愛と、闇の、深淵に。

シノイロ。

第1話

幼い頃から、何が愛なのか分からなかった。


両親からも、親戚からも、

好かれていた方だと、思う。


でも、そんなのは、ただの血の繋がりで。

この繋がりが無くなれば。

みんな、ぼくから離れていく。


そんな意味のない不安で、

ぼくはいつも眠れない。


だから。


だから、他人から与えられるものが、

ぼくにとっては心地よかった。


ぼくのことを好きって言ってくれるトモダチ。


毎日のように一緒に遊んで、

毎日のように色んな話をした。


「ねぇ、雫涙しずなちゃんはどう思う?」

「わかる!ほんとに考え方似てる!」


きみは、いつも。

ぼくの考えてることと同じことを言った。


一緒に居て、すごく楽だった。

一緒に居て、すごく心地よかった。


まるで、ぼくの全てを理解してくれる。

そんな存在に巡り合ったみたいで。


ぼくは、ぼくは、幸せ。だったんだ。

だから、きっと、きみも。


「ねー、これ面白くない?」

「え、なにそれ…。」

「は?なに引いてんの?」

「だって、それ…。」


きみが、見せてきたのは。

クラスメイトの女の子を虐める動画。


けらけらと、笑う彼女を見て。

ぼくは、ぞっとする。


きみと、ぼくが、同じなら。

ぼくも、きみと、同じように。


(…笑わなきゃ。)


ぼくは、ぼくの感情を押し殺して笑った。


だって、笑わなきゃ。

笑わなきゃ、誰がぼくを理解してくれるの。


ぼくと、同じ立場で、

ぼくを、理解してくれた、きみ。


それなら。


きみと、同じ立場で、

きみを、理解するのが、ぼくの役目。


雫涙しずなちゃんも、やろうよ。」


でも、きみは。

だんだん、ぼくから離れていくの。


「一緒に、虐めようよ。」


なにを、言っているのだろうか。

なにに、誘われているのだろうか。


もうぼくは、きみの言葉を

理解できなくなっちゃって。


「ごめん、そういうの無理。」


初めて、ぼくは。

きみと、反対になった。


「はぁ?!雫涙しずなちゃんなら分かってくれると思ったのに!!」


きみは、目を見開いて、

ぼくを、怒鳴りつける。


ぼくが、悪かったのかな。

きみを、理解できない、ぼくが。


理解できなくても、

理解したフリをすればよかったのかな。


後悔と、困惑が、ぼくを押し潰す。


また、ひとり。

独りになった。


「もういいよ、ばいばい。」

「…うん、ばいばい。」


そう、どんなに楽でも。

どんなに心地よくても。


きみにとって、ぼくは他人で。

ぼくにとって、きみは他人で。


あんなに心地よかった他人という存在が、

気持ち悪くなって吐き気がした。


あんなに、仲が良かったのに。

あんなに、ずっと一緒だったのに。


きみの後ろ姿を見ても、

涙すら、出なかった。


「なんだ、所詮、こんなもんか…。」


心が、ふっと軽くなった気がした。


もう、気を使わなくていいんだ。

もう、話を合わせなくていいんだ。


きみとの友情より、

ぼくだけの感情を優先したようで。


自分のことが嫌いになっていく。


ぼくは、他人からの愛を欲しがるくせに。

ぼくは、他人より自分の感情を優先する。


愛されたいのに、愛せない。


愛したいのに、愛せない。


変わらない、きみが好きだった。

変わってしまった、きみが嫌いになった。


「誰か、愛してよ…。」


見返りの無い愛は。


この世に1つしか存在しないことを、

ぼくは痛いほど知っている。


血の、繋がり。

生物学的に、世間的に、認められたもの。

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