第3話 鍋の音

朝、台所から聞こえる音で目が覚める。

鍋をガタンと置く音、箸がコトコトと器に触れる音。


それだけで、今日も母が元気だという証拠。

いつもと変わらない日常が、そんな音で確認できる。


昔、母が風邪をひいたとき、台所が静かだったのが妙に不安だった。

鍋の音がしない朝がこんなにも落ち着かないものかと、私はその時初めて気づいたのだ。


今、私が自分の台所で鍋を火にかけると、その音が私にとっての「日常の音」になっている。


母の台所で響いていた音と同じ音が、今度は私の家で鳴っていると思うと、少しだけ母と繋がっているような気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る