モテるための努力、AIChatスタイル!
「……マジか、これがモテるための第一歩ってことかよ」
俺はスマホの画面をじっと睨みつけた。
そこには、頼りにしてる羅針盤……もとい、AIChatからのアドバイスが冷たく表示されている。
『自信を持つこと。見た目を整えること。まずは外見を変えることが最初のステップです。特に体型改善は有効です。』
「ふざけんなよ、やっぱ外見かよ……」
ため息をついたが、内心じゃ分かってる。
いくら「中身が大事」とか言っても、結局、見た目が大きな要素を占めるんだ。
大学時代、周りのやつらが次々に彼女を作る中、俺はただの傍観者だった。「俺は別にモテなくてもいい」って言い聞かせてたけど、佳代子と冬次に再会してからはその言い訳も通用しない。
俺は決意を固めた。
「よし、やるか……!」
まず最初のステップ、外見を整えること。特に体型。
鏡の前に立つと、くたびれたシャツを着た中年太りのおっさんが映ってる。髪はボサボサ、無精ひげもそのまま。俺、こんな姿で毎日外に出てたのか?
「うわ、ひっでぇな……」
反射的に鏡を背にする。
だけど、これが現実なんだ。
「……体型、か……」
ため息を吐きながら、俺は自分の腹を見下ろす。明らかに出てきた贅肉。確かに、俺は運動なんてほとんどしてこなかったし、最近はデスクワークが続いて体がどんどん重くなっているのを感じていた。でも、まさかこんな自分がジムに通うなんて想像もしていなかった。
「でも、変わるためにはやるしかないか……!」
俺は一念発起し、ついにジムの予約を取った。
そして、運命の日がやってきた。
「あ、やべぇ……本当に行くんだよな、俺」
初めてジムに行く日は、思った以上に緊張していた。駅前に新しくできたジムを予約したのはいいものの、実際に足を運ぶとなると、色々な不安が頭をよぎる。
「俺みたいな初心者が行っても、笑われねぇかな……?」
運動なんて大学の体育以来だし、器具の使い方だって全然わからない。周りのマッチョたちに混ざって、太った自分が場違いなんじゃないかって考え始めると、気持ちがどんどん重くなってくる。だが、AIChatが言った「自信を持て」という言葉が頭の中をリフレインする。
「とにかく、行くしかねぇ……!」
俺は何とか自分を奮い立たせ、ジムへ向かうことにした。道中、何度か引き返したくなる気持ちを抑えながら、重い足を前に進めた。ジムの扉を開けると、汗と鉄の匂いが鼻を突く。受付の前に立ち、ドキドキしながらスタッフに名前を告げる。
「た、田中ひゅっ修司です!」
しまった! ここに来て盛大に噛んでしまった。
しかしスタッフは何事もなかったかのように続けてくれる。
「初めてのご利用ですね。器具の使い方とかご案内しますね」
スタッフの優しい笑顔に少しだけホッとしたが、これから本当にやるんだと思うと、まだ緊張が解けない。
案内されたのは、ジムのメインエリア。大きな窓から自然光が差し込み、広いフロアに整然と並ぶトレーニングマシンやバーベルたちが、まるで俺を試すかのように見えた。
「これが……ジムか……」
周りを見渡すと、すでに汗を流している人たちが黙々とトレーニングを続けている。彼らの筋肉は明らかに俺とは違う。俺なんて、たゆんとした腕とだるんと出てきた腹……完全に場違いだ。
「やっぱり、帰るか……」
一瞬、そう思ったが、ここまで来て帰ったら本当に負け犬だ。俺は深呼吸を一つして、まずは軽い器具を使ってみることにした。スタッフに教えてもらった通り、まずは腕の筋肉を鍛えるマシンへ。
「えっと、こうだよな……?」
椅子に座り、両腕でハンドルを握る。重りの設定を一番軽くして、ゆっくりと押し始める。意外とスムーズに動いた。正直、最初はこれぐらいでいいんだろう。最初の一回、二回はスムーズだったが、徐々に腕に負荷がかかってくる。5回、6回……最後の方は腕が震え、顔に汗がにじんできた。
「くそっ、こんなにキツイのかよ……!」
俺は汗を拭いながら、何とか10回をクリアした。それでも、周りの人たちのトレーニングを見ていると、自分が全然ついていけてないのがわかる。彼らは重たいバーベルを軽々と上げ、ランニングマシンでまるで風のように走っている。自分だけがこの世界に馴染めていないような感覚が、心に引っかかった。
「……だめだ、考えるな。続けるしかないんだ」
次に挑戦したのは、ランニングマシンだ。さすがにこれなら、俺でもできるはずだ。速度を低めに設定し、ゆっくりと走り出す。心臓が少しずつ早くなり、呼吸が荒くなっていく。汗が額を伝い、ジム全体の熱気が体にまとわりついてくる。
「ぜぇっはぁ……これも意外と……ギツい……!」
最初は大したことないと思っていたが、5分も経たないうちに息が切れ始めた。周りの人たちはまだ涼しい顔で走っているのに、俺だけがもうバテバテだ。
「……情けねぇな」
だけど、ここでやめたら今までの自分と変わらない。俺はもう、何もかも諦めて、流されるだけの自分を捨てたいんだ。だから、もう一度深呼吸して、足を前に出す。少しずつ、少しずつペースを上げると、気持ちが軽くなっていくのがわかる。
これだ……これが、変わるための第一歩なんだ……!
