神様のオフデー、または「初めてのたこ焼き」
瑞葉
神様のオフデー、または「初めてのたこ焼き」
「真由香姉さん、今日は杏奈ちゃんはいないんですかぁ」
莉子はのんびりと商店街を歩きながら、真由香に聞く。
真由香というのも仮の名前で、本当は自分のところの神社の「蛇の水神様」だと、神社の跡取り娘の杏奈が言うのだけれど。莉子は生来のおおらかさから、あまりそのことを気にはしていない。
「わたくしは、今日は莉子ちゃんと話したい気分なのです」
神様然とした妙な言葉遣いを「今日は」やめている。真由香は秋の始まりを思わせる藤色のブラウスを着ている。
九月の日曜日の、晴れた午後だった。
「ここのたこ焼きですよぉ。真由香姉さん。食べてみてくださぃ!」
莉子は、五人ほど行列のできている屋台の店舗を指さした。
「あら、本当。いい匂い」
真由香はくんくんと、高い鼻で匂いをかいでいる。
「いい休日になりそうです。莉子ちゃん、ありがとうございます」
にこりと笑う真由香の笑顔は、高校生の自分たちと何ら変わらないのに、本当に神様なのかしら。莉子はそう思う。
莉子のツインテールの髪が、ふわりと九月の風にあおられた。
見上げると、空がガラスのように透明で、綺麗だ。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「杏奈なら、優希さんとでえとですの。わたくしが杏奈に『ついてる』と、ふたりのお邪魔ですので。こうやって、莉子ちゃんをお誘いしたのです」
真由香はそう言いながらも、たこ焼きを「熱いっ」と声を立てて美味しそうに頬張っている。
「かつお節が『踊ってて』いいですね」
長い黒髪が海風にあおられるのにちょっとだけ眉をしかめながらも、パックのたこ焼きを六個、またたくまに食べてしまった。
ここは、海岸沿いの「いるか公園」のベンチだ。小さな「いるかの像」がシンボルの、市民の憩いスポットだ。
「今頃はあのふたり、どうしてるのでしょうね」
ベンチに座って空を見上げながら、しんみりと真由香は言う。いわし雲が広がっている、晴れた海のような空だ。
「なにか、『悪いこと』をしてなければいいのですが。心配です」
「悪いこと? ふたりが?」
莉子はよく理解ができず、真由香に聞く。真由香はうふふと笑うと、
「莉子ちゃんがわからなければ、かまいませんの」
と言いながら、ペットボトルの烏龍茶を美味しそうにごくごくと飲んでいた。
神様のオフデー、または「初めてのたこ焼き」 瑞葉 @mizuha1208mizu_iro
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