ルーサットへ
◆
襲撃があった宿を早々に引き払ったフィルスとゲドスは、次の目的地であるルーサットの街へと向かった。
ルーサットは冒険者の街として知られており、周辺には初心者向きの稼ぎ場所が数多くあり、少し足を延ばせば中・上級者向けのダンジョンだとかそういうものもある。
要するに実力を高めるにはうってつけなのだ。
移動手段は馬車──しかも安物ではなく、高級個室馬車である。
「ゲドス、必ずお金は返すから……」
フィルスが言うと、ゲドスはグェップとゲップを返す。
「おっと失礼。余りにも洒落臭い事を仰るので少々粗相をしてしまいました」
「洒落臭いって……」
「儂の稼ぎを超えてから言う事ですな。まあしかし、理由はあるのです。安い乗り合い馬車や徒歩だとまたぞろ襲撃に遭いますからな。高級馬車は馬車組合の護衛もついておりますし、余程脳が間抜けでもなければ襲撃などは考えないでしょう」
本来ならば、と言葉を切り、ゲドスはじりじりとフィルスににじり寄っていく。
ゲドスが何を求めているか分かったフィルスは溜息をつきながら目を瞑り、自身の内の神秘を発動させた。
フィルス♂はそのままでも中性的な若者だが、フィルス♀は明らかに雌臭くなる。
──ゲドスは卑怯だ
フィルスはそんな事を思った。
というのも、ゲドスという男がフィルスの体を愉しもうとする時は、必ず何かしらの働きを見せるのだ。
今回に関しては高額な馬車代を立て替えた。
これが見境なく手を出してくる様ならフィルスも考えがあったが、必ず対価として求めてくるから断りづらい。
「本来ならば、勇者殿の鍛錬の為にも刺客の一人や二人と交戦してもいいかも知れませぬが、ルーサットで依頼を受けつつ鍛えた方が効率がよろしいですからな」
ゲドスは最もな事をいいながら分厚い牛タンの様な舌をべろりと出しながら、フィルスの首筋をべろんべろんと舐めはじめる。
「あ、う……き、汚いからやめてくれよ……」
「ぐぶ!ぐっふふふふ、乙女の柔肌──美味也!舌が喜んでおりますぞ!」
首筋、うなじ、耳。
ゲドスはぶっちゅぶっちゅと接吻を落とし、きめ細かいフィルスの肌を舐めしゃぶった。
「勇者殿……儂はいま、貴殿を、あなたを●してやりたい。その細い腕を抑えつけ、●●●●●●、桃色の●●を儂の舌の上で●●●●●●。想像してみろ──お前は儂に●●●●●●●。本当は男なのに、魔王を討伐する宿命を負った聖戦士であるというのに。このような醜い男に●●●●。神から賜った奇跡を使って雌になる気分はどうだ?」
魔力が乗せられた言葉はフィルスの自尊心をこれ以上ない程凌辱する。
「は、はあ……はあ、はあ……ぼ、僕は雌なんか、じゃ……ない」
抵抗するフィルスだが、●●●●●●●が無理やり押し付けられると●●●●に色の火が灯るのを感じた
「儂の●●に触れなさい」
ゲドスが命令すると、フィルスは表情を歪ませて●●●●●●●。
──熱い……
「熱いですかな?これで思い切り●●●●●●●●。勇者殿が泣こうが喚こうが──儂は絶対に辞めない。朝まで●●●●●●●やるぞ……!」
ここでフィルスの精神に限界が来た。
ぽろりぽろりと涙がこぼれる。
「ど、どうして、そんな。どうして、そんな風にいじめるの……」
そんなフィルスの泣きっ面を見たゲドスは眉をあげ、苦笑しながらその豚ボディを押し付けるようにして抱きしめた。
「冗談ですよ、冗談。勇者殿の精神を鍛えるための訓練です。安心しなさい。そんな無体な事はしませんとも──今は」
ゲドスは声に魔力を滲ませ、フィルスを強制的に鎮静した。
「うん……」
フィルスは瞳に不安の波を湛えてゲドスを見上げている。
それを見てゲドスは「こうしてちょっと安心させてから●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●やったらどんな風に啼いてくれるだろうか」などと不謹慎な事を考えた。
◆
