第12話 ヤケクソだァァァ




「ど、どうして……」


 そもそも、なんで俺はあんな明らかな場違いの機械であるカメラに気づかなかったんだ?

 俺は目を凝らしてカメラを注視すると――


「あれって3000万円くらいするやつ……じゃね?」


 俺はそのカメラを配信機械を探しているときに一度見たことがあった。

 光学迷彩に消音飛行、火竜のブレスにも耐えられる耐久性のある超高級ドローンカメラであった。


 そうか、光学迷彩が起動していたから俺はカメラに気づかなかったのか。

 だが、そんな高性能で高額なカメラを持てるということは……


「少なくとも、俺よりは登録者がいる配信者じゃん」


 不味い不味い不味い……!

 同接が数人しかいない配信者であればどうにでもできるが、俺よりも人気の配信者となれば誤魔化すことは容易ではない。


 それは半年前の出来事でよくわかっていた。


「どうかしましたか?」


 俺が一人で頭を抱えていると、配信を終えた少女が心配した顔で近寄ってくる。


「少し顔色が悪いように見えるんですけど大丈夫ですか?」


「あ、ああ……いやぁ、なんでもない……です」


 今、彼女に頼んでアーカイブを消してもらってもそれは俺が狂人配信者の柊だということを言っているようなものだ。


「あんなに激しく戦ったのですから、疲れているのかもしれませんね」


「そ、そうですね。結構、スキルも使いましたし疲れたのかもしれないですね〜、あははは」


 だから、今、俺がやるべきことは――


「というわけで、俺は先に帰りますので!」


 ただ現実逃避することだ。


 ああ、もう知らねえ。

 もしも、これで『詐欺だ』『失望した』だの言われて収益が減ったって視聴者がアンチになったって今日の俺には関係ない。


「〈ショック〉」


 俺は息をするように詠唱すると


「え、待っ――」


 引き止めるような声が聞こえた気がするが……きっと気のせいだろう。

 俺は転移魔法陣のある部屋まで爆走し、何も考えずにダンジョンから脱出する。


 そして、帰る途中でもう一度コンビニに寄り、コーラとポテチとカップラーメンを購入する。


 カロリー?肌荒れ?……何それ美味しいの?


 俺はその後、大量の通知を全て無視し、死んだように眠った。




 ――――――




 ――ブルルルブルルル


「ん……」


 俺はずっと鳴り続ける電話で目を覚ました。


「そうだ俺……昨日、人気配信者の配信に映り込んで――」


 この電話はそれ関係の電話だろうか?

 視聴者は俺の電話番号なんて知らないから、確実に視聴者ではない。


 じゃあこれは――


「ダンジョン協会?」


 どうしてこんな朝っぱらからダンジョン協会から電話が来るのだろうか。

 俺は首を傾げながら電話に出る。


「はい、柊です」


『柊さんっ! ようやく電話に出てくれました……!』


 その声は昨日も聞いた声だった。

 電話の先にいるのは上野さんか。


「どうかいたしましたか?」


『柊さん、昨日の配信、拝見させてもらいました』


「え……?」


 昨日の配信……絶対にあれだ。

 あれ以外考えられない。


 俺は電話を切るかどうか少し悩んだ。


『あ、柊さんのことではなく、中・上層に現れたSランクモンスターであるブラックフェンリルの話ですよ?』


「な、なんだ……」


 俺は通話切断ボタンの上から手を退ける。


『昨日のあの件からどうしてか、西東京ダンジョンで現れるモンスターの数が大きく減少しました』


「そういえば、俺が下層に忘れ物を取りに戻った時も一回もモンスターに遭遇しませんでした」


 あれは確かにダンジョンの明らかな異変である。


『ですので今回は柊さんに西東京ダンジョンの調査をお願いしたく電話しました』


 その言葉に俺は少し驚く。

 まさか、ダンジョン協会が正式な探索者ではない俺に直々に依頼を出してくるなんて……。


「今回は調査の依頼なんですね」


『はい、私達としてはなるべく、正式な探索者に依頼を出したいところなのですが、多くの高ランク探索者が北海道の大型ダンジョンの攻略に行っている今、機動力が他の探索者に比べて段違いに高い柊さんに調査を頼むのが良いと判断いたしました』


「つまり、何かあったら俺は全力で逃げればいいってことですね?」


『はい、そういうことになります』


 なるほどな。

〈ショックブラスト〉はただでさえ、使い方次第で縦横無尽に動くことができる上に俺は短縮詠唱を身につけているため、さらに速い頻度で動くことができる。


 逃げることに関してはSランク探索者レベルかもしれない。


『そして、もう一つそれに伴ってお願いがあります』


「なんですか?」


『柊さんには西東京ダンジョンを調査している間、配信をつけていて欲しいのです』


「……はい?」


 確実にアンチまみれになっている状況で俺に配信をしろというのかこの人は。


『実は上の方が柊さんが正式な探索者でないため、依頼を出すのを渋っていまして……そこで柊さんの情報を確かめるために配信をつけて欲しいのです』


「じゃ、じゃあ、ダンジョン協会にだけ配信すればいいんですね?!」


『いえ、それが情報の信憑性を上げるために一般の視聴者にも配信して欲しいとのことです』


 どうやら、ダンジョン協会は本当に悪魔らしい。

 もしも、俺がこの依頼を断れば確実に信頼関係に傷がつく。


 それは今後、ダンジョン探索者として稼ぐことを考えている俺にとって致命的な問題であった。


「わかり……ました、やりますよ、やってやりますよ調査も配信も!」


もう火の車であっても知らねえ。

ヤケクソだァァァ!!!






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