第2部 久子は語る(5章 ’親類探し’後半)

 第5章 親類探し (後半) 

 日本で働く長男の一夫、兄の幸一それに私の3人は、働いた毎月の給料からブラジルの次男に仕送りをして住宅と店舗を購入したのです。次男が貸衣装店を営んでいます。私は帰国して衣裳の補修をするのが夢なのです。12月には長男と一緒に帰国するが彼は再来日する予定です。久子には生活の基盤がブラジルにあり日本に留まるわけにはいきません。だからこそ今自分のルーツを辿ってみたいのです。


 その後、記者が親類の名前を手掛かりに捜してくれた結果、父のいとこにあたる人物が足利にいることが判明したのです。また晃の父勘太郎さんはすでに亡くなり、茨城に勘太郎さんの孫のお嫁さんがいてお墓があることも分かりました。私は〈父やおじいさんを詳しく知る人を紹介されて昔の話をたくさん聞きたい〉と感激したのでした。私はあの時の嬉しさ、喜びはどう表現していいか分からない、まさに天にも昇る気持ちでした。


 父や祖父を詳しく知る小野崎さんは東京に住んでいました。ひょっこり電話をしたにもかかわらず当時の出来事をつい先日起こったかのように話してくださいました。当時小野崎さんは久子の父となる晃さんといずれ結婚するはずでした。でも両親も晃さんもブラジルに行くということであり、その時小野崎さんはまだ九つで〈そんな遠いところに行くのは嫌だ!〉と言って親類の家に逃げて行ったと話をしてくださいました。その電話をしている時私と冨さんは受話器を交互に渡しあいながら話を聞きました。Y新聞記者のHさんのおかげで関東に大勢のいとこたちがいることが分かりました。和歌山の親類は一夫の事故を新聞で見て「ひょっとしたら久子さんあなたの息子さんじゃないの?」と電話をかけてきてくれました。

 突然の不慮の事故で亡くなった一夫の通夜の席で、私はいとこたちの中に、一人は ’髪の毛が薄いところ’ もう一人は ’しゃがむ姿’ がギョッとするほど父に似ていたことを思い出していました。

 年の一番近いフミちゃんとは、自分と声も指の恰好もそっくりでした。私は遺伝の力を実感して、通夜という悲しみの場ではありましたが、一方で大変な喜びをも感じました。


 筆者は新聞記者・たずね人担当者の方々が、短期間に久子さんの親類を見つけてくださったことに心から感謝しています。  (第2部 第5章 終)












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