怖いヤンキーだと思ったら純情で、清楚な美人だと思ったらスケベで、生意気なギャルだと思ったらマゾでした。~絵本の世界で人間の表と裏を知りました。でも恋人は欲しいです~
第15話 アレって言われてもわからないわ
第15話 アレって言われてもわからないわ
「イケイケギャルに扮しておきながら、根は真性マゾだなんて超ウケるー」
アンタはバブル期のOLか。よく知らんけど。
しかし白河さんの性格も大概だな。
「いっそ殺してえええ!」
床で大の字になった水島が泣きながら叫んだ。
と思ったらガバッと上半身を起こし、
「ウチのことあれこれ言ってるけど、白河だって隙あらば桃太郎のアレを触ろうとしてたビッチじゃん!」
「……アレって言われてもわからないわ。ねえ、はっきり教えてちょうだい?」
「え? それは……その、ほら! アレよアレ!」
「そんなのじゃ駄目よ。ワンちゃんの口から、はっきり言うの」
顎先を指で撫でられ、恍惚に塗れた変態犬が煽情的に唇を震わせる。
「ああ……だめ、ウチ……言っちゃう……」
「いいわよ……見ててあげるから、あさましく言っちゃいなさい」
……目を瞑って聞いてると鼻血を噴きそうになるな。
「じゃなくて! 言われても俺が困るし!」
何で校内でR18の展開に突入しようとしてんだよ! 見てみたいけども!
「興奮してるくせによく言うわ」
「我慢すると体に毒よ?」
「……アンタら、何気に仲いいね」
俺が言うと、白河さんがクスリと笑った。
「そりゃあ、皆で一緒に鬼退治をした仲だもの」
「最終的にはキジが一人で倒してたけどな」
どこかのお猿さんは色仕掛けを試みた挙句、無残にぶちのめされてたしな。
「そのキジって九鬼さんでしょ?」
あっさり言い当てられて、反射的に吹き出してしまう。
「瀬能君って本当に素直よね。そういうところ大好きよ」
何故だろう。初めて女性に大好きだと言われたのに寒気がするぞ。
「九鬼……ってマジ? らしいっちゃらしいけどさ。にしても何でわかったわけ?」
「それはきっと、瀬能君の顔の怪我と関係があるのよ」
したり顔で言う白河さん。アンタはエスパーか何かですか。
これまで防戦一方だった水島が、ここぞとばかりに攻勢に転じる。
「だったら無理矢理にでも、教えてもらわないとね」
「まさか怪我人相手に暴力を振るうつもりかよ!」
身構えた俺に対し、白河さんが不敵に笑う。
「私たちにそんな真似ができると思う? 可能なのはせいぜい口を割りたくなるまで、瀬能君を責めて責めて責めまくってあげることくらいよ」
いやあああ! 痴女だ! 痴女がいるううう!
「ズボンを脱がすな! 耳は駄目だって、うわ、うわあああ!」
本当に手が股間に伸びてきたところで、とうとう俺は我が身可愛さに白状してしまった。
といっても九鬼さんが絡まれてるのを助け、その後に昔話を聞いたところまでだが。
「そういえば聞いたことあるかも。九鬼って自分より強い男に会いたくて、他校の不良を潰して回ってるって」
「もしかして過去の男を探すためかしら。意外といじらしいのね」
聞いてる分には切ない恋愛系なのに、どうすればどっかで聞いたことのある格ゲーの設定みたいな展開になってしまうのか。
「九鬼がキジってことは、ああ見えて意外と乙女チックなんじゃん。ウケるかも」
「本人の前で言ってみろよ」
「ウチに死ねっつってんの? まあ、もう授業始まってるから、どうせ無理だけど」
皆勤賞なんて狙ってないので、俺は別にこのままサボってもいいんだが……。
「白河さんは教室に戻らなくてもいいの?」
「構わないわよ。急に具合が悪くなった瀬能君を介抱していたことにするもの」
本性はどうであれ、外面は抜群の白河さんなので、間違いなく教師には信用されるだろう。ボコボコな俺の見た目もあるし。
「だったら保健室にでも移動する?」
俺の問いかけに、水島が首を左右に振る。
「図書室でいいじゃん。ついでにそこのビッチに筆おろししてもらえば?」
「あのな。そりゃ童貞は卒業したいけど、俺にだって好みのシチュがあんの!」
「そういや桃太郎の時もそんなこと言ってたわね」
水島が大仰にため息をつく。
「理想ばっか追いかけてるからいまだに童貞なんでしょ! 取っといたっていいことないんだから、さっさとそこのヤリマンで捨てとけっつーの!」
頭にきた俺が言い返そうとしたところで、白河さんがおずおずと手を上げた。
「白熱しているところ申し訳ないのだけど、私……処女よ?」
「「えっ!?」」
見事に俺と水島の声が揃い、白河さんが怪訝そうな顔をする。
「どうして露骨に驚くのかしら」
「狂ったように下ネタ全開のアンタがそれを言うわけ!?」
「私からすると、そんな恰好をしている水島さんが、いまだに処女だという方に驚くけど」
「ちょっと待って! ウチ、処女だなんて言ってないし!」
あわわと両手を上下させながら、唾を飛ばす水島。明らかに図星を突かれた反応だ。
「見ていればわかるわよ。反応が初々しいもの」
あっさりと言いのける耳年増の処女ビッチ。
言葉にするとろくでもない特性だな。
「痛いのも好きなのだし、さっくりと誰かに捧げそうなものだけど」
「……だってさ、彼氏に愛を囁かれながらって、なんか燃えないじゃん」
え? 理想のシチューエションじゃないの? 男女ともに。
「わかるわ……」
わかるのかよ!? どうなってんだよ、今時の女子高生事情は!
「だからこそ、ヘタレで素直に反応してくれる男子が理想の初体験相手なのよ」
「んで目をつけたのがコイツってわけね」
じーっと俺を見つめていた水島が、何故か急にポッと頬を赤らめた。
「普段は気弱な男に組み敷かれて甚振られる……なかなかくるかも……」
俺の周りは変態ばっかりだ! 不良と恐れられてる九鬼さんがまともに見えてきたぞ!
「いい加減にしてくれよ! 元々は九鬼さんがキジかどうかって話だったろ!」
「九鬼ねえ……」
水島が腕を組んで考え込む。
「気にはなるかも。探してるっていう男に、できるなら会わせてあげたいし」
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