トラック2:当店自慢のセラピスト達からお選びください【ハムスターを指名】

(コロンとグラスの中で氷が鳴る)


「いかがですか? こちらのハイボールは?」


(満足げに頷くあなた)


「よかったです。居酒屋さんなどでよく出てくるものとは味わいのタイプが違うものですから、気に入っていただけてなによりです」


(ハイボールを作っていた際に気になったことを尋ねるあなた)


「最後にしていたこと、ですか? ああ、最後にメジャーカップに残しておいたお酒を表面に浮かべたんですよ」


(メジャーカップを持ち上げて見せるバーテンダーさん)


「銘柄にもよりますが、初めて飲む銘柄はこうした方がお酒の味わいが印象的かなと、私は思っています……その……出しゃばりだったでしょうか?」


(問題ないと大きく頷くあなた)


「よかったです……!」


(ハイボールを傾けるあなた)

(店内には微かにホワイトノイズのようなものが流れており、遠くからキィキィと軽い軋み音が時折聞こえてくる)


「すみません。お店の説明、まだしてませんでしたね」


(バーテンダーさんがキッチンスペースからトテトテと駆けて、あなたの隣にやってくる)


//少し息が上げて

「メニューをお借りして……はい、当店ではお客様に癒しを与えるセラピストとしてハムスターのご指名をいただいております。ご指名いただきますと、控室からセラピストを連れてまいりますので、お客様は癒しのお時間をお過ごしください」


(タブレットのスワイプ音)

(色んな種類のハムスターの名前とプロフィールが表示される)


「セラピストについてはコチラの紹介ページをご覧ください。ハムスターですから卓上に特製のケージを置いての接客になりますが」


(タブレットのスワイプ音)

(卓上ケージにも種類が複数あるようだ)


「ハムスターの種類はゴールデンやキンクマ、ジャンガリアン、ロボロフスキーといった一般的なものですが、性格含めて色んな子を紹介出来ます。当店自慢のセラピスト達からお選びください」


(一通り話し切ったバーテンダーさんはあなたの反応を待ってから目を丸くする)


「あれ……? もしかして、特別ハムスターがお好きな感じではない、ですか?」


(申し訳なさそうに頷くあなた)

(癒しというフレーズと懸命に客引きしている彼女に釣られて来店したのだった)

(店内に入ってからは落ち着いているが、客引きの最中はお世辞にも慣れているようには見えなかった彼女の姿があなたの脳裏によぎった)


//一人合点から決意するように

「ああ……そういうお客様も、なるほど……うん、では私からお勧めさせていただきますね」


//あなたに身を寄せて熱心に

「ハムスターを飼われたことは……ない、と。それなら、身体の大きなゴールデンやキンクマの子のほうがお互い安心ですね。ふーむ……」


(近くから聞こえる静かな唸り)


「シャカシャカ動き回る子と、ご飯をたくさんあげられる子、どちらがお好みですか? はい、じゃあ……コツブよりも……」


(タブレットのスワイプ音の後にカツとタップ音)


//勢いよく

「この子はいかがでしょう⁉ キンクマハムスターのオイモちゃんです! あまり動かない子ですが、人馴れしている女の子でよく食べます。回し車だけのシンプルなケージで、フードを手渡しするだけで十分楽しめるかと思います」


(勢いに押されて頷くあなた)


「はい。でしたら、ご指名はオイモで、シンプルケージに、セラピストのフードは『ハムちゃんの1日分のご飯セット』でよろしいでしょうか?」


(改めて頷くあなた)


「かしこまりました。ご用意しますねっ」


(トテトテとキッチンスペースに戻るバーテンダーさん)


「まずはフードから……」


(冷蔵庫から野菜を取り出してカットする音)

(密封容器から乾いたものを取り出し、お皿に乗せる音)


「はい、『ハムちゃんの1日分のご飯セット』です」


(お皿を置くとキッチンからバックスペースへと消えるバーテンダーさん)

(あなたの前のお皿にはニンジンと小松菜、ペレットにヒマワリの種、アーモンドが綺麗に並べられている)

(ハイボールのソーダ音)

(トテトテとこちらへ向かってくる足音)


「次に卓上用のケージです」


(側面が透明なケージを掲げて見せてから、再びあなたの隣までバーテンダーさんは駆けてくる)

(設置されたケージには回し車と床に緩衝材があるがハムスターの姿はない)


「……最後にセラピストを連れてまいります」


(息を整えながら今度はゆっくりとした足取りでバーテンダーさんはバックヤードへと向かっていく)

(飲み干したグラスを置く音)

(ホワイトノイズの奥から途切れ途切れに生活音のようなものが聞える)


//凛とした落ち着きのある声で

「お待たせしました」


(バーテンダーさんはスノードームのような容器を両手に乗せて静かに歩み寄る)


「セラピストのオイモです」


(容器の中にはクリーム色の毛色のハムスターがいる。窮屈なのかハムスターが動き回るとガラスの擦れる音がした)


「ケージを、開けていただけますか?」


(促されたあなたはケージの天面を開放する)


「ありがとうございます、では……オイモ」


(カポと容器が開けられると、ハムスターはケージに飛び移るように移動した)


「ケージの蓋はご飯をあげる時だけ開けてください。いまお客様用の手袋と消毒スプレーをお持ちしますね」


(落ち着かないのか、ケージの中をうろつくハムスター)


//元の調子に戻って

「どうぞ。手袋をしてペレットからあげてみてください」


(手袋と消毒スプレーを渡されたあなただが、要領が分からない)


「あっ、そうでした。やり方、分からないですよね?」


(頷くあなたを見て、悩ましい吐息を漏らすバーテンダーさん)


「なら、私がお手本をお見せします、ね?」


(身を乗り出して近づくバーテンダーさん)


//耳元で囁くように

「おひとつ、失礼します」


(お皿の上で乾いた音が立ち、ペレットが1つ摘まみ上げられる)


//子守歌のような調子で

「オイモぉ、オイモ~」


(ケージの蓋を開け、バーテンダーさんはペレットをハムスターへ差し出す)


「オイモぉ、ご飯だよ~、受け取って~」


(ハムスターはしばし鼻をひくつかせると、トトと駆け寄りバーテンダーさんの指に挟まれたペレットを小さな両手で掴み取った)


//テンション高めに

「はいっ、こんな調子でオイモはご飯を手渡し出来るんですよ」


(はしゃぐバーテンダーさんとは対照的にコリコリとペレットを食むハムスター)


「それでは、お客さんも」


(言われるまま手袋を着用してペレットを摘まみ、ハムスターへ差し出すあなた)

(ペレットを租借しているハムスターの動きが止まる)


//囁くように

「いいですぉ、ゆっくり、そのまま……そのまま」


(耳をくすぐる囁きに狂うあなたの手元)

(突然ビクンと背伸びをするハムスター)

(あなたの指から零れ落ちるペレット)


「あっ……」


(ケージの床を転がるペレット)

(何事もなかったようにペレットを拾い食べ始めるハムスター)


//気まずさを誤魔化し切れない調子で

「あー、っと。このように? 直接手渡ししなくても、ご飯を上げることが……出来ます、よ……?」

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