第3話 掃除時間
あっという間に放課後を迎えた。
嫌な事もあったが、体育のキャッチボールは結構楽しかった。
ちょこちょこ変化球を試したいとか言われて、変なところに投げられて取るのは疲れたけど、久々に楽しく体を動かせたな。
やっぱり何かに一生けんめいになるって楽しい。
久々にこんな感覚を思い出した。
サッカー部もやめちゃったしね。
「本田ー」
ドキッとして呼ばれて声をした方を振り向く。
「今日の本当かー見せろよー」
話しかけてきたのは今日キャッチボールをした山上君だった。
「あ、ああ。うんこれ」
彼も僕と同じサッカー好きだったみたいで、僕が昔、海外の有名選手と写真を取った話をすると凄い食いついてきて、そういえば放課後に見せる約束をしていた。
「うわっ、本当だこれ。え?マジですごクリロナじゃん」
「はは、僕の一生の宝物だよ」
「え、本田ってユナイテッドサポーターなの?俺も」
「良いねー好きな選手は?」
「ルーニー!てか、本田ってサッカー部じゃなかった?」
「え、うん」
カラミは無かったけど、知ってたんだ。
申し訳ないが、僕は1年生の時は山上の事は知らなかった。
「辞めたのもったいねー」
その山上君の言葉にすぐ答えられなかった。
僕が一瞬言葉につまると
「山上行くぞー」
山上君の友達グループであろう人たちが遠くから彼を呼ぶ声が聞こえた。
「お、まってーーー」
山上君が急いだ様子で鞄を持って教室からでていった。
あれは、山上君の部活の友達だった気がする。
行ってしまったけど、久々に学校でまともに会話した気がする。
楽しかったな。
・・・・部活の友達、か。
「あ・・・僕今日掃除当番だった」
♢
「慶太(けいた)君って音楽こういうの好きなんだ!」
「コイツは茜が好きなのも聞くよ」
「え、茜ちゃんって、あのバンド好きなの?」
「うん!めっちゃ好き!」
また憂鬱な時間が始まった。
僕は掃除当番の班が、このクラスの1軍というか、中心人物の男女のグループと一緒なんだ。
茜や女子グループの中心である川村さんも一緒。
男子は僕と、慶太(けいた)君と雄哉(ゆうや)君。
二人とも僕と違ってクラスの中心人物でちょっと不良っぽい感じの男子たちだ。
よく誰々と付き合ったとか、付き合ってないとか、そう言う話を噂で聞くし他校にも友達が多いみたい。
1年の時はクラスが違ったが2人とも目立つので一方的に彼らを知っていた。
少し話したことだってあったかもしれない。
・・・まぁ今となっては会話もしないけど。
「茜ちゃん、次のライブ近いの知ってる?」
「うん!だって私達前のライブ皆んなで見に行ったし」
「ねー?」
「ねー」
僕を除く皆で楽しそうに会話してる。
個人的にはこの掃除の時間は疎外感を感じるので急いで終わらせたいんだけど。
いつも話し込むせいで、掃除長引くんだよなぁ。
「ねーー!!本田ーーー!!!」
「!」
みんな僕に話しかけない物だとばかり思っていたから、
突然大きな声で名前を呼ばれてびっくりした。
後ろを振り返ると川村さんだった。
「え、な、なに」
「なに?じゃないんだけど。どうして一人で机おろしてるの?」
普通に話しかけてくれよ。
山田さんは敵意マックスという感じで、先程まで楽しそうにしていた班のみんなも、今の大きな声で視線が一斉にこちらに集まる。
「床掃除終わらせたし、もう片付けようかなって思ったんだけど」
「は?私たちが、まだちり取り持ってるの見えないの?」
「え」
床掃除はさっき僕が全部終わらせたのに。
ちりとりはあるがゴミはほとんど入っていない。
それはそうだ、先ほど僕が掃除している所をまた掃除してるんだから。
「えwえw」
「あはは、カオナシかよwww」
少し離れたところで慶太君と雄哉君が僕を弄っていた。
全然聞こえているんだけど。
いやそんな事はお構いなしで話しているのか。
はぁ、やりづらいなぁ。
♢
「ふぅ」
結局あれから30分近くたってしまった。
普通にやれば5分も掛からなかったろうに。
1日の終わりがああだと、流石に胸糞悪い。
「本田じゃん」
「あ、山上君」
彼はバスケ部なので部活で外に移動するのだろうか。
ユニフォームらしき物を着ていた。
「今日はよくあうな」
「山上君は部活だよね、頑張って」
「おー」
そう言うと奥から男女の大きい声が聞こえる。
先ほどの掃除のグループだった。
どうやら僕抜きの男子2人、女子3人で一緒に帰るらしい。
「山上君じゃねー」
川村さんが山上君に挨拶する。
僕には挨拶無しなのは、もう余り気にならない。
団体が去っていった。
ふと顔を上げると山上がまだ目の前にいた。
まだ立ち去っていなかったのか。
「本当に嫌われてるな本田は。学校楽しいの?」
直球で聞いてくるな。
「楽しくは、ないよ」
正直な返答。
普段だったらもっと取り繕ったかもしれないけど、今日はなんか疲れてしまった。
「俺も話すまで本田は嫌いだったよ。でもこうやって話すと思ったより普通のやつなんだなって思った」
どんな風に思われていたんだ。
僕も自分のうわさについて完全には知らない。
「俺も周りから嫌われたくはないし、表立って君を味方する気はないけど、あんましょぼくれてんなよ。しょぼくれてる奴がクラスにいると雰囲気が悪くなるしな。じゃ、まぁがんばって」
肩をポンと叩いて、そういって山上は去っていった。
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