第2部 久子は語る(4章) 日本に到着 キャデイーとして働く
第4章 日本に到着 キャデイーとして働く
日本に到着
〈もう仕方がない。自分も日本に行って働く他に道はない〉。2週間考えに考えた末、銀行の上司に相談して退職届を出し、残る二郎、真由美、それに身体の弱い兄、一夫の妻とその子達2人の取りあえずの暮らしの段取りをつけて15日目には機上の人となりました。身も心もぼろぼろでしたが、疲れたといっている暇はありませんでした。大勢の出稼ぎの人達と乗った飛行機が飛び立ったのに〈行く、降りたい、行く、帰りたい〉と心は迷いに迷ったままでした。飛行機にはキャデイーとして同じゴルフ場で働く予定の18歳から49歳までの仲間15人が乗っていました。
2. キャデイーとして働く
日本に着いた翌朝、私達は6時50分に会社のバスで初出勤しました。今までの心労と長旅の疲れから、安心できる環境なのに一睡もできず、重い身体を引きずっての初日はくたびれました。日本語は両親の存命中はよく耳にしたし話もしたのですが、亡くなってからはほとんど 日本語での会話らしき会話はしていなかったので始めは喋り辛かったです。
ブラジルでは一流の銀行員としての誇りもあったのでキャデイーの仕事はとても悲しく辛かったです。でも慣れてくるとお客さんに出会えるのが嬉しくてだんだん楽しくなってきました。
杉山を切り開いて作られた約138万㎡、18ホールのゴルフ場は気持ちがいい。〈座り仕事よりは野山を駆け回るこの仕事は身体にいいわ!ブラジルから一緒に来た人や日本の人とも仲良く仕事ができることは何と幸せなことだ!〉と思いました。汗だくで帰ってシャワーを浴び、一人でゆっくり休める部屋がある、ベッドがある、そして、御飯がおいしい。仕事はきついが慣れるにしたがってほんとに楽しくなりました。有難いと思いました。
(筆者注)
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久子さんの周りには常に人がいました。久子さんが座るとスーッと人が集まる。ブラジルから一緒に来た二世の人はもちろんのこと、日本人もいました。アルバイトの高校生も大学生もいました。久子さんには人を惹きつける何かがあるのです。その中の1人((日本人)は余り多くを語らない寮生でしたが、彼女がたまたま事故当日に、一夫君が救急車で運ばれてきた病院に来ていて、まさか亡くなったとは知らず、入院になったら毎日寮と病院との連絡役になろうと思っていたと後日聞きました。誰もが久子さんのファンなのです。(注終わり)
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私はクリスチャンなので毎晩どんなことがあってもお祈りは欠かしたことがありません。 ’どうぞブラジルに残した家族が無事でありますように’、 ’日本に来ている兄さんと一夫と私をお守りください’と祈りました。月2回はブラジルに長距離電話をかけました。電話代は高くつきますがやっぱり家族の声が聞きたい。20歳の真由美は、直ぐ涙声になって「ママ、早く帰ってきて~」と電話口で泣くのです。
来たばっかりなのにどうして帰れるものかと思いました。 (第4章 終 )
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