第1話♡「何度でも受けて立つよ♡ ざこのお兄ちゃん……♡」
俺の妹が最近めちゃめちゃ冷たい。
妹の名前は
事あるごとに俺にべったりしてきたし、俺が友達と一緒に遊ぶときは「ついていくー!」と言って聞かなかったし、低学年の頃は毎晩「くらいの、こわい」と言うものだから一緒のベッドで寝ていた。瑠璃は俺の腕を抱き枕にして寝るので、あくる日の朝は俺のパジャマによだれが染みていることもしょっちゅうだった。
当時は、やれやれ困ったものだぜ、と思っていたがそれも今となっては、尊い記憶だ。
それがどうだ。
中学一年生になった瑠璃は……
朝、俺と家のリビングで鉢合わせるだけで、こうである。
「うわ、朝からお兄ぃの顔見ちゃった、サイアク」
俺がちょっと話しかけるだけで、こうである。
「うっさい。話しかけんな、バカお兄ぃ」
俺が洗面所で歯磨きしているだけで、こうである。
「わたしが使うんだけど。邪魔」
俺は。
つらい。
俺は瑠璃のことが大好きだ。それなのになんだこの仕打ちは。
瑠璃は忘れてしまったのだろうか。「おおきくなったらお兄ちゃんとけっこんする!」と言ってくれるくらいに可愛かった頃の思い出を。
つらすぎる。
昔のような仲良し兄妹に戻りたい……
そう……
どんな手を使ってでも……!
◇◇◇
――準備を整え、いざ出陣。
俺は家で瑠璃を探し、リビングにあるテレビの前のソファでくつろいでいるのを見つけると、それとなく同じソファの端に座った。
案の定、瑠璃はキッと睨んでくる。
「は? 近づかないでよ」
「なあ瑠璃、催眠アプリって信じる?」
「……何言ってんの?」
俺はスマホを取り出し、まだ起動はせずに、手元に置く。
「俺さ。今から瑠璃に、アプリで催眠をかけようと思うんだ」
「は??」
「なんかいつの間にか俺のスマホに入ってたんだよ。催眠アプリが」
「え、待って何?? 催眠??」
「事前に言っておきたくて。騙すような卑怯な真似はできればしたくないし」
「何それ。催眠をかける時点で卑怯でしょ。いや、催眠って何? お兄ぃが遂に壊れた」
「正々堂々と催眠アプリを使って、瑠璃を独り占めしたいんだ」
「イミフ」
スマホのロックを解除し、アプリを立ち上げる。
「あのさ、お兄ぃ。無駄話なら帰れよ。土に。ってかだいたい催眠なんてあるわけないじゃん。まあ、試してみれば? どうせ何事もないから。ちなみに、わたしは今ので既にお兄ぃのことをめっちゃ軽蔑しましたー。ゴミ以下だと思ってまーす」
「そんなひどいこと言うなよ」
催眠モード、ON。
瑠璃に、サイケデリックな光で歪んだスマホ画面を見せた。
「そんなこと口では言ってても、ほんとうは《俺とマリカーで遊びたいだろ?》」
……どう、だ。
どうだ?
どうなんだ……!
「は……?♡」
マリオカート催眠をかけられた瑠璃は……
めっちゃ目をとろんと蕩かせて俺とSwitchを交互に見た!!
「は???♡ 催眠とか言ってやることがそれ?♡ つまんな♡ お兄ちゃんってやっぱり意気地なしなんだね♡ わたしがマリカーやりたいのなんて当然でしょ♡ ……??あれ?♡ ちがっ……♡ な、なんでわたし……違うから! ただ単にマリカーで遊びたいんじゃなくてぇ……♡」
瑠璃がテレビをつけ、Nyantendo Switchを起動する。
「お兄ちゃんとだから、遊びたいんだもんっ♡ ……????♡」
「うおおおおお!!!!!! 俺もずっと瑠璃と遊びたかったぞおおおお!!!!!」
俺たちは、にゃん天堂のレースゲーム・マリオカート
「俺はメタルマリオを使うぞ、瑠璃っ!」
「わたしはキングテレサにするー♡」
「コースはレインボーロードにしようぜ! 俺と瑠璃の……仲直り記念に架かる、虹の道だっ!」
「は?♡ きっしょ♡ そんなことしなくたって、お兄ちゃんとわたしは今までもこれからも、ずぅーっと仲良しだし♡」
「レーススタートだ瑠璃! やべっお兄ちゃん気合入れすぎて入力ミスった! ロケットスタート失敗しちゃったぜ!」
「くすっ♡ ざこじゃん♡ 言っとくけど、手加減なしだからね♡ 覚悟して♡」
「うおおおお無限キノコで追い上げだあっ! 追いついてみせる!」
「後ろに甲羅投げちゃお♡」
「ぐあああっ! やりやがったな瑠璃!」
「はい一位~♡ あれあれ~? お兄ちゃんは~?♡」
「くっ……さ、最下位だ……!」
「ぷぷぷ♡ ざぁーこ♡ よわよわゲーマー♡ 妹に惨敗して恥ずかしくないのぉ~?♡」
「くっそ~! もう一回だ!」
「何度でも受けて立つよ♡ ざこのお兄ちゃん……♡」
この後もめちゃくちゃレースした! HAPPYYYYYYYYYY!!!!!!
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