第7話 非オタたちは文句があるようです。

秋葉原の街並みは、まるでアニメの中から飛び出してきたかのような光景に包まれていた。建物の輪郭はくっきりとした線で縁取られ、道行く人々の髪の色は鮮やかな虹色に輝いている。街角では、魔法少女が悪を倒す派手なアクションシーンが繰り広げられ、通行人たちは歓声を上げながら、スマートフォンで撮影に興じていた。


かぐやは、竹取アニメ堂の前に立ち、満足げに街の様子を眺めていた。彼女の周りには、様々なアニメキャラクターのコスプレをした人々が集まり、はしゃいでいる。


「すごい! 夢のような世界だよ!」ミライトが興奮した様子で叫んだ。


神崎もにこやかに頷いた。「確かに素晴らしい光景ですね。VTuberたちも大喜びです」


二次元介は熱心にスケッチブックに描き込んでいた。「この光景、必ず作品に活かしてみせます!」


かぐやは嬉しそうに微笑んだ。「みんなが楽しそうで良かった! これが理想の世界なんだね」


しかし、その喜びも束の間のものだった。


数日後、街の雰囲気が少しずつ変わり始めた。アニメ世界を楽しむオタクたちの歓声の中に、苛立ちの声が混じり始めたのだ。


「もう、いい加減にしてくれよ!」スーツ姿の男性が怒鳴った。「こんな状態じゃ、まともに仕事になんないんだ!」


男性の怒りの矛先は、道路の真ん中で突然歌い始めたアイドルグループとそれを取り囲むファンたちに向けられていた。渋滞が発生し、周囲は騒然となっていた。


別の場所では、主婦らしき女性が困惑した表情で店主に訴えていた。「お肉を買いに来たのに、なぜか魔法のステッキしか売ってないのよ。一体どうすれば良いの?」


このような不満の声は、日を追うごとに大きくなっていった。


ある日、秋葉が心配そうな表情でかぐやに話しかけた。「かぐや、大変なことになってきたぞ。地域の自治会や商工会議所で、この状況を問題視する声が上がっているんだ」


かぐやは困惑した様子で尋ねた。「えっ? でも、みんな楽しそうだったのに...」


秋葉は深刻な表情で説明を続けた。「確かにオタクたちは楽しんでいる。でもな、一般の人々の日常生活に大きな支障が出ているんだ。仕事ができない、買い物ができない、子供を学校に通わせられない...そういった問題が山積みになっている」


その夜、テレビのニュース番組が秋葉原の状況を大々的に取り上げた。


「秋葉原で起きている異常事態、一体何が原因なのか? オタク文化の行き過ぎた暴走か、それとも未知の現象か? 専門家を交えて徹底討論します」


SNSでも話題が沸騰していた。


「#秋葉原異常事態」「#アニメ世界の悪夢」といったハッシュタグが次々とトレンド入りし、賛否両論の激しい議論が繰り広げられていた。


オタクたちは必死に自分たちの「理想郷」を守ろうとしていた。


「僕たちには夢を追求する権利がある!」

「リアルな世界なんて、もう懲り懲りだ!」

「ここは俺たちの聖地なんだ。邪魔するな!」


一方、非オタクたちの反発も強まっていった。


「いい加減に現実に戻ってこい!」

「税金を払ってるんだぞ、ちゃんと働け!」

「子供たちの将来を考えろ!」


ある日、かぐやは偶然、小規模な衝突の現場に遭遇した。


オタク風の若者たちが、スーツ姿の会社員らしき人々と言い争いになっていた。


「邪魔だ! どいてくれ!」

「お前らこそ邪魔なんだよ! 現実逃避して...」


言葉の応酬は次第にエスカレートし、ついには肩を小突き合う場面も見られた。


「お前ら、現実を見ろよ! こんなもの、ファンタジーだ!」

「うるせぇ! 俺たちの夢を踏みにじるな!」


かぐやは、その光景を目の当たりにして、言葉を失った。彼女の目には、涙が浮かんでいた。


「私...こんなつもりじゃ...」


秋葉がそっとかぐやの肩に手を置いた。「かぐや、お前が悪いわけじゃない。ただ、現実とファンタジーの境界線を引くのは、想像以上に難しいことなんだ」


その夜、かぐやは眠れずにいた。窓の外では、大規模なデモの準備が進められているようだった。明日は、オタクと非オタクの大規模な衝突が予想されている。


街全体に、ただならぬ緊張感が漂っていた。


かぐやは「現実干渉マシン」を見つめながら、呟いた。「どうすれば...みんなを幸せにできるんだろう」


外では、夜空に不自然なほど鮮やかな満月が輝いていた。その光は、まるで明日の混乱を予見しているかのように、不気味に街を照らしていたのだった。

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