Page4 「わたしがみっくんのお世話をしてあげるね!」
どれだけ目の前の問題集に意識をさいていたのか。時計を見ると、示されていた時刻は午後六時半だった。
(結構やったな……)
ググッ……と体を伸ばし、そのまま背もたれに体を預ける。
ピンポーン!
タイミングを見計らったかのようにインターホンのチャイムが鳴る。
「はいはーい」
こんな時間に誰だ? と思いつつ、一階に降りて玄関の扉を開ける。
「……あ、みっくん。やっほー」
そこにいたのはかえでだった。
「なんのようだ?」
「あれ? もしかしてなにも聞いてないの?」
「? ……ああ、なにも」
俺の疑問に疑問で返してきたかえで。
不思議に思いつつも、誰からも何も聞いていないので素直にそう答える。
するとかえでは、「あれ……? おっかしいなぁ?」とつぶやいたかと思うと、
「とにかく、今日の晩ご飯はわたしが作るから!」
そういって俺の横をすり抜け、うちに入る。
どういうことかさっぱりわからん。
未だにはてなが浮かぶ俺に見向きもせず、かえでは勝手知ったるといったようにリビングに入る。
リビングを通ってキッチンへと向かうかえでの背中を追うように、俺もリビングに入る。
そこで気づいたのだが、かえでは左手にトートバッグを、右手に食材らしきものが入ったエコバッグを持っていた。近所のスーパーで買ってきたのだろう。長ネギがこんにちはしている。
状況がつかめないままの俺を置いてけぼりに、かえではてきぱきと夕飯の準備を進めていく。
その様子を見ながら、俺は今度こそ答えを聞き出そうとかえでに訊く。
「……それで? なぜお前が俺の夕飯を作ることになったんだ?」
「あ、そういえばそうだったね」
かえではポケットからスマホを取り出し、すいすいっと操作を行った。
「……ほい! これを見ればわかると思うよ」
そう言って俺に見せてきたスマホには、チャットアプリ「Rain」のトークウインドウが開いていた。
相手の名前は「梓さん」……つまり、俺の母さんだった。
内容は以下の通り。
梓さん:かえでちゃん、少し良いかしら?
かえで:はい! なんでしょうか?
梓さん:瑞樹のことでね……
かえで:みっくんがどうかしたんですか?
梓さん:今日から約半年の間、瑞樹の世話を頼みたいのよ
かえで:みっくんのお世話……ですか?
梓さん:そうなの。私と旦那に半年の長期出張が入っちゃってね。
それで、家を空けることになって。
ほら、瑞樹って料理が壊滅的じゃない?
かえで:ああ……。そうですね……。
梓さん:それで、私がいない間、どうしようか考えていたら
かえでちゃんがいたことを思い出してね。
もしよかったら、おねがいしよっかな……って。
かえで:なるほど……。
わかりました! わたしでいいのなら、引き受けますよ!
梓さん:ホントに? 迷惑じゃない?
かえで:はい! 大丈夫ですっ!
梓さん:それじゃあ、おねがいするね。
そちらのご両親にも話は通しておくから。
あと、重ね重ね悪いんだけど、洗濯とか掃除とかもよろしくね。
かえで:わっかりました!
みっくんのことは、全てわたしにお任せください!
梓さん:さしあたっては、今日の夕飯からおねがいするわね
かえで:はーい!
梓さん:ふふっ。
それじゃ、いろいろと頑張ってね♪
……なるほど。そういうことか。
朝、俺より一足早く家を出た母さんが嬉しそうというか、楽しそうな顔をしていたのもつまりはこれを企んでいたからか。
全てを理解した俺が顔を上げると、それはもうニッコニコな笑顔でかえでは選手宣誓といわんばかりに、
「ということで。今日から約半年の間、わたしがみっくんのお世話をしてあげるね!」
そんなことを言うのであった。
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