第25話 闇の眷属
「よっこらせっ、と……」
今や万能化した『マンホールポータル』の中へ入り俺が着地したのは、以前にも行ったことのある森林の前だ。普段から人気のない場所なのもあって今日も閑散としている。
そこへやってきた目的は、もちろん『マテリアルチェンジ』によって魔物を従魔にすることである。
ただ、その前に同テクニックで動植物を魔物に変換して、なおかつこの上なく弱らせるという手順を踏まなきゃいけない。
そこら辺の問題については、現在の魔力レベルは3.3ということもあり、一分以内なら時間を巻き戻すことも可能なため、前回来たときよりも遥かに上手くいくだろう。
とはいえ、俺と同レベルの魔物に変換しちゃうと弱らせるのも一苦労だ。しかも狂暴化したら魔力レベルが少々上がるため危険だってことで、今回は下位の中でも比較的弱い魔物で試すつもりだ。
「『マテリアルチェンジ』」
「グギギッ……!」
俺はまず、蟻を変換した魔物――キラーアントにそれを試すことにした。魔力レベルはちょうど2の魔物なので、試すにはちょうどいい相手だ。
『インヴィジブルブレイド』等のテクニックを使うと一瞬で倒してしまうため、念力で巨大蟻を浮かせては落としてダメージを与える、というのを繰り返す。魔力レベルに差があるため、面白いように決まる。
「ギギィッ……」
そうやってキラーアントの体力を少しずつ削り、限界まで弱らせていく。その目印となるのは、魔物が狂暴化したときだ。
「――ギイイイイイイイイッ!」
「お……」
キラーアントの動きがやたらと機敏になったので、俺は早速従魔に変えるための『マテリアルチェンジ』を実行に移す。
著しく弱ってるために、巨大蟻は何度も木々や岩にぶつかって死んだが、俺はそのたびに『マンホールポータル』を使い、限界まで弱らせた直後に戻って従魔変換に再チャレンジする。
正直、魔物を弱らせる作業を省けるのでかなり楽だ。他のテクニックと比べて気力はかなり使う感じだが、それでも魔力レベル3.3なだけあってそこまで負担は感じない。
「……ギギ……」
ん、キラーアントの激しい動きがようやく止まったと思ったら、ウィンドウが眼前に出てきた。
『キラーアントが従魔になりました』
おお、本当に従魔変換に成功したんだな。それもたった数時間ほどで。時間を戻せなかったら一週間かかっても無理だったかもしれない。
「回れ」
「ギッ」
試しに命令してみると、キラーアントはクルッと華麗に一回転してみせた。魔物は動物と違って頭が良いというだけあって、人間の言葉も普通にわかるみたいだな。中々やるじゃないか。
「よーし、褒美に名前もつけてやろう。お前の名前はキラだ。これからよろしくな」
「ギィッ!」
キラが目を輝かせながら元気よく応えるのを見て、俺は思わず頬が緩んだ。自分の従魔になった途端、情が移るのか魔物としては見られなくなるのが不思議だった。
その調子で、次は樹の魔物デーモンウッドを俺の従魔に加えてやった。魔力レベルはキラーアントよりも0.2高い2.2だ。
「今日からお前の名前はウッドだ。よろしくな」
「フオオッ!」
ウッドが枝を震わせながら応えると葉っぱが落ちてきて面白い。ここで二匹の能力を『レインボーグラス』で見てみよう。
名称:【キラ】
魔力レベル:2.0
魔物ランク:下位
特殊能力:『毒攻撃・小』『高速移動・中』『嗅覚・中』
名称:【ウッド】
魔力レベル:2.2
魔物ランク:下位
特殊能力:『自然回復量向上・小』『再生・中』『擬態』
もうちょっと従魔を増やしたいところだが、とりあえず今回はこの二匹だけでやめておくとしよう。無暗矢鱈と従魔を増やしすぎると、名前を覚えるのも大変になりそうだからな。そうだ、アイラとロゼリアにも見せてやるか。
「――ル、ルード様、これはなんでしょう……?」
「い、一体全体、なんなのだ……!?」
早速この二人を森へと連れてきたわけだが、キラとウッドを見て驚愕している様子。まあそれも当然か。普段魔物がいないはずの静かな森に魔物がいて、さらに俺の従魔になってるわけだからな。
「そんなに警戒しなくても大丈夫だ。二匹とも俺の従魔だよ」
「そ、そうなんですね……」
「ふえぇ……」
「キラ、ウッド、挨拶してやれ」
「ギギッ」
「フオォッ」
「「ひゃっ……!?」」
キラーアントのキラとデーモンウッドのウッドが、触覚と枝でアイラとロゼリアの体を擽り始める。もちろん俺が事前に命じたようにやってくれてるんだが、二人とも効きまくってるのか逃げだしてしまった。ちょっとやりすぎたか?
「……はぁっ、はぁぁ……ル、ルード様、これはあまりにも擽ったいです……! まるで、魔物の親玉みたいですよ……!?」
「……ふ、ふぅぅ……ル、ルードよ、変な趣味があるのはわかるが、それは私と二人きりのときにやってくれたまえ……!」
「……」
いや、そこは二人の言葉に『断じてない』、と言い返したいところだが、二人が泣き笑いしてる姿を見てちょっと楽しかったこともあり、苦笑いするだけに留めておいた。
その後、俺たちはキラーアントの背中に乗って森の中を高速移動したり、デーモンウッドの上で休んだりと、従魔のいる生活を堪能するのだった。
「というか、ルード様って【テイマー】みたいですね」
「うむ。アイラよ、私もそう思っていた。というか、【テイマー】でもここまで言うことは聞かんぞ。下位とはいえ、魔物をこうも簡単に懐かせるとは……」
「え、簡単じゃないの?」
「「いやいや……」」
二人によると、魔物たちは気性が激しく人間に懐きにくいので、普通はこんなにすんなりいかないのだと教えてくれた。【テイマー】が毎日調教することで、ようやく言うことを少しずつ聞いてくれるレベルなんだとか。
そういや、原作でもそんな設定があったような気がする。
ってことは、元々俺の役目が悪役貴族だっていうのが大きいんだろうか? なんかそういう闇の属性みたいなのがあって、魔物たちはそれを敏感に感じ取ってるのかもしれないな。そういう意味でも得をしているといえるんだろう。
さて、充分楽しんだし、日も暮れてきたこともあって屋敷へ帰るとするか。といっても従魔を連れていくわけにはいかないので、俺は彼らを『マンホールポータル』で異次元の収納室へと送り込んだ。
さすがに屋敷内で従魔を闊歩させるのは目立ちすぎるからな。自室に置くとしてもメイドたちに覗かれるリスクはあるし、もし誰かに見られたらここぞとばかり弟のクロードらが俺を国賊扱いしてくるのは目に見えてる。
なのでキラとウッドを従える場合、当分の間はこういう誰も来ないような場所だけになると思うが、それでも狩りの御供としてとても優秀のように思えるので充分だった。
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