第21話 RTA
「よし、始めるか」
俺は久しぶりの配信に少し、緊張しながら伸びをする。
前回の配信では狂化スキルがバレたり、ビジネス狂人なんて言われて散々、視聴者に遊ばれた。
その後、また配信をするにあたって俺は少し悩んだ。
このまま、今まで通りの狂人バーサーカー系配信者としてやっていっていいのか、それとも路線変更してまともな人間としてやっていった方がいいのか。
しばらく悩んだ末に俺が出した結論は、今まで通りやっていくというものだった。
俺は配信開始ボタンを押す。
「うっす、お前ら久しぶりだな」
“キタァァァ”
“久々の柊の配信や!”
“なんや、この前の配信で十分、お金稼ぎできたから、配信もう辞めるんかと思ったわ”
“狂人モードか?”
“流石に、狂化スキルのことがバレたから、もう狂人としてやってくのは無理だろww”
自分でも、かなり俺の本性が視聴者にバレていることは理解している。
それでも、滑稽に見えるかもしれないけれど、俺は狂人を演じ続ける。
多分――そっちの方が視聴者にとって面白いだろうから。
それに今までずっと狂人やってきたんだ、今更、路線変更してどうするんだよ。
ここまできたら、死ぬまで狂いきってやろうじゃないか。
「さてと、今日はいつもと違った面白い狩りしていくぜ――その名も下層到達RTAだ」
“なにそれww”
“ダンジョン配信で初めて聞く言葉なんだけど”
“あれ? ゲーム配信だったっけ、これ?”
「実はここはいつもの西東京ダンジョンじゃなくて、もう少し田舎の方の奥多摩ダンジョンなんだが、今日はここで何分で下層に到達できるか、挑戦してみる」
“正気じゃねえ……”
“そういえば、いつもとなんか風景違うな”
“背景が森なんだけど”
“待って、奥多摩ダンジョンってまさか、あの奥多摩ジャングルか?”
ここ、奥多摩ダンジョンは俺がいつも活動している西東京ダンジョンと少し違うのだ。
西東京の方は普通の迷路型ダンジョンであり、石で作られた通路と部屋が延々と続くだけだ。
それに対して奥多摩ダンジョンは全階層が広大なジャングルであり、そのあまりの広さと高確率で迷うことから奥多摩ジャングルと呼ばれている。
「奥多摩ダンジョンの下層到達RTAなんだが、ルールが3つある……1つ目がボスはちゃんと倒すことだ」
つまり、俺は上層と中層の間と、中層と下層の間にいるボス2体を絶対に倒さないといけないということだ。
「2つ目は完全にソロで挑むこと……そして3つ目が見つけたモンスターは全て倒すことだ」
“は?”
“草”
“見つけたら全員殺すってことか”
“RTAなのに、スルーしちゃダメなのかよww”
「到達RTAとはいえど、ダンジョン探索なんだからモンスターはちゃんと倒さなきゃRTAにならないだろ?」
この企画は俺が少し配信をしていなかった間に考えついたものだ。
RTAとはリアルタイムアタックの略称であり、目標を一つ建て、それをいかに速く達成できるかで競うものである。
主にRPGなどのゲームで使われる単語であり、攻略の速さよりも死なないことが何より重要視されるダンジョンには無縁の言葉のはずであった。
“ついに本当に狂ったのか?”
“見つけたモンスター全部って馬鹿なん?”
“本性がバレてヤケクソになってるなら落ち着いた方がいい。こんなの自殺行為だぞ!”
“おもろいから続けてくれ”
¥10000“こういうのを待ってた”
「10000円感謝!……ヤケクソとか狂ってるとかコメントがあるけど、俺はこの前の配信のヤケクソでこの企画を考えたわけじゃないぜ。俺は本気で出来ると思ったからこの企画をやろうと思ったんだ」
確かに普通の人から見たら狂っているように見えるだろう。
いくら狂人の演技とはいえど、常人は演技でも何百体もののモンスターの群れの中に突っ込んだり、叫びながらモンスターをぐちゃぐちゃになんてできない。
普通なら命が惜しいはず、普通ならグロテスクな光景に嘔吐くはずだ。
つまり、俺は視聴者たちが思っているほど、まともじゃない。
それなら、その姿を配信で見せれば嘘をつかずに、狂人バーサーカー系配信者に俺はまた戻ることができるんじゃないだろうか。
そう考えたのだ。
“柊ならいけるか”
“ビジ狂で有名だけど、普通にクソ強いもんな”
“この人ってそんなに強いの?”
“それでも頭おかしいだろww”
“どれくらいの時間を想定してるんだ?”
「目標時間は、上層から中層までが4時間、中層から下層まで行くのに6時間かかるとして……とりあえず、10時間以内だな」
広いダンジョンでは泊まりがけで何日か使って攻略していくことも少なくないが、俺には〈ショックブラスト〉を使った高速移動がある。
それに、普通の中層モンスター程度には遅れは取らない実力はあると自負している。
「てなわけで、俺の準備はもう万端だし、今から下層到達RTA開始していくぜ?……よーい」
俺はスマホのタイマーアプリのボタンに手をかけ――
「〈ショックブラスト〉」
そんな言葉と爆風と共に、下層到達RTAは始まった。
この時、俺は知らなかった。
この挑戦があれ程まで波乱に満ちたものになるということを。
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