「しかし刺客も絶えませんなあ。他にも勇者がいる筈なのにねぇ」
ゲドスがそんな事を言う。
さっきまで散々にフィルスをいじめていた事をすっかり忘れてしまったかのように平然としている。
彼の言う通り、この世界には勇者がポコポコと生まれている──と言っても年に1人や2人だが。
ただ、ポコポコ生まれている分ポコポコ死んでいるのだ。
死因は殆どが暗殺で、なぜそんな事になってしまうのかと言えば、勇者選定の際に大きな光の柱が秘選定者に降り注ぐからに他ならない。
勇者を良く思わない人間、魔族、その他敵対勢力にも丸わかりなのだから、そりゃあ殺されてしまうのは無理のない話であった。
そういった淘汰から逃れた者のみが勇者として大成し、各地で魔族撃滅の為の尖兵となっている。
フィルスは不運ではあった。
元はと言えば十把一絡げの農村の牛飼いの家に生まれた彼は、ある日突然何の前触れもなく光の柱に飲み込まれ、自身が勇者として選定されたと天啓を受けたのだ。
畢竟、その村は魔族に捕捉されて滅ぼされる事になった。
フィルス自身は襲撃前に村の者たちによって逃がされ、命からがら近くの街にたどり着く事が出来たことは不幸中の幸いと言えるだろう。
そしてその街でゲドスに出逢ったのだ。
「ゲドス、いつも護ってくれてありがとう。僕も少しでも早く強くなるから……」
フィルスの言葉に「まあそれは良いんですがね」と鼻毛をぶちぶちと抜くゲドス。
「な、何を……。ゲドス、他の人の前でそんな事しちゃだめだからねって……え?なんで、涙が」
フィルスは再び涙を流していた。
泣かずにはいられなかった。
しかし今度の涙はゲドスがいじめるからではない。
もっと根源的な悲しみだ。
このあまりにも広い世界には沢山の人がいるというのに、その誰一人として自分にとって "誰でもない" という悲しみがフィルスを襲っていた。
「ひっく、ぼ、ぼくは……なんで……」
自分は一人なのだ、孤独なのだという悲しみで胸が張り裂けそうだった。
しかし──
──『報われぬ魂、非業の
ゲドスは低い声を響かせて、馬車の外に手を差し出して鼻毛をぱらぱらとまき散らした。
宙を舞うゲドスの鼻毛は瞬く間に周囲を彷徨う雑霊が受肉する為の触媒となり、生ける屍と化す。
──『儂らを尾けてきている者たちがいる。疾く行き、皆殺しにせよ』
ゲドスがそう命令を下すと、屍肉兵たちは生の喜びを得た歓喜の呻き声をあげながら馬車の後方へと走り去って行った。
これは自身の肉体を触媒として奇跡を起こす "月の魔術" の一つで、周辺を漂う浮遊霊に肉体を与え、その見返りに使役をする "死霊使役法" というおぞましい魔術である。
旧ホラズム王国では太陽と月が神格化されており、ゲドスは月の魔術を修めていた。
フィルスが涙したのはゲドスの魔術行使に中てられたからだ。
ちなみに "月の魔術" には様々な魔術があり、全部が全部死霊使役法のような忌まわしいものという訳ではない。
更に言えば、本来は髪の毛などを触媒とするが、ゲドスは禿げているので髪の毛は使用できない。
◆
「刺客というより、山賊とかそういった類でしたなぁ。馬車の襲撃は正面よりも後方からの方が成功しやすい。やはり護衛の面々も注意は前方に向きますからな」
「そうなんだ……それにしてもやっぱりゲドスって凄いんだね……」
襲撃者が追ってきていた事など、フィルスには全くわからなかった。
本当にこんなことで強くなれるのかと落ち込むフィルスに向けて、ゲドスはフンと笑う。
「儂が凄いのは当然ですな。修行を積んだ年月が違います。ですがその凄い儂がフィルス殿には才能があるといっているのですから、少しは信じる事です」
「……ありがとう、ゲドス」
「いえいえ、どういたしまして、勇者……殿ッ!」
言うなり、ゲドスはフィルスの脇の下に鼻を突っ込み、フンフンフンと匂いを嗅いだ。
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