占い②

 一通りこちらの愚痴を聞き終えたデビーナは、一束のカードを取り出した。交差して結んである紐を解き、ある程度シャッフルすると、ずぶ濡れの机の上に並べていった。


 一瞬ギョッとしたが、どうやらこのカードは濡れても良い素材で出来ているようだった。確かに、露店でこんな商売をしている以上、雨対策は必須なはずだ。カードは縦、横、斜めと複雑に並べられており、ノラキスにはその法則性を見出せなかった。


 しかし当のデビーナは、この作業を終えるや否や、間髪を入れずに「なるほど」と呟く。


「分かりました。どうやらあなたの不運の原因は、前世にあるようです」


 唐突に出てきた『前世』という言葉に、ノラキスは怪訝の表情をする。


「前世のあなたの運回りが強すぎたせいで、現世のあなたの運かなり細ってしまったようですね。運とは、ある程度良かったり悪かったりを繰り返すものなので、あまりに幸運が長く続き過ぎてしまうと、反動で不幸の状態も長くなってしまうのです」


「……へー。何か、良いやり方はあるのか?」


 ノラキスの問いに、占い師は答える。


「改名してはどうでしょう? 前世のあなたの名前を、今のあなたが名乗るのです。魂は同じはずですので、前世の名前を使うことによって、当時の運気が戻ってくると思いますよ」


「前世の名前なんて、どうやって調べるんだ?」


「差し支えなければ、今から透視いたしますよ。右手を出していただけますか?」


 言われた通りにすると、彼女は並べたカードの中から、太陽を模した絵の描かれたカードをその上に置き、それらを挟み込むように両手でノラキスの手を握った。


(おっ……)


 思わぬ展開に一瞬たじろいだが、すぐに冷静さを取り戻した。



 なるほど、悪くない。まあこれで占いの結果がデタラメだったとしても、払った分の代償はもらったようなものだ……。


 いささか不純な思いがよぎりだした頃合いに、占い師は再び口を開いた。


「見えました。今からあなたの前世の名前を読みあげますので、しっかり覚えてください」


「おっと。わかったぜ」


 占い師は小さく頷くと、言った。



「それでは参ります。あなたの名前は……


寿限無寿限無五劫の擦り切れジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ海砂利水魚の水行末雲来末風来末カイジャリスイギョノスイギョウマツウンライマツフウライマツ食う寝るところに住むところクウネルトコロニスムトコロ藪柑子の藪柑子ヤブラコウジノブラコウジパイポパイポパイポのシューリンガンパイポパイポパイポノシューリンガンシューリンガンのグーリンダイシューリンガンノグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのグーリンダイノポンポコピーノポンポコナの長久命の長助ポンポコナノチョウキュウメイノチョウスケ……です」



 ……。

 ……。

 ……です、じゃねーんだよ。



「ふざけるな。一体どこの世界に、そんなアホみたいに長い名前があるんだよ」


「……そう、おっしゃいましても……」


「それに、その名前を使って運が良くなったとしたら、来世はもっと最悪な運になるってことじゃねえのか?」


「それは……その通りです」


 ノラキスはため息をついた。


 ダメだ。

 やっぱり、占いってのは、

 こんなもんか。


「話にならん。帰る」


 ノラキスは呆れ、お釣りがないようにキッチリ料金を机に置くと、踵を返した。


「あ、すみません」


 慌てた様子の声が後ろからした。彼はデビーナの方へ振り返り、まだ何かあるのか尋ねた。彼女は少し切り出しにくそうにしていたが、程なく言った。



「……延長料金分も、払っていただけますか?」

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いろんな寿限無が異世界転生。 小曽根 委論 (おぞね いろん) @IRONNOVELS

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