も口悪いの?」


「おのれはスパイか。情報を聞き出してどないするつもりなん」


部員の人他にもいるんだ。

まぁ部員が一人って言う方が変な話だ。


「別に、軽口だよ」


「あーでも、私と違って結構言い方キツイから、アンタみたいな小物は傷つくかも。メソメソないても私は慰めないから頑張ってね」


彼女はくくっと笑う。


「・・・あっそ」


私と違って、ね。


「用事があるのね。あの子。だから最近来てないだけ」


「それにしても1人で活動してるの?顧問は?」


「私は誰にも従いたくないから追い出した。私を縛り付ける奴は誰であっても許せねぇ」


「豪胆ですね」











口数が多い訳ではないが帰り道はあっというま。

久々に佐々木や遠藤以外と帰るから新鮮だった。


「おっと、僕こっち」


「で?」


だから何だという顔。

・・・僕達の関係って友達でもなければ部員と見学者ってだけなんだ。


じゃあこのまま別れたらここで終わりなのかな。


「明日も行くから」


考えるまもなく口からでた。


「来んな、鬱陶しい」


本当に迷惑なら行かないけど。

でも僕は楽しかったし、彼女も満更でもないように見えたんだ。

だから、「また明日も行きたい」ってそう言葉を言いかけた、その瞬間・・・・・




「うっわ!!この自販機当たった!!」


「はいはい!俺欲しい!」



聞き覚えのある声。

忘れもしない。


いつも教室中に響き渡っている声だから。


「あれーねぇ?あれ本田じゃね?」


その声は、同じ掃除当番のメンバーの慶太君達と女子グループたちの声だった。

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