トラック5:接客パワー!パワーチャージです!【バーテンダーさんの小休憩】

(ズッ、と短くストローの吸い上げ音が響いた)

(満腹になってきたのか、ゆっくりとにんじんを齧るハムスター)


「モヒート、いかがでしたか? はい……バラライカとはまた違った爽やかさですか。そうですね、夏にぴったりな爽やかなカクテルだと思います。メニューには載っていませんが、キウイやパイナップルあたりを使ったものも美味しいですよ」


(フルーツ、と呟くあなた)


「あいにくその2つはありませんがフルーツを使ったカクテルもお作り出来ます」


(今回は自分で調べてみようとタブレットのフルーツカクテルの項目を開くあなた)

(ほかのページと比べて選択不可能グレーアウト状態のものが多い)


//気恥ずかしそうな調子で

「そう言ったもののぉ、生のフルーツを使ったものは材料費と回転率を考えると、ちょっと……きびしいものが多い、です」


(相変わらずあなた以外の来店はないままだ)

(グレーアウトしているトロピカルな印象なカクテルをスワイプしていくあなた)

(選択可能なカクテルがちらほらと見つかり始める)


「えっとぉ、そのあたりはオレンジやレモンを使ったものですので、大丈夫です」


(今度はカットフルーツを飾ったものが大量に表示され始めたため、決め難くなってしまったあなた)


//独り言

「やっぱり……オーナーの言う通り、出せないものは……メニューから……」


(バーテンダーさんの独り言に気づかないあなたはメニューのスワイプを続行する)


//独り言

「私だけの日に限って、お客さんも……あ、う、……やばっ」


(諦めてバーテンダーさんに頼ろうか、そんなあなたの視線が彼女に向けられる)


//独り言

「あぐぅ……!」


(明らかに挙動不審なバーテンダーさん)

(怪訝そうなあなたの視線)

(バーテンダーさんの視線が泳ぎだす)


「一旦。一旦、しし、失礼します……!」


(バーテンダーさんは小走りでキッチンの棚からボトルを手にすると、小さなカップにそれを注ぐ)

(矢継ぎ早に冷凍庫から取り出したボトルの中身をそこへ注ぐと彼女は一気にそれを呷り、カンとカップをテーブルに置いた)


//息を吐くと、突然にこやかに

「ふぅー、すみません、お待たせしましたっ!」


(バーテンダーさんの豹変ぶりにいやいやいや、と手を振りツッコむあなた)


「…………」


(あなたはそれは、と彼女が手にしたものを指さす)


//不自然な明るさで

「これは、冷やしたウォッカです!」


(彼女が掲げた酒瓶はキンキンに冷えており、白い煙を漂わせている)

(そっちは、と先に手にしていた瓶を指さすあなた)


//引き続き不自然に明るく

「こちらは液糖シュガーシロップです!」


(彼女は液糖とウォッカを元の場所に戻すと張り付けたような笑顔を浮かべる)

(どうして急に飲んだんだろうとあなたは彼女を見つける)


//ヤケクソ気味に

「接客パワー! パワーチャージです!」


(ケージのなかでハムスターが大あくびをした)

(もしかしてアル中? と尋ねるあなた)


//絞り出すように

「ち、違うんですぅ~!」


(手で顔を覆い、崩れ落ちるバーテンダーさん)


//情けない声色が床の方から

「私、その……いわゆるぅ、コミュ障というヤツでして、はい……」


(よろよろと立ち上がった彼女は大きく息を吐いた)


//観念したようで淡々と

「お酒を作っているときとお酒関連の話がスムーズに進んでいるときは大丈夫なんですけど、一度引っ掛かるとダメで。特にお酒が抜けてくると……すぐ、ガタガタに」


(なるほど、と適当な相槌を打つあなた)


//なかば自分に言い聞かせるように

「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。あとはセラピストの姿に癒されれば大丈夫ですので……!」


(厚かましい申し出を寛大に受け入れるあなた)


「オイモ~、オイモが好きなピスタチオあげるよ~? だからぁ……あっ」


(非情にも丸まって眠っているハムスター)


//崩れ落ちながら

「おいもぉ~~!」

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