奇襲
◆
「よし、
フィルス他4人は各々構える。
得物はそれぞれに合ったもので、フィルスはスタンダードな長剣だ。
ギルドの払い下げの 品だけあって 大した品質ではないが, それでも 森林狼 程度を 相手 取るには 十分だ。
エリオ や ヘイズなどは 自前の長剣を 持っており、カレンは 弓、 ライデルは 彼の師匠に 作ってもらったという ハンドメイドの短杖だった。
「たかが狼だろ」
そう嘯くのは ヘイズだ。
しかし よく見れば 剣を持つ手が わずかに震えており 緊張を隠しきれていない。
それに対して エリオは 堂々としたものだ。
「すす、すごいね、エリオ」
ライデルがエリオの態度を讃えると、 エリオは軽く 苦笑しながら「 剣を使って戦うのは初めてじゃないんだ。 傭兵 みたいなことを したことがあってね」
カレンは何も言わないが エリオに 熱い視線を注いでいる。
そしてフィルスはというと──
しきりに唇を舐め、 足の位置は定まらず どうにも落ち着きがない。
「フィルス、落ち着け。剣の振り方は講習で習っただろう。それにお前達は4人、負ける相手じゃない。それにいざとなったら俺もいる」
見かねたマカクが声をかける。
「は、はい」
しかし フィルスの緊張はそんな 言葉だけでは 拭えそうにもなかった。
「この分ならそこまで 心配する必要は なさそうだな」
エリオがそんなことを言う。
「え、え? ななななにが、だい?」
ライデルが尋ねると、 エリオ はこっちのことだと言って取り合わなかった。
◆
「来るぞ!」
マカクが叫ぶと同時に、エリオが飛び出した。
「僕が気を引く! ライデル! カレン! 誤射するなよ! フィルス! 合わせてくれ!」
その声の張りに 多少は 勇気づけられたか、 フィルス も「分かった!」と 形だけは 威勢よく 返事を返した。
果たして木陰から飛び出してきたのは、マカクの見立て通りに一頭の森林狼だ。
その姿はフィルスが 知る 普通の 狼よりも 一回り 大きい。
魔物と普通の獣の 違いは、 人類種への 攻撃性である。
普通の獣は 多くの人間が集まる こういった場へ 自分から飛び出していこうとは 考えない。
彼らにとって 闘争とは 自身が 生存するための 一手段であって、 闘争そのものを 目的とする 獣 など まずいないのだ。
しかし 魔物はそうではない──
飛び出してきた森林狼はその大きな咢を開き、エリオをかみ殺してやろうと襲い掛かった。
しかし胸元に飛び掛かってきた森林狼の下顎を、エリオは事も無げに膝蹴りでカチ上げた。
普通の狼でさえ その身体能力は 一般人を はるかに凌駕するが、 魔物である 森林狼ともなると当然 その分 凄まじいものとなる。
全身の筋肉、 バネは 人間の膝蹴り如きでは 普通は揺るぎもしないのだ。
しかし エリオは 普通じゃないことを簡単にやってのけた。
ぎゃんと地に落ちる森林狼の腹に、フィルスは突きを見舞った。
・
・
「おおお、おわっちゃった」
「あんたは何もしてないね」
「ききき、君もだ! カレン、ゆゆ、ゆゆゆ……ゆ」
「弓を構えてただけって? あんたの力じゃ弓を引くことも出来ないでしょうね」
「な、なななにっ」
ライデルはカレンと言い争いをしている。
マカクはまだ他に魔物がいるかもしれないというのに気を抜いている二人に呆れながら、エリオとフィルスの
──特にエリオがいいな。肚が据わってる。フィルスはまだ皮がむけていないというか……だが経験を積めば解消出来るか
「よくやった。特に言う事はないが、フィルスはもう少し出足が速いといいな。しかしこれだとまだカレンやライデルの出番がない。エリオもフィルスも消耗はしていないだろうから、もう一戦といくか」
マカクは少し機嫌が良さそうだ。
「まあ、そう都合よく魔物が見つかればだが」──と背を向けて森の奥を覗き込んだマカクの胸を、エリオの剣が刺し貫いた。
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