第7話 これって合コンなのか?
「童貞は卒業したいが、問題はそこじゃない」
「ですよね。願い事は彼女が欲しいでしたし。あ、でも童貞を卒業したいって理由が先にあるなら、あながち外れてもないですよね」
まあ、それは? 俺も思春期だし? チャンスがあれば、なんて思っちゃったりもするよね?
でもさ、しょうがなくない? 思春期の男子なんて猿だよ、猿。
「――って、出たあああ」
「ひえええ」
「……何でお前まで驚くんだよ」
「ノリです、ノリ」
腹立つわ、コイツ。本物の天使だとしても、全力でぶん殴りたい。
「まんまるがしゃべってる」
瞳がキラキラのバイオレンス幼女ことキジが、球体を鷲掴みにしてブンブン振り回す。
メルヘンチックな見た目をしているだけに、ファンタジーを連想させるキャラが好きなのかもしれない。
「黙って見てないで、助けてくださいよおおお」
「無理」
邪魔したら木刀でお仕置きされかねないし。
「あ、あの……」
おどおどと犬が聞いてくる。
「あれって何ですか?」
「天使」
「あれのことを言ってたのねぇ。でもぉ、本当に天使ぃ?」
うお!? いつの間に背後にいたんだよ。気配を感じなかったぞ、おい。
襲われないように猿と距離を取りつつ、
「本人が言ってんだよ。ちなみにここはやっぱり桃太郎の世界らしい」
「ふぅん。でもぉ、どうしてワタシたちだけぇ?」
発情してても意外と冷静なのか、当たり前のことを不思議がる猿。
そういや朝を思い返しても言動が過激なだけで、意外とまともだったような気がする。
「そ、それは、あなたたちが私に願い事をしたからですよ」
なんとかキジの手から逃れたらしい球体が、わざわざ俺の方に寄ってくる。
おや、三人ともなんだかギクリとした様子で固まったぞ。どうやら身に覚えがあるらしい。
全員が目でそれぞれに合図を送る。お互いに聞かないという不可侵条約の締結だ。
「気を遣って本性を出しやすいようにして、現実とは違う世界で発散し、無事に夢を叶えてもらおうと考えたのです。私って優しいですよね。第一回は不発に終わりましたけど、いざ第二回目の桃太郎合コンの開催ですよ!」
やたらと張り切る球体天使。
普通ならオーッと手を上げるシーンかもしれないが、呼応した人間は誰もいない。
「……これって合コンなのか?」
「私を侮らないでくださいよ。ちゃんと知っているんです。朝帰りを目的とした男女の集まりのことでしょ? さあ、遠慮は無用ですよ」
いやいや、遠慮とかじゃなくて。
そもそも誰も望んでなくない? この展開。
「あれ? 皆さんノリが悪いですね。せっかく舞台にあったキャラ付けもしてあげたんですから、もっと張り切ってくださいよ」
「キャラ付け? 確かに俺は桃太郎になってるけど……」
「そうです! 彼女が欲しい貴方は女性陣に好意を抱いてもらえるようにイケメンの主人公にしました! そしてそちらのあなた!」
猿の剥き出しの肩へ降りた天使が、表情がわかればドヤ顔してるに違いない明るい声で言う。
「おおっぴらにエッチな会話や行為がしたいということで、無理なくできるように身も心も発情しっぱなしのお猿さんにしてあげましたよ!」
全員の視線が発情猿に集まる。
俯いた顔は興奮とは違う感情で真っ赤に染まっていた。
「隣の貴方は虐められてみたいそうなので、私、頑張りましたよ! 前に源さんがうちの牝犬がエロすぎて困ると泉の前で泣いていたのを思い出して、その通りの姿にしたんです!」
源さんって誰!?
っていうか、色々と聞いちゃいけない単語が出てなかったか!?
しかし、これはキツい。
きっとさっきの猿同様に顔を真っ赤に――。
「他の人がいる前で、秘密にしてた性癖を暴露されるなんて……」
――してたけど平気そうですね、うん。
「最後はあなた!」
満を持してではないが、球体が器用に羽で幼女を指し示した。近寄ろうとしないのは、また捕まるのを危惧してるからだろう。
「幼少時からの想い人と会いたいとは、今時なんて一途なんでしょう! 私、全力で応援――あ、ちょっと、羽を掴まないでください。抜けたらどうするんですか!」
「おまもりにする」
「毟り取る気満々じゃないですかあああ」
泣き喚くように叫んだ球体天使が、力を振り絞って空高く舞い上がる。
あそこまで飛べばさすがにキジも――あ、投げた木刀がクリーンヒットした。
「と、とにかく、これは全部、皆さんのためなんです! 道中で親睦を深め、協力して鬼を倒し、見事に朝帰りを達成してください! アデュー!」
言いたいことだけ言って、ぽんっとシャボン玉が弾けるみたいに天使が消えた。
この状況で残されて、どうすりゃいいんだ。
躊躇なく全員の願い事を暴露していったせいで、なんか気まずいし。
「要するにぃ、皆ぁ、あの神社で願い事したってことなのねぇ」
セクシーに腰をくいくいさせる猿。いまもフェロモン増量中だが、願いを漏らされた時の反応からして、現実ではそこまでエロチックじゃないのかもしれない。
「そうなると、意外と全員、顔見知りかもしれないな」
瞬間的に俺の脳裏に今朝のTの衝撃が蘇る。
現実ではまともそうで、おおっぴらにエロい会話をしたがっている顔見知りの女性。
あれ? なんだか身近に該当しそうな女子が一人いるぞ?
……多分、俺の気のせいだよな。はは。
「そ、それはちょっと怖いですう。で、でも……もし、私の性癖が知られて、公衆の面前で罵倒されたらと思うと……ああっ、ふああ」
恍惚に満ちた表情で悶える犬。
エロチックなのはエロチックなのだが、関わりたくない気持ちの方が先にくるので、意外と俺はノーマルなのだろう。
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