第9話 さあこれからどうする?

ここは僕が新しく引っ越してきた新居のラウンジ。

ゆっくりお茶をしたりするだけでなく、ワークスペースや小さい会議室などもある。



「こ、今回は、本当にお世話になりました。矢ヶ崎さん」


僕は対面に座る彼女にお礼を言う。


なぜ僕と矢ヶ崎さんがこうやってお茶をしているのか、それは僕が変な夢を見て目覚めた日まで遡る。






い、癒しが足りない・・



分かっていた、分かっていたさ。でもそろそろ限界だ。癒しがなーい!

音楽聴きたい!アニメや漫画がみたい!


でもこんな色んなことが違う異世界じゃ・・・


「ポイズン!!」


って違う違う。遊んでる暇ないんだわ。

今は保護局の言いなりにならなくていい方法を考えないと。


それからしばらく考え、煮詰まってきたので癒しを求めたが、この世界には僕の愛したものは無い。と言う負のループに潜り込んでいたんだけど・・・。


「あれ?僕のスマホ、こんなんだっけ?」


ふと目に入ったスマホ。自分のものであることには間違い無いのだけど、その時は何故か違って見えた。そして、何となく画面を触り、ディスプレイを表示する。


「もういいや、この世界の音楽でもいいから、僕を癒してくれぃ」


そう言いながらミュージックプレイヤーのアプリを起動する。すると


「ええっ!?元の世界の曲が入ってる!?」


なんとびっくり、スマホの中には僕が愛してやまない元の世界の音楽たちが入っているではありませんか!

再生も問題なくできた。

でも、何でだ??そういえば夢の中で誰かと話して、元の世界の音楽が聞けないのが辛い的なことを話た気がする。でも、夢だしな??


「まあ、考えても仕方ない。それに、これで思いついた!この世界に、元の世界の曲を広める動画投稿者になろう!」


ノリで言ったが、中々いいのでは?元の世界の音楽なら、この世界の人達と同じものになるわけが無いもんね!


「でもさすがに、この曲をパソコンに取り込んでそのままアップロードっていうのは人としてやばいよな」


考えた結果、作曲アプリで音源を作成し、それを僕が歌う。という事にしようと思う。女性が歌っている曲は、キーをいじるか、僕の声を加工するか、あ、元の世界にあった曲を歌ってくれるAIみたいなアプリを使ってもいいかも!

そして収録したそれを編集してアップロードする。

作詞作曲は元の世界の人達の名前を、編曲に僕の名前を加えさせてもらおう。

うん、楽しくなってきた。

えっ?譜起こし出来るのかって?

ふっ、ふっ、ふっ、実はですね、僕絶対音感を持っているんですよ。それで曲を譜面に起こして遊んだりしてたんです。

まぁ、作曲の才能はなかったから既存の曲ばっかりだったけどね。

宝の持ち腐れってやつですな。コミュ症陰キャに部活は無理!音楽系とか、特に人間関係ドロドロしてるって聞くし。


と、話が逸れた。

そんなわけで、パソコンに作曲用のソフトを入れて、作業開始!


本来ならばもっと試行錯誤しながらの作業になったかもしれない。だけど、このスマホのおかげで原音を聴きながら譜面に起こせる。効率が上がりまくりだ。

もしこれが神様からの贈り物なら本当にありがとうございますって感じ!

まぁ神様見たことないけど。


そうして作業すること数時間。ちょうどひと段落着いた時、家のチャイムがなった。


扉を開けると男性保護局で会った、研究所の所長さんがいた。


「ど、どうしてここに?」


所長さんは頭を下げたあと。


「いきなりの訪問、申し訳ありません。少々お話をよろしいでしょうか?」


それから立ち話もなんなのでと、近くにある男性でも安心して利用出来る個室のある喫茶店で、話をすることになった。

僕は抹茶ラテをご馳走してもらった。

所長さん、矢ヶ崎さんの話では、あの婚約者のリストに載っている人間のことは全く知らされておらず、保護局長の独断である可能性が高いとの事だった。局長は政治家達と太いパイプがあり資金などの援助も受けているらしい。そして、リストに乗っている人間たちは、僕と結婚、もしくは僕の子供を産むことで僕を自分の勢力に取り込み、発言力等を強めたいということみたいだ。特に山中春子という農林水産大臣は総理大臣の座を狙っており、今回の件で、とても僕に執着しているみたいだと聞いた。

知らんおばさんから粘着される恐怖を味わったことがあるかね?やべーぞ?

