寝物語に
◆
「そうですなあ。概ねその講師の言う通りです。北の森は中域以降はまた毛色が変わってきますからな」
「んっ……一番奥には何かあるのかな?」
「竜の墓があると言われております」
「はっ……あ……ね、ねえ……いや、なんでもない……。ん……、んちゅ……竜のお墓……」
「左様。──其、名を悪竜カロッツァと云ふ。森人の麗しき姫巫女を見初め、我が物にせんとす。森人、大挙してかの竜を滅さんとするが叶わじ。魔王これを知り悪竜を招くも、悪竜それを赫怒の焔にて応ず。魔王激して悪竜を誅するさんと欲すが、やがて屈す。"我は魔に非ず。我は悪
「……それって、悪い竜が守り人の女の人を攫って、森人の軍隊もやっつけた。魔王はそれをしって悪竜を仲間にしようとしたけれど、逆に悪竜にやっつけられちゃったって事?……んんっ……ゆ、指ぃ……かき混ぜちゃ、やだぁ……」
荒い息遣いと水気を多分に含んだ淫靡な音が寝室に響いた。
「左様です。まあそれで結局魔王含めその一党と相打つ形で悪竜カロッツァも力尽き、最期は森の奥深くで果てたと。そういうわけですな」
「や、やらぁ……ん、んんんッ!……はぁ……」
「おお、勇者殿も達しましたか、ぐふふ。しかしまだ儂はほれ、このように……」
フィルスの下腹部へ当てられたゲドスのゲドスは力強く自己主張をしている。
「勇者殿」
ゲドスは言うと、あおむけになった。
ナニをしろという意思表示であろう。
フィルスはじと目でゲドスを睨みつけ──
「僕は……男だ、女の子なんかじゃない」
囁く様にフィルスは言い、自らゲドスの唇を求め、そして離す。
唾液が糸となって唇と唇に架かり、室内の光を僅かに綺羅と反射した。
・
・
「ほら、そう拗ねないでくだされフィルス殿。貴殿は立派な男、勇者の中の勇者です」
事の後、ゲドスが清潔な布でフィルス♀の体を拭いている。
フィルスはゲドスに体を預け、体中に付着した体液だのなんだのを拭かれるがままに任せていた。
「……そんな事いってさ……」
続く言葉は出ない。
散々女体の悦びを味わってしまった後には、性自認♂のフィルスとしては気恥ずかしくて何を言えばいいのやらという所であった。
「……よし、これで綺麗になりましたぞ、明日もフィルス殿が吐くまで走りますので今夜はしっかり休んでくだされ」
「ありがと……でも吐くまで走るならもっと早く寝たかったけど」
フィルスはジト目でゲドスを見るが、ゲドスは聞こえないふりをして横になるなり5秒程で眠りについた。
自分は今すぐ眠りたい、眠くて眠くて1秒も我慢できないという強烈な自己暗示がこれを可能とする。
◇◇◇
メスじゃないって本当なんだろうか。
横で眠るゲドスを見ながら僕は自問自答した。
少なくとも、喘ぎ、よがっていた僕には男らしさのかけらもなかった。
──フィルス、お父さんみたいに男らしくなりなさいね
お母さんはいつも僕にそんなことを言っていた。
僕は男らしいだろうか。
ゲドスは優しく僕を抱く。
最初は乱暴だったのに。
まあゲドスは決して僕に暴力を振るったりはしなかったけど……あれは言葉の暴力だ。
抱かれなくてもいいけど金3万を支払えなんていわれては、自分の意志がどうであってもゲドスとせざるを得ないじゃないか。
でもゲドス以外の人たちは僕のことなんて見向きもしなかったし、僕に選択肢なんてなかった。
それに、僕の中の違う僕がこんなことを囁くんだ。
──『絶対に彼を逃がすな』
って。
◆
そして翌日、フィルスはいつものように吐くまで走り、そして揉みほぐされ、講習へと向かった。
そんな日々が何度か繰り返され、ゲドスもシェルミとSMプレイをしたり才無き少年ミロクをからかったりとエンジョイに余念がない。
そんなある日、ついにゲドスたちの泊る宿へトーマスからの使者が現れ──
・
・
「ほう、トーマス殿がようやく。では確かに受け取りましたぞ」
ゲドスは満足げに
首輪と腕輪である。
ローレンツの眼球を術式の媒体として、着用者の力の発露を抑制する。
これらの魔道具の優れた点は単純に力を抑制するのではなく、着用者が想定する力の出し具合に調整されるという点だ。
要するに、この首輪か腕輪を着用すれば誤爆がなくなる。
フィルスは既に人間を殴り殺せる力を持っているが、骨の一本をへし折ってやろうとして殴っても誤って殴り殺してしまうことはなく、意図の通りに骨折に至らしめる程度の力に抑える事が出来るわけだ。
道具は道具、いつまでも永遠に使い続ける事が出来るというわけではないが、それでもフィルスが自分の力に慣れてくるまでの時間稼ぎ程度にはなるだろう。
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