第5話 部活見学

「し、失礼しましたっ」


勝手に覗いて無礼?を働いたのは僕なので謝罪する。

一方、彼女は目すら合わせてくれない。


もう僕なんか興味なしって感じだ。

指で半紙とブンチンを弄ってる。


「・・・」


許してくれたようで良かった。

じゃあ今日のところは・・・


・・・・ってそうじゃないだろ!


こんな、コソコソしたらさっきと変わらない。

学校生活を変えるために見学にきたんだろ。


変に隠す必要ない、言えば良いんだ。


「あ?何でまだここで突っ立ってるのさ。聞こえなかったんか?おい」


く、口悪すぎだろこの子。

でも怯んじゃダメだ!


「僕、見学に来ました」


「あ?」


またギロリと睨んでくる。

思わず「帰ります」と言いたくなるのを、グッと堪える。


「見学にきたんです!書道部の!」


「・・・」


僕を睨む表情を変えないまま、黙る書道部員であろうこの子。

きっと先輩なんだろう。


年上じゃなければこんな迫力は出せるはずがない。


「私なんか見てどうするのさ?ストーカーになりたいって申込してるの?なら却下」


「そうじゃなくて!僕、部活に入りたいから!その見学だよ」


彼女は半紙に目線を移して、墨と筆で文字を書き出した。


・・・シカトされてる?


話を変えないと。


「部員は1人なんですか?」


「馴れ馴れしい。話かけんな」


う、覗き魔の疑いは晴れたと思うんだけど、この扱い。

興味ないですよ〜というアピールをされてるのか。


だけど僕にはとっておきの秘策があるんだ!


「これ、飲み物」


自動販売機で買ったミルクティーを差し出す。

あらかじめ買っておいたんだ。


コーラとかなら男子にしか受けないが、ミルクティーなら男女どちらもいける。

対策はばっちりだ。


差し入れを嫌がる人なんていない・・・はずだよね。


「何よこれ」


「勝手な事言ってるのはわかってるけど、受け取って下さい」


「どうして私がお前から飲み物をもらう必要があるんさ」


「気持ちです。見学料の正当な対価として受け取ってほしい」


少し考え込む彼女。

まだ鋭い目線で敵意ムンムンなのには変わりはない。

ただよく見ると本当に可愛らしい顔をしている。


女性という感じではなく女の子という感じの顔だ。

中学生と言っても信じるかも。


というか可愛い子って周りに優しくされて育つから、優しい子になるって聞くけど、

この子はどうしてここまで気が強くて口調が荒いんだろ。


ひいき目に見なくてもとても容姿が美しい凜花なんて、ものすごくやさしい。


「はーなら貰ってやる。見学代ね」


よし上手くいった!

しかも貰ってくれると言う事は僕の見学も許可してくれたって事だ。


「おい」


「え?」


「これ30分につき1本な」


グビグビ飲みながら指示された。

・・・この子。本当変わってるなぁ。











彼女の筆使いは本当に見事だった。


書いてある字は難しくて読めないけど、書道の先生が書くような、

丁寧で力強い字。


素人の僕が見てもわかる位にとてつもなく上手だ。


「・・・・」


「・・・・」


思わず魅入ってしまう僕と、集中して書いてる彼女。


半紙を見る目は鋭い目線ではあるが、 さきほどの敵意マックスな感じではなく、ただただ真剣に集中している目だった。


さきほどの彼女とは大違いで、その姿がとても綺麗とすら思ってしまった。


「んああああああああああああ!!!!」


絶叫したのは彼女。

静かだった分、高低差ありすぎて耳がキーンとなりそうだった。


「うわ!!」


「気が散るわ!!こっち見るのやめろ-」


え、えぇ。

帰れって事かな。


「見学のOKは貰ったはずじゃあ」


「見学は良いから見るな!!」


け、見学ってどう言う意味だっけ?


「心の目だけでこっち見ろ、そうしたら落ち着くはず」


「・・・」











「見学ってのは見て学ぶと書く。もう散々見たやろ」


そう言うと自分とは別の半紙とブンチンを手際良く用意する。


「やってみろ」


「?」


私のを見たからもう出来るだろ?

というのが彼女の理屈らしい。


確かに上手かったけど、まだ20分程度しか見学してないんだけど。


「安心しろ。制服を着た赤ちゃんのお前でもできるよう私が見ててやる」


意外に面倒見良いのかもしれない。


「良いの?僕なんかの見てくれる?」


「お前に見られるよりマシ」


堂々と言ってのける。

ここまで堂々だと悪意すら感じない。


「じゃ、じゃあ・・・」


ただ実は小学生の時ずっと書道の先生の家で習ってたんだ。

よーし、頑張るぞ。

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