トラック7:ピタリとハマると、思います【最後の1杯のお誘い】

(氷をカットする音、木製のまな板のコツコツ音)

(チェイサーを飲み大きく息を吐くあなた)

(氷をカットする音)


「えっと、お客さんどうされますか? そろそろ、セラピストの1セットの接客時間が終わりになりますが。このまま飲まれていても大丈夫ですけど……」


(まだゆったり過ごしたいと返すあなた)


「承知しました。オイモは……まだ寝ていますね」


(眠るハムスターの呼吸を眺めながらチェイサーをゆっくりと飲むあなた)

(美酒の余韻に氷のカット音が響く)

(飲み干したグラスを置くあなた)


「チェイサー、お持ちしますか?」


(大丈夫と断るあなたに頷くバーテンダーさん)


「…………」


(氷のカット音)

(その氷は何に使うのか尋ねるあなた)


「……実はまだ、決まっていないんです。何に合わせるのかも」


(あなたは続きを待つ)


「お酒やグラスの種類、形、そういったものに合うようカットするんです。あとは、好きなんですこの音」


(氷のカット音)


//悪戯っぽい感じで

「あとは、オーナーから閉店後に1杯飲んでいいと言われているので、自分用に何を飲もうかなぁ、とか考えながらカットしています」


(今夜の報酬はまだ決まっていないの、と尋ねるあなた)


「はい。一日を振り返ってピタリとハマるものがあればそれを選びますが、練習不足だったなと思えばカクテルを作ったりします。まあ、成り行きや気分で決めたりも多いですね」


(自分だったら何を貰うだろうか、そんなことを考え酒棚を眺めるあなた)


//あなたの様子に気が付いて笑いながら

「迷っちゃいますよね」


(バーテンダーさんの笑みが少し寂し気に変わる)


//自嘲気味に

「最近はこうしているときも考える事が多くなりました。この氷をどうしようって。カクテルを念頭に彫刻するように削り出す、と言うバーテンダーもいるくらいです」


(氷のカット音が止まった)

(そうは思っていないの、と尋ねるあなた)


//頷きながら

「私が未熟だからかなと思うのですが。それでも私は……彫刻をする、というよりはカクテルの中身になる氷を、そう、氷を裸にしていく、という方がしっくりきます」


(沈黙)


//何かに気づく

「裸の、氷……あっ‼」


(ハッとしたバーテンダーさんが酒棚をゴソゴソと漁り始めた)


「オーナーが出すタイミングを逃したアレ……確か、ここに……あった!」


(目当ての酒瓶を見つけだし、あなたに見せるバーテンダーさん)


//期待に満ちた様子で

「お客さん、最後に1杯、ウイスキーはいかがでしょうか? やや小量になってしまいますが私の奢りです。今夜にピタリとハマると、思います」

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