第7話

「ヒャンっヒャンっヒャン!」

「ひゃんっひゃんっひゃん!」


 どうしよう。天才陰陽師が犬化している。

 どうもクロから愛されテクを学んでいるらしい。学ばないで。

 俺は両側から裾を噛んで引っ張るポメどもを撫でながら途方に暮れる。

 ポメの血も入ってるからだよな。俺のせいではないよな。

 でもそれ、ご両親が聞いてくれるかな。


「やべーよな。やべーよなぁ」


 ピンポン


 ドアベルが鳴って、やってきたのは依頼人だった。


「械〜」

「神楽。お前のイッヌのせいで酷い目にあったんだからな」

「そのイッヌにお客さん」


 イカれ女の後ろに、陰陽師の服を着た子供たちがいた。

 子供たちは、俺の足に縋りついてガシガシするポメどもの片方をガン見している。


 俺は無言でドアを閉めようとして阻止された。





















生物としての格が違った。

テストは100点、言葉は大人みたいに丁寧で難しい言葉、落ち着いた物腰、堂に入った仕事ぶり、パーフェクトチルドレン。黒刃の子供と思えない。お姉さんの事を揶揄っても小揺るぎもしない。不可能など何もない。


そう言われていた。僕もそう思ってた。


何も見えていなかった。



陰陽師は、隠された物事こそを見通さねばならないのに。


あんな可愛いお姉さんがいるなんてって、妬んだことも今となっては馬鹿らしい。


「愛して君が行方不明になった! 超やばい!! 俺ちょっと白兎を殴りに行ってくる!」


 そうして、慌ただしく父が出ていった。


「愛して君? 誰それ」

「普人くんだ、お前と同い年の!」

「は!?」


 それから、僕はひろとくんの悩みを知った。

 ずっと一緒にいたのに何にも見えてなかった。

 ひろとくん、言葉足らずで無表情なだけで、あんな性格だったなんて。

 普通にお姉さんを妬んで、親の愛を望む、僕と同じ子供だったなんて。


 ひろとくんが悪い人に騙されてついていっちゃったなんて。

 お父さんも頑張ってるけど、僕ら子供達も頑張った。

 かみさま。お願いです、かみさま。どうか僕たちに、ひろとくんと仲直りするチャンスをください。


 必死に祈っていると、僕の頭に天啓が降った。

 僕は飛び出して、取り憑かれている怪しげな服装のおねーさんに突撃した。

 そして、おねーさんの浄霊を行うことを条件に、おねーさんのイッヌに会わせてくださいとお願いした。そうしないと不幸が訪れるって脅した。初めて人を脅したし、嘘を吐いちゃった。みんなは僕を信じてついてきてくれた。


 恥ずかしさも戸惑いも全部無視して、頭に降りた欲求のままに動いた。


 そして、廃墟に連れてこられて、僕はついにひろとくんに再会した。


 ひろとくんは、人語も失い、犬とかしていた。


 頭が真っ白になった。

 ドアが閉められる所で、みさきちゃんがカバンを入れてドアが閉められるのを防いで、ゆめちゃんが呪力パンチを繰り出して、れいなちゃんが姫ちゃんに電話した。

 女の子って強い。


 は、そうだ! 僕らも戦って、センノーされたひろとくんを助けないと!!













「ひゃんっひゃんっ(ひろと……ひろと!)」


……僕を呼ぶのは、誰……?


「ひゃんっひゃんっ(私はお前のじじ様だ……)」


……じじ様……妖犬、闇玉犬とクロポメのハーフ……。


「ひゃんっひゃんっ(そうだ、お前は単なる飼い犬の分際で、犬界の貴公子たる闇玉犬を射止めた黒ポメの母様のひ孫なのだ……。お前には、種族違いも凌駕するほどの、狂わんばかりの愛され犬の血が流れているのだ……)」


……黒ポメの……愛され犬の血が……?


「ひゃんっひゃんっ(愛が欲しくば、同居犬に学ぶのだ……)」


「ひゃんっひゃんっ(愛されの極意を手に入れるのだ……)」


「ひゃんっひゃんっ(愛は……黙っていては手に入らん。果敢に奪い取るのだ)」


「ひゃんっひゃんっ(夢ゆめ忘れることなかれ……)」











「ということがあって、クロに学んでいたんだ」

「ひろと君に愛され系とかいらないから! ひろとくんクールで格好いいし! 祖父様って犬でしょ!? 犬!!! ヒロト君人間だから!!!」


 ひろと君の世迷いごとに、迫真の表情でゆめちゃんが言って女の子たちが頷いた。

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