報奨金と初心者訓練
男たちを連行し警察署に到着。
事情を聞かれたあとで、警務受付前で待つようにいわれる。
ついでに免許の更新をしていないことを交通課の窓口で告白した。
「そうなんやなあ。知らんだったと? 免許ん更新はもうやっとらん」
「じゃ必要ない?」
「ああ、大混乱んときからやなあ。あれ以前ん免許はそんまま使ゆる。新規ん取得は警察か自動車学校ん試験で取得ばい。県内では三校だけやけど。一度取得したら一生更新なしと法改正されとる」
交通課の警官は、周りを見回して小声になる。
「人手と資材不足で無理たい、更新は。他にやること多すぎなっせぇ。取り締まりさえできとらん」
しばらく三人で待っていると、野口巡査がやってきた。
こちらに向けて手を振り、手配書の掲示板に向かう。手持ちの書類と照らし合わせて、数枚外して戻っていった。
「ケントしゃんって強かんやなあ」
「はは、それほどでもないけどね」
「謙遜せんちゃよかばい」
そこへ金丸巡査長がでてきた。
「浅野しゃん、ありがとう。やつらは指名手配犯や。お陰で手配書ば減らせたばい」
「ケントでいい。お役に立てたのかな」
「おお、十分にな。手が回らんけんな。で、五人合わせて報奨金は350万になる。補佐の田中が150万で、子分たちが50万や。背中から血ば流しとったとが田中ばい。受付で振込先ば申請しといてくれ。口座はなかか?」
「ありますよ。申請しておきます」
「そうか、後日振り込まれる。税引きでばい。支払調書ば送るけんスマホの登録も必要ばい。用意したほうがよか」
「スマホも持ってますよ」
税金ねぇ。
「金丸さん。あいつらは佐藤順次の身内らしいが」
「ああ、佐藤一家ばい。荒井市ん暴力団ん息子だが、佐藤順次は半グレや」
「居場所を聞いたのか?」
「……ケントしゃん、きしょくはわかるばってん、探しなすなや。あたは強そうだが相手は半グレや。人ば傷つけたり、殺したりすことばなんとも思うとらん。危険すぎる」
真剣に諭してくれる金丸巡査長に感謝したが、こちらも聞かないわけにはいかない。
「その暴力団の事務所にいるんだな?」
「取り調べばしたけど答えんだった。今朝ん件とは関係なかしな。県警本部には拷問ん得意なやつもおるばってん、送らるるかどうかはこれからばい」
拷問って言った! 取り調べるのに拷問って。
石抱きか?
「……」
「乗り込もうなんて考えんごつな」
他には特に問われることもなかった。
サエさんとモナミさんと別れ、市役所に行くことにした。
ふたりが家に来てくれたのは朝ご飯を持ってきてくれたからだった。南関あげいなり、ありがたくいただきました。涙でそう。
市役所で今後の手続きについて相談して、ユミさんと俺の戸籍全部証明書をとった。
法務局に行って遺言書情報証明書の交付手続きをする。大混乱の影響でだいぶ簡素化されている。
浅野ユミ名義の登記済権利証は、田中の言っていた「佐藤」とやらには名義変更されていない。そのまま俺への相続登記を申請する。
以前は日数がかかっていたが、配偶者の相続だからと即日名義変更。登記済証を発行してもらえた。
家庭裁判所で事情説明をしてみた。
佐藤孝之介が、相続財産清算人の申請をしている。
ついでに順次は佐藤孝之介の息子で、暴力団構成員ではなくこの界隈で有名な半グレだと教えてくれた。
無駄な仕事をする余裕はないらしく、佐藤孝之介の申請は却下するとその場で裁決。眼の前で書類を破棄していた。
相続財産清算人の情報なんて、手続き中に簡単には教えられないはずなんだけど。大混乱で本当に変わったようだ。
どの公的機関も、トラブルになったら「うちは知らん。当人同士でやれ」って方針だとか。
法律があっても適用はそれぞれの判断で、場合によっては法律無視を許しているとも。
裁判所がそんなこと言っていいの?
サエさんや区長、自治班の班長、近所の人へのお礼の挨拶に数日かけた。
ユミさんの葬儀費用は市と自治班で出してくれていて、返済しておいた。
その体つきならと請われ、農作業のお手伝いもする。
自分の田や畑は、今まで通り自治班で使ってもらうことにした。
専業農家になることを勧められたが、自分の口がまかなえる程度でといっておいた。
やらなきゃいけない事ができたからな。
ユミさんが残してくれた「転生したケントさんへ」の中に、まったくもうかなわないって記述があった。
『あ、綺麗な金髪の
ギクッ!
俺のことを夢で見てたんだよな。金髪? ……へ、へぇー、ど、どの、金髪、かなあ、ヒューヒュー(鳴らない口笛)。
『何人も女性がいるのね。偉い人の娘さんとか、マッチョな人とか』
どこまで夢に見たんだろう? いや、転生してそのまま暮らすのだと思ってたから。あれって浮気になるのか。
黒歴史も見られてた?
『まぁケントさんだからねぇ。鼻の下伸ばすのは、いつものことだしィー』
ギクギクッ。
ぜ、全部見られてた?
『ふっふっふっ。たぶんケントさんは謝るだろうけど、新しい人生なんだろうしィー』
ギクギクギクッ。
『でも妬ける』
PCから黒いモヤが漂ってきたのは幻だ、そうにちがいない。
玉杵名市では俺の所属する自治班を含めた全市で、自警団が組織されている。
防犯だけではなく、湧き穴の監視とゴブリンなどの討伐をする。
その体で強いのならちょうど良いと強制参加。義務だそうだ。
魔力はまだ回復していないが、
転生以前はコミュニティーへの参加はユミさんがしてくれていたが、今は自分から参加したいと思っている。
佐藤順次の居所を知るために。
情報がほしい、うわさ話でも、どんなものでも。
情報収集に魔法を使いたいが、魔力回復が遅くてしばらくは様子見だ。
佐藤順次。
初心者向けの討伐訓練を行うので、市役所近くの総合体育館に行くよういわれた。
作業用の手袋持参、動きやすい格好でといわれた。
でもハズラック王国で着ていた服しかないんだよねー。
ユミさんが取っておいてくれた服やブーツは、サイズが合わなくて着れない。家にある農作業用手袋も小さすぎる。
衣料品は少数だが売られている。が、これもサイズがない。そろそろ生地がヘタってきたし、どこかで手に入れたい。魔物の革でシャツをオーダーメイドするか。
総合体育館の会議室に集められ、まずは講義だそうだ。
女子も含めて十数人の若者、みんな初心者なのかな。自警団の候補生ってとこなんだろう。
年齢は中高生くらいか。土汚れのついた農作業の格好だ。ずいぶんと小柄で華奢な美少年もいるけど大丈夫かなぁ。少年だよね? 美少女?
案内の女性が席につくよう指示をだす。机の上には数枚の書類がおいてある。
みんな手にとって読み始めたり、袋状のものを広げたりしている。
この袋ってアレだな。講義中にそういうことも?
三十代の男性と女性たちが入ってきた。人数は五人。白板の前にこちらを向いて整列すると、対面にいる俺たちをつまらなそうに見てきた。
「よし、みないるな。俺は芦田。並んでいるのは教官たちだ。玉杵名市の自警団の訓練を任されている。これからお前たちを指導するが、はっきりさせておく。自警団は義務だ。ここで生きていくためのな。一人前になれないとお前たちも、家族も死ぬ」
若者たちがみなうなずいた。
「ではお前たちの敵を知ってもらう。モニターに注目!」
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