ジムでの最初の体験は、予想以上に過酷だったけど、やってみてわかった。自分がどれだけ弱いかを知るのも、強くなるためのスタートラインだ。
あれから5ヶ月が経った。前の俺とは、もう全然違う。鏡の前に立って、改めて自分の体を見つめる。
「……これが、俺の体かよ」
腹筋はくっきりと割れ、腕も筋肉質になってる。特に力を入れると、上腕二頭筋がしっかり浮き上がる。
以前の俺は、どこか自分を隠すように生きていた。太ってて、だらしなくて、堂々とした姿勢なんて夢のまた夢だった。
でも今は違う。5ヶ月間、必死にやってきた結果がここにある。
最初は辛かった。本当にキツかった。あの時、ジムに行ったのが初めてで、機械の使い方すら分からず、周りに気を使いながらトレーナーのアドバイスを受けて、なんとかバーベルを持ち上げた。
鏡に映る自分の姿を見て「これは無理かもな……」と何度も思ったけど、そのたびに俺は、佳代子と冬次の顔を思い出してた。
変わらなきゃ、俺の人生、ずっとこのままだ……。
そう思うたびに、俺はダンベルを握りしめて、もう一度持ち上げた。最初は30キロが限界だったけど、今じゃ70キロ近いバーベルを普通に持ち上げられるようになってる。腕だけじゃなく、胸筋や背中も、しっかり鍛えられてきた。
鏡の前でシャツを脱いでみる。お腹の肉は消えて、代わりに割れた腹筋がしっかりと現れている。
これ、俺の体だよな? なんか他人の体を見てるような気がするけど、間違いなく俺だ。
「いやぁ、痩せたな……あの頃の服、絶対着られないだろ」
試しに5ヶ月前に着てたシャツを引っ張り出してみる。袖もゆるゆるで、ウエストなんかぶかぶかだ。笑えてくるほどサイズが合わない。なんか、自分が自分じゃないみたいな感覚だけど、心の奥底には確かな満足感がある。
ジムに通い始めた頃は、もう辞めたくて仕方なかった。筋肉痛で動けなくなって、家に帰ってからもヘトヘト。でも、それを乗り越えた俺が今ここにいる。毎朝のランニングも、最初は死ぬほど嫌だったけど、今じゃ逆に走らないと落ち着かないくらいだ。
「やってよかったな、続けてよかった……」
俺は今、変わったんだ。誰かに証明したいわけじゃない。自分に対して、自分を誇りに思えるようになった。太っててだらしなかった俺は、もうどこにもいない。これから先、もっと鍛えて、さらに強くなってやる。
「よし、今日は背中の日だな。もう一踏ん張りするか!」
ジムバッグを肩にかけ、俺は家を出る。外は晴れていて、太陽が眩しい。5ヶ月前の俺には考えられなかったような軽やかな足取りで、いつものジムへと向かう。
「さぁ、次の俺は、どんなふうに進化するかな?」
「髪型と服装か……」
俺はスマホを片手に、AIChatのアドバイスを眺めていた。筋トレで体はだいぶ引き締まった。だけど、どうも何かが足りない。それは、髪型と服装だとAIに指摘された。確かに、今のままじゃあんまり意味がない。まずは外見を完成させないと。
『自分に似合う髪型を選びましょう。流行りのメンズカットや、清潔感のあるスタイルがオススメです。』
「流行りのメンズカット、ねぇ……」
俺は少し苦笑しながら、続いて表示されたおすすめの髪型の画像を見つめる。短く整えたツーブロックに、軽くセットされた前髪。今までの俺とはまるで別人になる気がするが、こういう大胆な変化が必要なんだろう。だって、これがモテるための道なんだから。
「よし、まずは美容室だ」
俺は美容室を予約し、いよいよその日がやってきた。緊張で少し手汗がにじむ。
美容室に到着し、席に座ると美容師さんが明るく話しかけてくれた。
「今日はどうされますか?」
「えっと……これみたいにしてください。」
俺はAIChatに勧められた髪型の画像を見せる。美容師は少し驚いた様子だったが、「いいですね!」と笑顔で返してくれた。
椅子に座りながら、鏡の中の自分をじっと見つめる。だらしない髪が、次第にスッキリとした形に整えられていく。鋏のリズムに合わせて、今までの自分が少しずつ消えていくような感覚があった。
「完成しました! どうですか?」
美容師の言葉に、俺はゆっくりと鏡を見た。そこに映っていたのは、今までの俺とはまるで違う、どこか自信に満ちた男。軽くセットされた前髪と、スッキリしたサイドの髪型が、俺を引き締まった印象に見せていた。
