Page3 ひっつき虫なかえでさん
翌日、九月二日。
校長の長ったらしい挨拶と夏休み中の部活動生の活躍による表彰を聞き流し、生徒会長モードのかえでの話に耳を傾け、その声に聞き惚れることになる始業式の日。
ただそれだけの二学期初日は、特に大きな事件もなく半日で放課となった。
クラスメイト達は皆、数個の集団を形成して教室から出て行く。
受験生と言うこともあり、聞こえてくる話題はどれも勉強がらみ。
(俺も今日は大人しく帰るか……)
ということで、そろそろ帰宅しようと席を立ったところで、教室の前方から声がかかる。
「失礼します。高浜せんぱい、いらっしゃいますか?」
聞き慣れたその声の主は、当たり前だがかえでだった。
放課後で生徒会の仕事も終わったのか、それでも今は学校内ということもあり、後輩モードでそこに立つ。
「かえでか。なにかようか?」
「はい。せんぱいと一緒に帰ろうかなって思って、こうして足を運んだ次第です!」
「そうか」
俺は努めて平然とした態度で(内心では嬉しく思うが、それを表に出さないように)かえでの横を通り抜ける。
「……なに突っ立ってんだよ」
「……へ?」
「ほれ。帰るんだろ?」
と、階段に差し掛かったところでかえでがついてきていなかったので、ふり返って声をかける。
すると、まるでひまわりを思わせるかのような笑顔を浮かべて、
「……うんっ!」
とうなずくと、小走りで俺の元へとやってくる。
そのままの勢いで俺の左腕に抱きつき、「にへへ~」と、先ほどとは比べものにならないほどに魅力的な笑顔を浮かべる。
「ったく……。危ねえだろうが」
なんて言ってみるものの、かえでの表情には一切悪びれる様子がない。
つまり、かえでにとっては通常運転なのだ。
かえでが
それでも、歩くたびに伝わってくるぬくもりや感触、髪からただようシャンプーの良い匂いがくすぐったくてドキドキするのは変わらない。
「ね、みっくん。お昼まだだよね? どっかで食べてから帰ろ?」
校門を出たところで、幼馴染みモードに切り替えたかえでが聞いてくる。
「そうだな。今日ぐらいは良いだろ」
「やったー! そんじゃそんじゃ、駅の近くに新しくできたカフェにれっつごーだよっ!」
そう言ったかえでは、最寄り駅の方向へ進路を取った。
数分後、俺たちは駅の近くまで来ていた。
「あ、ほら。あそこ!」
そういってかえでが指差す先を見てみると、確かにそこにカフェがあった。
ちゃんとした食事も提供しているそのカフェで昼食をとり、駅前の古本屋を冷やかしてから自宅へ帰る。
「そんじゃ、また明日な」
「うん、また明日ね」
かえでといつもの挨拶を交わして、俺は自宅に入る。
玄関で靴を脱ぎ、洗面所で手洗いうがいを済ます。
自室に入り、ドアを閉める。
そしてそのままドアに背中を預け、ズルズルと座り込む。
帰宅中ずっとかえでが左腕に抱きついていたため、未だにその熱と感触が残っている。
「…………」
胸に手を当てると、脈打つ鼓動が速いのがよくわかる。
かえでへの気持ちに気づいてからは、ずっとこの調子だ。
「はぁー……」
落ち着けようと息を吐くけど、それが収まる気配はない。
……仕方ない。
ドクドクと脈打つ鼓動をそのままに、制服から部屋着へと着替える。
もう一度胸に手を当てると、その鼓動はいつもより少し速い程度だった。これならもう大丈夫だろう。
気分を切り替えて、机に向かって勉強をすることにした。
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