第2話 -灯り-



1日後——


意識が戻り、目を開けると、見慣れた藍鉄色の壁と床がぼんやりと視界に入った。


昨日彼奴が言った、『明日の為に』が頭の中で何度も反芻される。それが何を意味するのか、分からない。ただ、その言葉だけが僕の心を支配し、他のことは何も考えられなかった。


そうしていると昨日のようにあの灯りと音が迫って来る。

ランタンの淡い光が、白髪の三つ編みをほのかに照らし返す。


「兄さん、今日は……」そこで言葉を切り、凍てついた手で、僕の前腕部と側腹部に付けられている、無数のひび割れが走り、湿気と汚れが染み込んだ鎖を掴んで、立カチリと四度音を立てると、同時に解放感が広がった。


「うん、これで良いね。」

何が起こったのが分からなかった。

鎖を外したのだ——

再び口を開く

「一緒に寝ようか。」

その顔には悪魔のような笑みが浮かんでいる。

「は……?」

唐突すぎて言っている意味が理解できなかった。

「何を呆然としてるのさ、早くこっちに来なよ」

僕の腕を引っ張り、強引に外へ連れ去ろうとする。だがその行為に断固拒否するかのように、腕を自身の身の側に引き戻す。


「 何故、急に連れ出そうとする?何を企んでるんだ?……………兎に角、お前と一緒に寝るのは御免だ!」

大声は、牢獄の壁に何度も反響した。しかし、それとは対に、静かな声が返ってきた。

「違うよ、兄さんが思ってるのとは違う。」

その瞳は深淵の様に暗く深く、吸い込まれそうになった。


「兄さんは明日、処刑される。」


その言葉は頭の中で何回も反芻された。

「…………そう……なのか。」

僕が発した声には、安堵と切なさが微かに混じっていた。心の中でも、複雑な感情が渦巻く。


「だからさ、最期くらい共に時を過ごそうじゃないか。」


ランタンは時計の秒針のように揺れながら場を照らす中、手を差し出した。

此奴と一緒には寝たくない……が、このまま牢獄の中に居てもいつもと変わらないか………


1つため息をつき、こう言った。

「最期くらいなら、一緒にいてやってもいい」明るい灯りの中へと歩み寄り、手を重ねた。


今だけはランタンの明かりが希望の光のように眩かった。放たれたその声は、この牢獄で響く最後の言葉となった。

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