流転する変幻の風
◆
「ちょっとあんた」
ある日の講習後……放課後に、フィルスは再び剣術少女から声を掛けられた。
「なにかな」
フィルスが無表情で向き直ると、剣術少女は「うっ!」と謎に呻く。
「ちょっとその顔やめなさいよ……別にもう喧嘩売ったりはしないわよ」
「それならいいんだけど。ゲド……師匠が、絡まれて迷惑するようならやっちゃえって言うものだから」
「やっちゃえとは……?」
剣術少女は恐る恐るいぶかしんでいるようだ。
「師匠は結構厳しいんだよね。僕も毎日気絶するまで走らされてるし。……いや、無理やりじゃないよ。特訓なんだ」
──気絶するまで!?
と剣術少女は驚愕した。
村一番の剣術達者であるところの彼女も、体力の重要さはよくわかる。
──でも毎日気絶するまで走るというのは頭がおかしいわ……なるほど、こいつは頭がおかしかったのね
「ま、まあもう別に喧嘩は売らないから……とにかく、そう、私はあんたの力に興味があるのよ」
「力?」
「ええ。言っちゃ悪いけどあんたの身のこなしはゴミね。でも物凄い早いし、物凄い力が強いわ。どうやって鍛えたか知りたいの」
「僕ってゴミなの?」
「ええ、素人まるだしね。ゴミよ。言っておくけど、あんたと私の力の強さが同じなら、私が2秒で勝ってたわよ」
「ま、まあ僕は剣術とか習った事がないから……」
フィルスは忍耐強く剣術少女の酷い暴言を耐えた。
彼自身余り自覚していない事だが、ゲドスをけなされなければそれなりには耐えられるのだ。
「ふうん、まあ天性の身体能力ってやつなのね。いや、毎朝気絶するまでって走ってるっていってたか。じゃあ天性の才能に努力が加わった結果、あんたみたいな怪物ができあがったってわけね」
──怪物って
フィルスは少し傷つきながら、努力をしていることを認めてくれた剣術少女に少しだけ好感を抱いた。
「ところで君の名前なんだけどなんていうの?僕はフィルスっていうんだけど」
「フィルス。ふうん、流転する変幻の風か。冒険者らしい良い名前じゃないの」
「え?る、るてん?」
「神命記の風の大精霊よ、知らないの?まあいいや、とにかく私も負けてられないわね。いまから走ってくるわ」
そういって剣術少女は名乗らずに走り去っていってしまった。
◆
「……みたいなことがあったんだよね」
フィルスは言いながら、木杯を呷る。
酒ではなく果実汁だ。
ゲドスとフィルスは少し遅い時間の食事をとっていた。
外食である。
「ほう、中々博識なメスガキですな。流転する変幻の風、フィルスという大精霊は確かにおりますよ。冒険者の神とも呼ばれていましてな、かの大精霊の加護を受けた者は一生一所に安住することはなく、世界中を放浪する羽目になるのだとか」
「確かに冒険者らしいけど……」
なんかやだな~と思うフィルスであった。
「それはともかく、フィルス殿にもそろそろ魔術のまの字くらいはお教えしても良さそうですな」
「ほんと!?ルーサットについたら教えてくれるって約束だったもんね、覚えててくれたんだ」
「忘れたりはしませんが、色々準備というものがありますゆえ。その準備ができたというわけです」
件の首輪と腕輪である。
魔術も加減を間違えると悲惨な事になる──主に本人が。
「そろそろ講習も終わるでしょう?色々含め、その時にお教えいたしますよ。業の伝授の支払いは、《こ・》
ゲドスが人差し指と中指の間に親指をはさみ、先っちょをぴくぴくと動かした。
これは卑猥な意味を持つ一種のボディスラングで、意味としては「お前かわいいな、ちょっとおっぱい舐めさせろよ」である。
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