第26話 リフレッシュ
名前:ルード・グラスデン
性別:男
年齢:15
魔力レベル:3.5
スキル:【錬金術】
テクニック:『マテリアルチェンジ』『レインボーグラス』『ホーリーキャンドル』『クローキング』『マンホールポータル』『インヴィジブルブレイド』『スリーパー』『ランダムウォーター』『サードアイ』『トゥルーマウス』
死亡フラグ:『呪術に頼る』
従魔:キラ(キラーアント)、ウッド(デーモンウッド)
「おおぉ……」
自分の口から思わず感嘆の声が漏れる。
いつもの祠でトレーニングを終えた後、休憩がてら
「遂にここまで来たんだな……」
大当たりスキルのデフォルトが魔力レベル3なわけで、それを踏まえると俺がどれくらい高みに達したかがよくわかる。
ここから先はそう簡単には上がらないと思うが、3.5っていうきりのいい数字に達したのもあり、達成感に溢れていた。
それもあって、まだ昼間ではあるものの俺はもうこれ以上祠で魔力トレーニングをする必要性をあまり感じなくなっていた。
なので聖人ヨークには悪いが、今日くらいはサボってもいいだろう……。
父ヴォルドの魔力レベル3.9まではもう少しのところまで来ているが、だからといって急いでレベルを上げなくてもいいように思う。
デフォルトが魔力レベル1の、大外れとされる【錬金術】スキルを受け取ってからというもの、俺は半年も経たずにヴォルドに近いところまで追い上げてるんだ。しばらく休んだところで罰は当たらないはず。
「……あ、これいいな」
そういうわけで、俺は昼間っから祠の外で寝っ転がる。いつもなら最低でも日が暮れるまで魔力のトレーニングに励むんだが、たまにはこういう何もしない日があってもいいんじゃないか。
ん、誰かの気配を感じると思ったらアイラのものだ。彼女は足音を立てずにこっちのほうへ歩いてきて、驚かせるようにして俺の顔を見下ろしてきた。
「ルード様っ、今日はお昼寝ですか? 珍しい……」
「……ああ、アイラ。たまにはこうして外でお天道様を見上げながら昼寝するのもいいかなって。至福の一時だよ」
「ポカポカでしょうしね……あ、あの。ルード様……」
「……ん、どうしたんだ? そんなに改まって」
アイラのやつこそ珍しいな。心配させたくないのか、こんな風に改まること自体そんなにない子だから。まさか、俺に何か頼み事でもあるんだろうか? それなら今は暇だし手伝ってやってもいいが。
「その……膝枕なんてどうですか……?」
「……え」
少し間を置いて、俺は思わず上体を起こした。アイラは照れ臭そうに少し俯いている。これは断ったら絶対にダメなやつだ。
「ア、アイラがよければ……」
「よ、よかったです……」
「――はあ……」
アイラのほうから膝枕を提案されたので、かなりドキドキしながらも承諾した俺だったが、その数分後には溜め息をついていた。俺の膝には、白猫のユキが心地よさそうに眠っている。
確かにこれも膝枕だし嘘じゃないが、そっちかよ……。それでも、ユキの喉を撫でるとゴロゴロと音が聞こえて可愛いので悪くない。本当に、この猫の正体がアイラなのかと疑うレベルで猫そのものなんだ。
「ふーたーりーとーもー」
「「ハッ……」」
なんとも恨めしそうな声とともに抉るような視線を感じて、俺たちは振り返った。
「私がいない間、何をしておるかと思えば、随分と幸せそうだのお……?」
「ロ、ロゼリアもいたのか……」
「ウ、ウミュアッ……?」
「うむ。驚かせようと思い、隠れておった。だが、そんなことはこの際、どうでも良いではないか。ルードも猫も……どっちも手に入れるぞおおおおおおおおおっ!」
「「っ……!?」」
ロゼリアに滅茶苦茶怖い顔で追いかけられて、俺たちはしばらく逃げ惑うのだった。猫を見てバーサク状態になった彼女は、下手な魔物なんかよりもよっぽど怖いって……。
しばらく混沌に包まれた俺たちだったが、ロゼリアがようやく我に返ったのもあって、そのまま三人で地べたの上に寝っ転がることになった。
それにしても、こうして訓練をさぼって遊んでいると、背徳感も手伝うためかいつもより楽しくて夢心地になってくる。
俺を冷遇してきたグラスデン家への復讐劇はまだこれからが本番だっていうのに、こんな呑気なことでいいんだろうか?
もちろん、このままでいいわけがない。原作のルードを含め、俺が味わってきた苦しみを考えればやつらを易々と許せるものか。また、やつらもこのまま大人しく引き下がるとは到底思えない。
だが、今日の俺の脳内は何故だかいつもと違っていた。頭の中にはお花畑と青空が広がっていて、ずっとこのままでもいいような気すらしていたんだ。
でも、それが悪いことだとは到底思えなかった。むしろ、ほとんど休まずに突っ走ってきた今までが異常だったんだ。
伯爵家に対する仕返しはまだ始まったばかりとはいえ、ずっと魔力トレーニングや実戦訓練を続けてきたのもあり、すっかり硬直してしまった心身を解すべく無意識のうちにリフレッシュさせたかったのかもしれない。心の芯のほうに、どんな魔法でも癒せない疲れが溜まってたってことだ。
これはいわば、データが断片化して重くなったパソコンを修復する、ディスクデフラグのようなものだな。
どんなところでも熟睡できる『スリーパー』の効果もあるのか、既に意識が混濁し始めててよくわからないが、本当にお花畑の上にいるかのようだ。あー、こりゃダメだ。気持ちよすぎて頭がバグってくる。こうなってしまったらもう、再起動すらできない……。
「……ふふっ。ルード様、よく眠っておられますねえ。まるで、子猫ちゃんみたい……」
「……」
そうか……俺は今、アイラに膝枕してもらってるのか。『スリーパー』がなくてもぐっすり眠れそうだな。極楽にでもいるかのような気分だけに、意識が今にもシャットダウンしそうなのがひたすら惜しい……。
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