そういうこともあり、矢ヶ崎さんは抗議をしたらしいのだが、なあなあにされ、そのまま退職に追い込まれたらしい。

これからの身の振り方を考える前に僕に謝罪をと思い、ここに来たそうだ。いい人かよ。

もちろん謝罪は受け入れた。そもそもこの人に対して怒る理由は無いしね?

だが局長お前は許さん。あと山中も。


そこで僕は、矢ヶ崎さんにこれからしようとしていることを相談した。

彼女も親身に相談に乗ってくれ、


「それならば、まずはこの家を引っ越した方がいいでしょうね。期限が過ぎれば保護局は汐田さんを確保しに来るでしょう。義務を果たす意思がないとかいくらでも理由はでっち上げられますから。あと、動画を投稿するプラットフォームですが、海外の企業が運営しているものを選びましょう。国内の企業だと国から情報開示の要請があった場合、断れないかもしれませんから。そして、保護局が汐田さんの行方を見失っているうちに動画を投稿しましょう。内容は何故、どんな理由で投稿者になろうと思ったのかというベーシックな物でいいと思います。十分インパクトのある理由ですから。私の予想では、この動画公開の後、炎上騒動が起きます。そうすれば保護局もその対応に追われ、汐田さん探しに人員を人員を割けなるはずです」



と、頼もしすぎるアドバイスまで頂いた。

なので、早速アドバイス通り引っ越しの準備をする事にした。

矢ヶ崎さんによると、引っ越し業者は使わないでください。そこから足がつく可能性もありますからとの事だった。頼もしい。

矢ヶ崎さんも元とはいえ政府の関係者だったせいか、案外スムーズに引っ越し先も決まり、引っ越し作業も一日で終わった。物が少なくてよかった。

退去の手続き等もあるけれど、それはまた後日でいいそうだ。

それからは、ひたすら作業。譜面に起こして、収録し、編集する。

それに加え投稿用のチャンネル名を作るのも並行して行う。しかしそちらは矢ヶ崎さんが手伝ってくれたおかげですぐ終わった。

矢ヶ崎さんは収録用のスタジオなんかも手配してくれて、ほんとに頭が上がらない。

矢ヶ崎さんまじ有能。

その後は初めての動画用の台本作り。

正直これが一番大変だった。

あとは台本どおり喋れるかの練習。

そしてあっという間に一週間が経ち僕は収録に臨んだ。



とまぁ、こういう経緯があったのだ。


「いえ、そもそもご迷惑をおかけしたのはこちらなので、これで少しでもお役に立てたのならば良かったです」


いい人かよォ


「そ、それで、矢ヶ崎さんは、これからどうするんですか?」

「そうですね、新しい就職先を探すにも、この辺りでは石動局長の根回しがされているかも知れませんので、田舎に帰ろうかと」

「そ、それなら!ぼ、僕のマネジメントをしてくれませんか?正直今回の事で、矢ヶ崎さんには何度も助けてもらいました。僕では知らないことや考えが甘いところもあって、矢ヶ崎さんが居なかったらここまで上手く行きませんでした。いえ、もしかしたらこうして安全に暮らせていなかったかもしれません」

「し、汐田さん」

「な、なので裏で僕を支えてくれませんか?も、勿論パソコンでの業務が主になると思うので、在宅で構いません。ま、まあ、まだ収益化も出来ていないので、暫くはタダ働きみたいになってしまうかもなんですけど」

「その点はご心配なく。私も一応は国家公務員のようなものでしたので貯蓄もそれなりにあります。で、ですが私でよろしいのですか?今回汐田さんには多大なご迷惑をおかけしてしまったのですが・・・」

「も、もちろんです!矢ヶ崎さん以外に考えられません!」

「ふふ、そこまで情熱的にお誘いを断っては女の恥ですね。分かりました、今後ともよろしくお願いしますね」

「は、はい!」

「では、さっそくですか今後のことについて少し相談しましょうか」

「は、はい!」


それから僕たちは、今後の活動について話し合ったのだった。

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