「……これが俺か?」
驚きと共に、自分の変わりように少し感動すら覚える。
美容師にお礼を言って店を出た後も、何度も鏡で自分の髪を確認してしまう。すごく爽やかで、自分が少し垢抜けたように感じた。
そして、次は服装だ。髪型が変わったなら、当然それに合う服を選ばなきゃ意味がない。AIChatのアドバイス通り、シンプルで清潔感のあるスタイルを目指そう。
ショッピングモールに直行し、AIChatのリコメンドに従って服を選んでみる。
『ぴちぴちの服は、女性にはあまりウケないんです。』
「マジかよ……せっかく鍛えたのに、アピールできないのか……」
AIChatのアドバイスを見た瞬間、俺は思わず眉をひそめた。今まで筋トレして体を鍛えたんだから、それを強調するピッタリとした服が良いに決まってる、って思ってたからだ。でも、次に続く説明を見て、少し納得せざるを得なかった。
『男性の筋肉をアピールするのは効果的ですが、女性はあまり露骨に見せつけられるのを好みません。ピチピチの服装は、自己顕示欲が強すぎるように感じられたり、圧迫感を与えることがあります。それよりも、ゆったりとした服装は安心感やリラックスした印象を与え、女性にとって親しみやすい雰囲気を作り出します。』
なるほど、そういうことか。筋肉を見せればいいってわけじゃなくて、逆にリラックスした印象が大事なんだ。
ピチピチの服だと、相手に対して「自分を見てくれ!」という圧をかけてしまうけど、ゆったりした服なら自然体でいられるし、相手にも余裕を感じさせる。
「男目線で言うと、女性の服が少しはだけた感じがエロいけど、全部見えたらエロくないって言う一部マニアのアレか……」
俺は早速ショッピングモールに向かい、ゆったりした服を探すことにした。これまで自分が避けていたサイズ感の服。スウェットシャツやオーバーサイズのジャケットに目を向けてみる。正直、似合うか不安だったが、AIのアドバイスに逆らうわけにもいかない。
試着室で、ゆったりとしたグレーのスウェットシャツを着てみた。今までのタイトなスタイルとは違い、体のラインを隠すようなシルエット。それでも、筋トレで鍛えた肩や胸はほどよく形を残してくれている。
「悪くない……かも」
試着室の鏡に映る自分をじっくりと見つめる。今までとは違う、ゆるっとしたシルエットのシャツに、スリムすぎないパンツ。少し前の俺なら、「ダサい」と感じていたかもしれないが、今は違う。自分を押し付けるような雰囲気がなく、どこか余裕を感じさせるこのスタイルが、思いのほか気に入っていた。
「これでいいんだよな……」
不安を抱えながらも、店員の「お似合いですよ!」という言葉に背中を押され、俺はそのまま購入を決意。久しぶりに少しだけ高めの服を揃えた。新しいスタイルで外に出るのは、少し緊張するけど、意外と悪くない。
街に出ると、いつもとは違う空気が流れている気がした。今まで感じたことのない視線を浴びているような感覚だ。人混みの中、歩きながらなんとなく周りを見渡すと、ちらちらとこっちを見ている女性たちがいる。
「……え、俺?」
すれ違いざまに目が合う瞬間が増えている。これまでは、誰も俺のことなんて気にしていなかったのに。いや、俺が周りの視線を意識しなかっただけなのか?
いや、絶対に違う。確かに今は、自分が少し垢抜けたと感じている。
歩くたびに、通りすがりの視線を感じるたび、胸の中に小さな自信が芽生えてくる。
「これか……これが“変わった”ってことなんだな」
鏡に映る自分に自信を持つようになった俺は、少しだけ背筋を伸ばして、堂々とした姿勢で街を歩き続けた。服装が変わっただけで、こんなにも周りの反応が変わるなんて思わなかった。服はただの道具じゃなく、自分をどう見せるかの一部なんだって、今になってようやく理解できた気がする。
「よし、この調子で行くぞ……!」
そして、明日はいよいよホームパーティがある。久々にあの二人と顔を合わせる日だ。
成功のルートを外れた俺が見つけたもの @gyusuji29suki
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