第3話

気が付くと、きみの家。


頭が、ふわふわして。

身体も、思うように動かない。


必死に、眠る前の記憶を辿ってみる。


あなたに、貰った薬。

日に日に、飲む量は増えていって。


1瓶じゃ足りなくて。

自分でも、買うようになって。


でも、飲んだ覚えがない。

こんな、動けなくなるまで。


飲んでない。


「あれ?起きた?」


そこに、響いた。

きみの、声。


気持ち悪い、響き方。

不快で、不気味で、不祥で。


全身に、響くような。


「なに、したの…?」


そう、聞いても、きみは答えてくれない。

ただ、気持ちの悪い笑みを浮かべるだけ。


怖くなって。

逃げたくなって。


ふらつく身体を、起こす。


「どこ行くの?」

「やだ、離して…。」


でも、そんな抵抗。

無意味だよね。無駄だよね。


ぼくは、あっけなく捕まって。

同時に、その場に人が増える。


見たことあるひと。

まったく知らないひと。


きみの、友達なの?

なんで、ぼくを見てるの?


そんな疑問と、そんな恐怖が、

頭の中を、支配していても。


時間は、止まってはくれない。


勝手に出てくる涙も。

嫌だと叫んで消えた言葉も。


彼等には、届かない。


そして、


ぼくの、


初めての。


地獄が始まった、


身体に、痛みを感じて。

身体が、勝手に揺れて。


でも、なにも、わからない。


悲しいんだ。

辛いんだ。


でも、もう、意味がわからないんだ。


薬のせいで、きもちいい。

身体の中が、きもちわるい。


なにしてるのか、わからないんだよ。


でも、でもね。

ちゃんと、聞こえたんだ。


聞こえちゃったんだ。


名前も知らない、君が。

ぼくを、可愛いって言ってくれたこと。


壊れちゃった。

壊されちゃった。


ぼくを、壊すなんて、

その一言だけで、十分だったんだよ。


求められてる。

必要とされてる。


それが、ぼくの、心を満たして。


感じちゃった、幸せを。

こんな、ことで。


虚しくて、涙が止まらない。


目の前の君も、

それを見ている彼等も。


そして、ぼくも。


気持ち悪いね。

一緒だね。


目の前の君は、

また別のひとに変わって。


ぼくは、なにもわからずに。

ぼくは、なにもできずに。


ただ、その欲に応えるだけ。


ぼくの、意識は徐々に薄れて。

何人目かな。


暗くなる意識の中で、

見えちゃったんだ。


見たくなかった。


でも、見えちゃった。


視界の端、ぼやける彼等の中に。

傷を舐め合っていた、あなたが居たこと。


(ああ、結局かぁ…。)


結局、あなたの求めることも。

こういうこと、なのか。


理解者ができたと思って。

ぼくは、嬉しかったのに。


彼等の欲で、

どろどろになっていく身体。


君の言葉で、あなたの存在で、

ぼろぼろになっていく心。


そして、なにより、

これを笑顔で見ている、きみ。


(なんで、こんなことするの…。)


届かない声を、きみに向けて。

伝わらないけど、きみを睨んで。


それでも。きみは、

ぼくに、笑いかけてくるの。


おかしいよね。


ほんと、何が楽しいんだろう。


薄れゆく意識の中で。

きみのことを考えたけど。


ぼくは、いつの間にか。

気を失っていたみたいだ。


人間の、抑制反応ってすごいよね。


きみに、襲われた記憶も、

あなたに、抱かれた記憶も。


ぼくには、残ってないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る