悪くはないですが


ゲドスは悪辣な男だ。


それは間違いない。


殺しを忌避せず、チンポに正直に生きている。


嘘をつくことを躊躇わず、裏切りも時には可とする精神性だ。


しかし妙なところでわきまえている部分もある。


「ところで本当に遊んでいかないのかの?」


魔族ダルマの事である。


──悪くはないですがな


なるほど確かに魅力的な肉体だ。


力と魔の双方を象徴する肉をそれぞれ兼ね備えている完全な肉体は、ゲドスを疼かせる。


──青い肉も不味くはない。むしろ美味いとも言える。油断をすれば殺されるというのがまた良いスパイスとなりますからなァ


ゲドスは脳裏に、かつて戦い、勝利し、そして犯した魔族の事を思い出した。


その魔族は力よりも魔に寄った個体で男性性よりも女性性が強く主張をしていたので、ゲドスは散々に犯した。


犯すのみではなく、地面に穴を掘らせた。


それは墓穴だ──魔族自身の。


股の間からだらだらと汚濁の液を垂らしながら、自分用の墓穴を掘る魔族の無様っぷりを思うとゲドスは今でも2、3回は抜ける。


が、しかし──


「辞めておきましょう、はトーマス殿が仕留めた獲物でしょう。殺すも犯すもトーマス殿がやるべきです」


「お主は昔からそうじゃな、まあいい、これは儂が楽しむとしよう。儂もまだまだ健在、この魔族共らが殺めたホラズムの民の人数分だけ孕ませてやるのもよいか。ギヒヒ……とにかく例のものは心当たりがあるようじゃから、もし手に入れたら持ってくるがいい」


「助かります。それでは儂はお暇しましょう。余り根を詰め過ぎないようにしてくだされよ、もうお若くはないのですから」


ゲドスの言葉にトーマスはむっとした表情を浮かべ、「お主も若くはないじゃろうが!」と怒鳴りつけた。


「ぐぶぶぶ……儂はまだまだ若造ですわい。それでは」



──トーマス殿も相変わらずですな。しかし魔族を捕らえるというのは簡単な事ではない。きっと上手く嵌めたのでしょうな


この世界で魔族とは何も、魔界なる暗黒空間から湧いて出てくる超常的存在ではない。


彼らもまたこの世界の一部なのだ。


単に好戦的で強くて肌が青くて、そして単為生殖をする民族というだけに過ぎない。


工夫次第ではただの人間でも魔族は殺したり捕らえたりする事は出来る。


「まあ、ともあれ当面の問題は……」


ゲドスはシェルミとのピロートーク中に聞いたローレンツの事を考えた。


上級冒険者ローレンツ。


勇者ローレンツ。


強く、美しく、品格を兼ね備える男。


──才能はあるんでしょうな、才能は


ゲドスはにたりと嗤う。


──シェルミ殿を救ったのはただの成り行きだが、もしあの場で邂逅しなくともどのみちシェルミ殿は解放されていたでしょうな


そう、ローレンツという輩は才能はあるのだろう、とゲドスは再度思う。


「しかし、運はありませんな」


"邪悪なる"フロッグ・ハイロードが脆弱な人間を嘲笑う様な風情でゲドスは嗤う。



そうして宿に戻ったゲドス。


だが、このタフな男にしてはどこか困惑気味だ。


その原因は──


「ふむ……どうされたのですかな、フィルス殿」


目の前には床に正座するフィルスの姿がある。


背を丸め首を垂れ、まるで残暑を待つ死刑囚のようだ。


「ごめんなさい」


フィルスはかすれたような声でそう言った。


まさか、とゲドスは表情を引き締める。


「話を聞きましょう」


この時彼は最悪の状況を想像していた。


最悪──すなわちフィルスが力を御しきれず、誰かを殺害してしまったという状況だ。


だが──


実は、とを口を開いたフィルスの話を聞いてるうちそれが杞憂だと知ってゲドスはほっとする。


「まあ問題は全くない、とは言いませんがフィルス殿が罪に問われることはないでしょう。しかし力を制御できなかったフィルス殿にも非はある」


ゲノスがそう言うとフィルスはより一層意気消沈したように「うん……」と掠れるような声を出した。


そんなに向かってゲドスは近づいて、ゆっくり頭を撫で背中を何度か優しく叩きながら「おおよしよし」と、まるで愛犬をなだめるような仕草をとった。


「僕、犬じゃないよ……」


「知っておりますとも。まあしかしですな、非なら儂にもあるのです。フィルス殿がここまでわしの魔力と順応するとは思いませんでしたからな、少々調子に乗り過ぎましたわい!ぐぶぶぶ……。悪いのはお互い様ということで……」


乗ったのはフィルスのほうなのだが、ゲドスの言葉は交わりを容易に連想させるもので、完全にセクハラといえる。


フィルスは赤面しながら顔を俯けた。


それがきっかけというわけではないが、フィルスは気になっていたことを尋ねてみた。


「その、ことだけど、ゲドスのその、あれで、子供ができたりしないのかな」


これは当然の疑問だ。


もし子供ができるということであれば事である。


フィルスの性自認が完全に歪んでしまいかねない。


しかし幸いな事に、それは杞憂だった。


「儂のまあ、あれは魔力となってフィルス殿へ余す事なく吸収されておりますぞ。したがって子供が出来るという事はありませぬ。性魔術とはそういうものです。──さ、もういいのでお立ち下され」


ゲドスはそういいながらフィルスの両脇に手を差し入れて彼を立たせた。


「先ほど知人にあいまして。力の制御を助けてくれる魔道具を作ってもらう事に相成りました。少し時間がかかりますがな。どのみちフィルス殿の訓練も暫く続くわけですから、丁度良いでしょう。ところでその怪我させてしまったという者が復帰したら──」


「うん、勿論謝るよ」


「いや、別に謝る必要はありますまい。話の通りならばその少女の自業自得ですからな。儂が言いたいのは、二度と舐めた事をしないように分からせてやると良いという事ですな。『もし次、舐めた真似をすれば骨折じゃすませない』と優しく声をかけてやるといいでしょう」


冒険者は舐められたら終わりですからな、と言うゲドス。


そんなゲドスを「困った人だな」という様な視線で見るフィルスであった。



◆◆Tips◆◆


【"邪悪なる"フロッグ・ハイロード】


50年前に討伐された魔王認定された魔物。


懸賞額は金300,000。


体長10メートル近い巨大な体を持ち、鋭利な刃のような手足で敵を切り裂く。


血のように真っ赤な瞳は、視線を受けた者を恐怖で縛鎖する。


この魔王を討伐したのは"外道鎧の"シガラキという勇者で、莫大な懸賞金を手に入れた。


この額は普通の人間が百生を遊んで暮らすのに十分な額。


彼はその金で風俗街を作り、そこで遊び続けた。


しかし贅沢と快楽に溺れた彼は、最終的に性病で命を落とすという悲惨な結末を迎えることになる。

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