第6話
【陰陽師の名家、白椿家に何が】
『白椿家嫡男行方不明事件の続報です』
『手がかりは依然見つからず、警察が協力を呼びかけています』
『斎藤さん、この事件、胸が痛みますね』
『まったくです。10歳の少年がですよ。誰でも良いから愛して欲しいって……私、普人くんが可哀想で涙が出てくる』
『確かに、姫ちゃん達の方が心配なのはわかるんですよ。本当に狐の耳と尻尾が生えているわけですし、姫ちゃん達は女の子だから男親としては可愛くてしょうがないと思います。尻尾を暴走させたら、氷や炎や雷を出すそうで、これも大変だと思います。想像できないくらい大変なんだと思います。でもですよ。一人の幼い男の子を放置して良い理由にはならないわけですよ』
『育てられないなら、信頼できる人間に預けるのも手だったと思いますけどね。もちろん、親元で育てるのが一番ですが、将来有望な陰陽師さんで、既に仕事もしてたんでしょ? この子を助けられたら、この子さえ良ければ息子として迎え入れたいって陰陽師さん皆言ってるんですよ』
『少年の寂しい心に漬け込んだ大人がいると思うと、許せないですね』
『今はご両親も反省してますし、姫ちゃん達も戻ってきて欲しいと毎日泣いているそうです』
『警察にも、陰陽師さん達にも頑張って欲しいところです』
『子育てに悩む方達は、お早めに相談を。電話番号はこちらです』
ニュースを眺める少年の心に何が去来しているのかはわからない。
涼やかで怜悧な相貌の男の子は、じっとニュースを見ていた。
こわいこわいこわい。
俺はブルブルと震えていた。とんでもない事になった。
呪い殺されたらどうしよう。何せ、本当に術が存在するってわかっちゃったのだ。
これも依頼人に無理やり預けられたイッヌのせいだ。いや俺がちゃんと見てなかった上に危険なスレを開いていたのが悪かったんだけど。
笑い転げててほんとごめん。謝る。謝るから許して。だめ?
だって、まさかイッヌが書き込んだ次の瞬間に男の子が転移してくるとか思わないだろ。
ここは現実だぞ。
しかも、イッヌの悪戯ってバレたら本当に呪い殺されそうだった。
必死で、普人君に来て欲しくて慌てて書き込んだって告げて褒めまくったものだ。
この子は俺なんかじゃ想像もつかない力を持ってる上に、追い詰められきっているのだ。
俺は、鈴端 械。偽名だ。
本当の名前は子供の時に捨てている。今はハッカーをしている。警察に行くわけには絶対に行かない。
「が、学校行けなくて寂しくないか?」
「械さんがいてくれるので」
「そ、そっか! うれしーなー。そうだ! 今日は何食べたい!?」
「械さんが作ってくれるものならなんでも」
「そ、そっか! じゃあ腕によりをかけてにんじんとキャベツを刻んじゃおうかなー!」
もっとマシなもん食わせてやれよというなかれ。
この子葱類ダメなの。ダメなの!!
イヌ科が食べれないものは食べられないの!!
一回お腹が痛いって言い出した時は血の気が引いた。
で、手料理しか受け付けないの! そして人間として必要な栄養はそれはそれとして必要なの!!
俺、手料理とかした事なかったの!
チョッパーなんて調理器具、初めて知ったよ。発明家さんありがとう。
おかげで俺は指を切り刻まずに済んでいる。
いっそ犬用の豊富なおやつ、犬用おでんやらケーキやらを食べさせた方がよっぽど良いんじゃないかと悩んでる。
俺がみじん切りを作ると、黒いポメラニアンのイッヌがたたっと走り寄って俺のナデを求めた。可愛い王様である。
「ああ、はい。よしよし」
すると、隣に黒い頭がもう一つ。王様その2。
俺はもちろん、普人くんの頭を撫でる。
無表情だが、喜んでいるのがわかる。
「クロはいつ帰るんですか?」
これだ。
「もう少し預からないとかなークロ嫌い?」
「競争相手はいない方がいいので」
こわいこわいこわい。
どうして10歳にして立派なヤンデレに育てちゃったの……。
この子、貪欲に愛情を求めてるんだよ。
まじで愛してくれるなら誰でも良かったのか。
初めは、我儘言いやがって何でも持ってる御坊ちゃまが、なんて思ってたが、今はそんな事全然思ってない。どうやって育てばこんな愛情モンスターが育つんだよ。
にんじんとキャベツのみじん切りを二人と1匹で食べる。
イッヌは尻尾を振って貪っている。
普人くんも一生懸命食べている。
こんなんで喜んでくれてるとこ悪いけど、俺は侘しい。
栄養的にも絶対ダメだと思う。
カップラーメンが食べたい……。
ラーメンって葱入ってるから無理だけど。
どうにか、どうにかしなきゃ。
俺は犬でも人間でも食べれる料理のレシピを検索しながら、胃を痛めていた。
クッキー? クッキーかぁ。レンジで出来る?
主食が欲しいんだけど、パンとかご飯とか……。
オーブンや炊飯器買わないとなわけ? まじで?
だ、誰か助けて……。
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