第13話 見知らぬ人に対して150万円のポーションを分けてあげる親切で謙虚な凄く強い探索者




 俺はダンジョンに入ってすぐのところでカメラを飛ばし、配信開始ボタンを押した。


「あー、あー、聞こえてるかー? じゃあ今日もテキトーに配信始めていくわ」


 俺はいつも通り、配信に無気力な感じを演じながらカメラに向かって話しかける。


 そして、燃えていないことを祈りながら俺は恐る恐るコメント欄を見ると……


 “草”

 “ワロタ”

 “流石に無理あると思う”

 “お!、通りすがりの親切で凄く強い人じゃん”


 それは地獄であった。

 こうなれば俺がするべきことはただ1つ。


「お前ら何を変なこと言ってんだよ。普通に配信始めてくぞ」


 何を言われてもシラを切り続けてやる!


 “うわ、シラ切り始めたぞ”

 “柊、残念ながらお前のあの映像は全世界に拡散されたんや”

 “日本トレンド1位おめでとう!”


「は?」


 俺は意味のわからないコメントが目に入り、困惑の声を口から漏らす。


「日本トレンド1位?!……いや、お前ら嘘も程々にしてくれよ、そんなことあるわけねえっつうの」


 “え、見てないのか?!”

 “知らなかったのかよww”

 “現実逃避しようとしてて草”


「いやいやいや、俺も有名になったけどまだ登録者30万人だぜ? そんな奴がトレンド1位とか流石にありえないから。騙そうとするのはやめてくれ」


 日本トレンド1位って……トレンドというネット上でとんでもない数を呟かれた単語の中でも一番、呟かれているものってことだぞ?


 そんなに凄いものに登録機30万人の俺がそんな簡単に乗るわけないだろ。


“登録者50万になったよ”

“おめでとう、金の盾まで折り返し地点だね!”


「は? と、登録者50万人? そんなわけ……」


 何を言っているんだ、こいつらは……と思いながら俺は急いで自分の動画投稿サイトのチャンネルを確認すると――


「嘘……だろ?」


『チャンネル登録者:55.4万人』


 そこには、そう表記されていた。


“あ、間違えたわ、登録者55万人だったね”

“本音漏れてて草”

“こいつおもろすぎるww”

“そもそも、いつもと違って、ちゃんと会話が成立している時点でシラ切りきれてないんだよなぁ”


「だ、だとしてもトレンド1位は嘘に決まってるッ!」


 俺は急いで超有名SNSアプリを開き、トレンド欄を確認する。


『日本のトレンド

 1位 #ビジネス狂人

 3位 #柊』


「な、なんだよ、ビジネス狂人って……まさか俺のことか?!」


“ええ、そうです”

“おっ、同接もいい感じに増えてきたなぁ”

“同接2万人おめでとう!”

“めっちゃ焦ってるの草”



 チラリと同接2万人というワードが目に入ったがもう、驚く気力すら俺にはなかった。


 トレンド1位に登録者55万人……同接2万人。

 ああ、やばい、頭がクラクラしてきた。


「ちょっとタンマ、カメラとマイク切るわ」


 俺は端末を操作し、映像も音声も配信に入らないようにする。


 そして――


「どうしようどうしよう……!!!」


 俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。


 シラを切る気、満々だったのにまさかのトレンド1位だ……驚きのあまりシラを切るどころではない。


 ていうか、なんで俺の登録者増えてんだよっ!


 ふざけてるのか?絶対にふざけてチャンネル登録してるよな?

 そして、しばらくしたらみんなで一斉に登録解除してくるんだろ? 俺にはわかるぞ、お前らの魂胆がなぁ!


 俺は流れるコメントを見ながらこれからどうやっていくか考える。


 もし、今から配信スタイルを変えても今まで俺のバーサーカーっぷりを見にきていた視聴者のほとんどはきっと離れるだろう。

 そうしたら残るのはここにいる性格の悪い奴だ。


 絶対に嫌だ!


 ならば俺がやるべきはただ一つ……言い訳をして今後も同じスタイルでやっていくということ。


「あーあー、お前ら聞こてるか? まあ、聞こえなくてもいいわ、いつも通りにモンスター狩っていくから」


“ごめん、流石にそれは無理がある”

“Take2始めようとするなww”

“こいつ、この短時間で記憶なくしたか?”


 チッ、しれっといつも配信に戻る作戦は失敗か。


「いやさぁ、お前らそれって人違いじゃねえの普通に……俺が親切で凄く強い? 凄く強いのはそうだが、親切なわけねえだろ」


“謙遜してて草”

“初見です! 柊さんって親切で凄く強くて謙虚な人なんですね!”

“もうなんか、いつもは戦闘マシーンみたいで怖い柊が今日はめっちゃ可愛く見えてきた”


 人違い作戦も無理か……。

 ならば最終手段を使うしかない!


「とにかく! 俺はお前らが言っているような人物なんかじゃねえからっ! はい、てなわけでいつも通り配信していくぞ」


 最終奥義――ゴリ押しだ。

 俺がゴリ押しをし、ダンジョンの探索に入ろうとした時だった。


緋色ルリ“昨日助けてもらった配信者の緋色ルリと申します、昨日はありがとうございました! お陰様で無事にあの後、逃げ帰ることができました!!!”

“草”

“本人様キター!!!”

“これ本物か?ww”


「昨日……助けてもらった?」


 俺の脳裏に昨日の美少女配信者がよぎる。


 あんたも敵かよっ! 頼むからあんただけは味方であってくれよ!

 え、助けてもらったんだよね? ねえ恩あるよねぇ?!


 だが、昨日、何も説明せずに爆速で去ったのは俺なので強く文句は言えないが……。


緋色ルリ“ポーションなども分けてくださりありがとうございました! 今度ポーション代の150万円をお渡ししますね”

“いや草”

“あのポーション150万円もしたのかよww”

“これ、本人だとしたら最高のタイミングすぎる”

“見知らぬ人に対して150万円のポーションを分けてあげる(New)”

“つまり、見知らぬ人に対して150万円のポーションを分けてあげる親切で謙虚な凄く強い探索者ってわけだな”


 いや、俺の要素増えすぎだろ!

 それに凄く強い以外、全然狂人っぽくねえ!……それどころかただの優しい探索者じゃねえか?!


 俺は時間が経てば経つほど増えていく大量の狂人と真逆のイメージに、頭を抱えるのであった。




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