第22話 嘘だろおおおぉぉぉぉぉ!!!
「ブモォォ!」
突然、前方の草むらからガサガサと音がするとグレーボアが現れた。
グレーボアは灰色の毛並みをしている猪のようなモンスターであり、目が赤いのが猪との違いだ。
そうこうしていると、グレーボアは少し後ろに下がり……助走をつけて物凄い勢いで突進してきた。
「よっと」
ひらりと、俺はその突進を避けると、すれ違いざまに手刀を首にお見舞いしておく。
すると、そのままグレーボアは地面に倒れこみ、ドロップ品であるグレーボアの肉と魔石を残して消えた。
俺は上層では極力、〈ショックブラスト〉を使いたくなかった。
スキルを使った戦闘は通常の戦闘より多くの体力を消費するため、モンスターの弱い上層では、なるべくエネルギーを節約してボス戦や移動にエネルギーを割きたいのだ。
「ちなみに、今、7層目くらいだよな?」
ダンジョンは基本的に10の倍数の階層がボス部屋であり、そこを超えるとモンスターの強さが大きく変わることから、10層ごとに上層、中層、下層、深層と分けられている。
“そうだな”
“もう、7層目かよww”
“速すぎてまだ、2層目くらいの気分なんだけど”
“まだ、開始してから2時間しか経ってないってマ?”
2時間か……。
初のジャングル型のダンジョンともあって苦戦したものの、時々〈ショックブラスト〉で爆速で移動しているからか、予想よりも早く移動できていた。
この調子であれば4時間も使わずにボス部屋に到達しそうだな。
それなら――
「ちょっと寄り道するわ!」
俺はスマホに表示されている地図に記された最速ルートから外れ、草木をかき分けながら別の方向へ進む。
スキルを使わずに戦闘しているとはいえ、今回の戦闘数は20回……流石に少し疲れてきており、このまま体力を消耗し続けるのは少し不安だ。
このダンジョンの上層と中層の間のボスは倒すのが面倒臭いことで有名であり、なるべく万全の状態で戦いたい。
そのため、俺は一つの賭けに出た。
“え?”
“RTAで寄り道ってそれはRTAじゃねえだろ”
“そもそも道ですらない場所通ってて草”
“いや、こいつなんか企んでるだろ”
腰ほどの高さがある草木をかき分け、視界を阻む枝葉を超えて進んでいく。
「どこだ……?」
確か、マップのここら辺だったはずなんだけどな……。
俺が辺りを見渡すと葉と葉の間に色褪せた石レンガを見つける。
「あれか!」
そこには半径2mほどの草木が一本も生えていない開けた空間があった。
そして、その中心には石で作られたテーブルと、その上に乗った木製のお椀が置いてある。
“なにそれ”
“テーブルとお椀?”
“隠しギミックか”
“何かをお椀の中に置けってことなのか?”
そう、これは隠しギミックと呼ばれるものであり、仕掛けを解くことで隠し宝箱などの報酬を得ることができる。
確か、この隠しギミックはモンスターの魔石を置くと解けたはずだ。
まあ、今回は宝箱には用はないんだけどな。
実は隠しギミックにはもう一つ特徴がある。
「えっと……これでいっか」
俺は周りを見渡し、程よい大きさの石を拾い上げる。
そして――
「ほい」
お椀の上に置いた。
すると、俺の立っている地面が危険を知らせるように赤色に点滅し始めた。
“絶対に違うじゃんww”
“ヤバいヤバい”
“石なわけなくて草”
“てか、なんかヤバそうじゃね?”
隠しギミックのもう一つの特徴……それは間違えるとトラップが発動するというものだ。
「この隠しギミックのトラップは9層への強制転移……つまり、俺にとってはショートカットになるんだな」
昔、よく見ていたダンジョン配信者がこの隠しギミックで間違えて木の実をお椀に置いたせいで強制転移させられたのを俺は覚えていた。
今回はそれを逆手にとって9層へショートカットしようとしたわけだ。
点滅する地面から赤い魔法陣が生まれる。
「……え? 赤い魔法陣?」
確か、転移魔法陣って青色だったはずじゃないのか。
それにこの模様は確か――
気づいた時にはもう遅かった。
この場を離れるために、地面を蹴り上げようとするも、なんの手応えもなく俺の足は空振る。
地面がなかったのだ。
「嘘だろおおおぉぉぉぉぉ!!!」
そんな断末魔は、縦穴にただ虚しく響き渡るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます