第2話

それから、ぼくは。

惰性で生きていた。


他人に、期待し過ぎず。

自分を、信用し過ぎず。


程々に、他人を肯定して。

程々に、他人を否定して。


考えていることなんて、

何もないのに。


自我を持っているフリをして。


興味があるフリ、快活なフリ。

笑うフリ、泣くフリ、喜ぶフリ。


人前では素を出せなくなった。


嫌われたくない。

失望されたくない。


もうぼくは、ぼく自身を好きになれない。


だから、ぼくは、他人に縋る。

いまも、むかしも、ずっと。


他人の感情を、よく観察するようになった。

求められていることに、敏感になった。


そんな、ぼくに。

愛しているって、言ってくれる人が居た。


嬉しかった。


認められたみたいで。


ぼくは、ぼくのために生きてただけ。

ただ、それだけだったのに。


それに価値が生まれたように感じた。


それに価値を付けてくれた。

ぼくのことを愛してくれるコイビト。


だから、ぼくも、返さなきゃ。

だから、ぼくも、愛さなきゃ。


そんな、使命感で。

ぼくは、きみを、愛していたんだ。


「我ながら、酷いかな…。」


だって、ぼくは。

きみを、愛しているわけじゃない。


きみを、愛することで。

ぼくも、愛してもらえるから。


愛している、フリ。


そんな、ところ。


過去のトモダチのことがトラウマで。

きみを信じることが怖かった。


わかってる。


わかってるよ。

こんなの、ただの言い訳。


笑っちゃうよね。

自業自得だよね。


そうやって、きみのことを考えていたから。

ぼくは、きみの愛を信じられなくなって。


ずっと、吐き気がするんだ。

ずっと、眠っていたくなるんだ。


不安定になってしまったぼくに、

きみは、もう嫌になったんだろうね。


きみは、ぼくと、関係を持ったまま。

友達の彼女を抱いちゃったんだ。


馬鹿だよね。


それでも、ぼくに。

愛を囁いてくるんだよ。


気持ち悪いなぁ。

気持ち悪い、吐きそう。


キモイ、キモイ、キモイ、キモイ。


「もう、要らないかも。」


ぼくは、コイビトの友達に真実を告げた。


あなたの、恋人は、

ぼくの、コイビトと浮気をしたんだよ。


あなたは、言った。


「おれ、お前のこと、好きだったんだよ。」


気持ち悪い。って思った、

たぶん。


でも、この時のぼくに愛をくれるのは、

あなたしかいなかった。


よく、あなたと話すようになった。


話して、わかったのは、

あなたが少し病んでいること。


ぼくが、あなたに共感するだけで、

あなたは、ぼくに依存していった。


それが、なんだか、嬉しかった。


あなたは、恋人と付き合ったまま。

ぼくは、コイビトと付き合ったまま。


ぼくと、あなたは。

お互いの傷を舐め合うように堕ちて。


ぼくは、あなたが居ないと、

眠れなくなってしまった。


「最近、寝れてないの?」

「うん、まあね。」

「おれも寝れなくて。」

「一緒だね。」


あなたは、おそるおそる。

ぼくに、小さな瓶をくれた。


「ちょっと、多めに飲んだら寝れるよ。」


ぼくは、それを、受け入れてしまった。

それを、嬉しそうに眺めるあなた。


ぼくらは、今日も偽りの愛を囁き合う。


でも、あなたは、

ぼくの名前を呼んでくれない。

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