Page2 夏休み最終日の夕飯にて
事の発端は、父さんの一言だった。
「すまん瑞樹! 明日から約半年の間、長期の出張が入ってしまい、俺と母さん、両方とも家を空けることになった」
夏休み最終日の九月一日。日曜日だというのに朝から両親ともに仕事に向かったため、少々訝しげに思っていたのだが、案の定というかなんというか、夕飯の前に父さんが頭を下げながらそんなことを言ってきた。
「そうなん?」
「そうなのよ。ごめんね、瑞樹」
母さんに聞くと、本当に申し訳なさそうにそう言ってきた。
「となると、半年の間この家に俺ひとりか……」
半年という明確な期限付きで、出張という表現を取ったことを考えると、この家を手放すことはなく、ともすれば俺がついていく必要性も皆無だ。そもそも俺は受験生で、県内の大学への進学を希望している以上、この街を離れるわけにもいくまい。
となれば、必然的に俺はひとり暮らしをすることになる。
その不安を滲ませたつぶやきに、両親は動きを止める。
「……そういえばそうだな」
「……そういえばそうね」
わーお、流石夫婦。息ぴったり!
……なんて言っている場合ではない。
別に、ひとりでは何もできないわけではないが、一つの不安要素が先ほどのつぶやきを引き出したと言っても過言じゃない。
実は俺、料理が下手なんです。それも、「ド」がつくほどに。
小学生の頃から
そんな俺にとれる選択肢など、スーパーやコンビニで弁当を買うか、出前かOvereatを利用するぐらいに限られる。
俺としてはそれでもいいと思っているのだが、父さんはともかく、栄養士の資格を持つ母さんは絶対に許さないだろう。
特に、俺が三年に進級してからは、毎日の三食に加え、間食に関しても徹底的に管理されている。
母さん曰く、「常日頃から気をつけておけば、受験当日に体を壊すこともないでしょ」とな。
まあ、特に実害があるわけではなく、おかげで体調面でも不調が現れることはないので助かっているから、文句なんて出るはずはない。ないんだけど……。
「その間のご飯はどうするのさ」
「そうねぇ……。それが一番の、心配なんだけど」
そう言って母さんは、右手を顎に添えて、左手はそれを支えるようにする。
おっとりとした母さんが、考え事をしているときによくするポーズ。
母さんの隣に座る父さんは、横目でそれを見て呆けている。どうやら見とれているようだ。
「ま、食事については母さんの指示に従うつもりだし……ごちそうさま」
そうこうしているうちに食べ終えた俺は、そう言って席を立つ。食器をキッチンの流し台へと引き上げて、自室へと向かおうとしたところで声がかかる。
「明日の夜までにはどうにか考えておくわね~」
「うい~」
そういうことで、俺の夏休み最終日は終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます